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第23話

 どの出し物もすごくて演目全てがキラキラしていて目新しくてあっという間に時間が過ぎて行ってしまい終わる頃にはもっと見たかったという気持ちでいっぱいだった。


「二人共どうだった?」

「もっと見てたかった!」

「あたしも!」

「こういう時は年相応なんだから」


 呆れたとリズが言うので、気が付けばユリアとふど笑っていた。


「もう……とりあえず公演が終わったら客席の掃除しよう。ユリアはどうする?」

「あ、あたしもやります」

「じゃあ、ゴミ袋持っててラナはあっちから掃いて」

「はーい」


 リズがホウキとチリトリ持って来たから返事をしてホウキを受け取った。


 あんまりゴミ落ちてないんじゃない? とか思ったけど、意外と落ちてる。


 リズはユリアと話ながらユリアの近くを掃いてた。


 あたしもさっきまでの余韻に浸りたかったけど、リズとは仕事の時に会うからその時に色々聞いてもいい。


 ユリアはあたしたちが使わせてもらう天幕からあまり出ないからこういう時はちゃんと譲ってあげなきゃ。


 でも、話は気になるからさっさとこっちを片付けてあたしも混じろう。


 今日は片付けだけだけど、移動する前はもっと大変になるらしいから今から覚悟した方がいいって言っていた。


 覚悟って何だろう。筋肉つけておけってことかな?


 あたしには意味がよく理解が出来ない。まあ、それは移動する時になったら分かることだ。


 それより考えることはある。


 あたしたちが逃げ出してから結構経った。


 追っ手がいつ来るのだろうかとそわそわしていたけど、いつまで経っても誰もあたしたちのことを探しに来ない。


 今日、お客さんたちの中で何か知ってる人が居ないかと噂を探ろうとしてたのに、うっかりと出し物に夢中になり過ぎて噂を集めるのをすっかり忘れてしまっていた。


 もうお客さんたちは帰っちゃったから話は聞けないけど、今のところ追っ手もないから安心してもいいのかな?


 ユリアはやっぱり誰かに騙されていたんじゃないかな?


 王子様の名前を語った誰か。


 でも、あんな小屋を城の中に作って誰にも知られないようにしてたんだから、王子様じゃなくても相当身分の高い人。


 そうなると誰だろう。身分のある人で知っているのはラフォン様ぐらいだけど、ラフォン様は礼儀も知らない小娘の話を真剣に聞いてくれた。そんな人がユリアを拐ったなんて考えたくはない。


 それにラフォン様がユリアを拐った犯人だったのなら、あたしを雇うなんてしないはず。


 そんなことをする人が居たのならかなり性格が悪い。


 それに、お城にいた頃に聞いたラフォン様の噂はどれもよいものばかりだったから、ラフォン様がそんなことをする訳がないよね。


 ラフォン様にあの時話をしていれば、あの小屋のことを調べてもらえたかもしれないと思うと、悔しいような気がする。


 だけど、あの時のあたしに出来た最良の選択はあそこから逃げることだけだった。だから、いつまでもうじうじなんかしてられない。


 一応ユリアを拐った人間は王子だと仮定すると、問題はどうやって復讐するかだ。


 ラフォン様だってゼランとミーヌさんがいつもくっついていた。


 王子が一人きりで動くわけないよね? 


 ならば、潜りこむ? あたしの顔はユリアが怪我をする前の綺麗な状態と同じだからすぐにバレる。


 王族には暗殺がつきものだと聞いたことがあるけど、暗殺者なんてどこに行けば会えるのかもわからないし、もし会えたとしても、危ない仕事を頼むんだからそれなりのお金を積むことになるよね?


 そうなるとラフォン様のところで働いたお金だけで足りるかな?


 いや、これはユリアの治療費としばらくの生活費にしたいから駄目。


 ランプル一座にいつまでいられるか分からないけど、今のうちに稼げるだけ稼いで情報を集めたりしとかないと。


 だから今はしっかり掃除をしてあたしが使える人間だと思わせなくちゃ。


 ユリアは怪我のせいで多分これからかなり苦労する。その時にちょっとでも楽出来るようにしてあげたい。


 王子に復讐出来るかもわからないないし、出来たとしてもあたしは多分処刑される。その時にユリアが一人でも生きて行けるように。


「お姉ちゃん! そっち終わった?」

「え? あ、うん。もうちょっと」


 復讐にと意識を飛ばしていたら、ユリアが声を掛けて来た。


 慌てて返事をしたが、いつの間にか手が止まってたみたい。本当にあとちょっとだから、早く終わらせてユリアとリズに合流しなくちゃ。


 その後は何も考えずにささっと掃除を終わらせ、リズとユリアに合流して、天幕を出ればすっかり夜になっていた。


「この後夜の公演があるけど、あんたたちは夕飯食べて戻ってたらいいよ」

「夜の公演はあたしたち見たり、手伝いはないの?」

「子どもはさっさと寝るもんだよ」


 リズはあたしたちのことを子どもだと言うけど、リズだってあたしたちと五つしか違わないのに大人ぶってる。


 ユリアと文句を言ったけど、リズは「文句があるならさっさと成長しなさい」って真面目に取り合ってくれなかった。


 ちょっとぐらい相手してくれたっていいじゃない。


 ユリアには先にあたしたちが使わせてもらってる天幕に戻るように言っておく。


 ユリアも厨房に連れて行っても問題はないと思うけど、公演のある日は人の出入りが多いので一応警戒しておくのも悪くないでしょ。ユリアに何かあったら大変だし、ユリアもあいつらに連れ戻されたくないと頷いていたから。


「おい、新入り」

「?」


 新入りってあたしのことよね?


 天幕の合間を縫うように移動していたらどこからか声が掛かった。


 辺りを見回すと暗がりになっている場所に誰かいた。


 誰だろうと、目を凝らすとケントだった。


 この前はじっくりと見ることがなかったけど、ケントは薄茶色の髪に同色の瞳。前髪の左側を下ろしているが右側は耳に掛かってる。それから額には幅広の柄のある布を巻いている。


 ケントも芸を見せる側の人間なのか整った顔立ちをしている。年の頃はあたしたちよりいくつか上に見えるけど、どうなんだろ?


 リズにこの間気をつけろと言われたけど、今まで何事もなかったからすっかり忘れていたけど、どうしてケントはあたしの前に来たんだろ。何か用事?


「俺は、お前たちがこの一座に入ったの認めるつもりはない。このまま居続けるつもりならこっちにも考えがあるから嫌なら今すぐ出て行け」


 ケントはそれだけ言うとくるりと背を向けて立ち去ってしまった。


「あ、えっ、ちょっ……何だったの?」


 平和だったのにもしかして嵐到来?


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