「わあ! この天幕凄い大きい!」
「外から見るより広くなってる気がするけど、どうなってんだろ」
「そっちの空いてる席に座ろうか」
リズに促されて隅っこの席だいぶ後ろの方に座った。
あたしたちはユリアが動けるようになってきたからとキュリアさんに言われていた舞台を見に客席にやって来た。
一番通路に近い方にユリア真ん中にリズであたしの順に座った。
ユリアのことが気になるけど解説してもらうのはこっちの方が都合がいいからと言われてしまったのでこの席順になった。
でも、リズもユリアのことを気にしてくれているみたいだから大丈夫よね?
客席は舞台を中心にすり鉢状に段々と高くなっている。あたしの席は一番上の端っこの方。ここならゆっくりと出入り出来るからとリズが用意してくれた。
だから後ろの方だからと残念がる必要はなく、ここから舞台全体が見れると思えばいい席なのだろうが、舞台に居る人は小指ぐらいの大きさに見えそう。
ちゃんと見える席なんだろうかな? でも、ここまで席があるってことは見えるからあるんだろうしあたしが気にする必要はないのかも。
客席はお客さんが多く大入りだけど、本当に多い日は立ち見のお客さんもいるんだとか。
今日は座れたからラッキーだけど一座としては大入りの方がいいんじゃないかな。
まだ来たばっかりだからそれを言うか迷っていたらリズが今日の出演者と演目何かを説明し始めたからそれに大人しく耳を傾ける。
「最初はメイビって女が出るよ」
「何するんですか?」
「それは見てのお楽しみ」
演目が書かれてる紙には重さ比べと書かれてあった。
メイビって人が重さを量る? よく分からない。
リズを見ても表情からは全く何も読み取れないので諦めて演目が始まるのを待った方がいいみたい。
しばらくリズに仕事の話とか色々と話を聞いていると天幕の中が段々と暗くなってきた。
「もうすぐ始まるよ」
リズの言葉を合図にしたかのように舞台の上だけ明るくなった。
団長のキュリアさんが出てきて軽く挨拶してから多分メイビ? さんが出てきたけど女性だと言っていたのにかなりガタイがいい。
真っ赤な髪は一本の太い三つ編みにされ背中に垂れている。浅黒い肌にたくましい筋肉に女性だと聞いていたのに一瞬男性かと錯覚してしまいそうだった。
何をするんだろと思って見ていると他の団員が数人掛かりで手押し車を押して来た。
手押し車の上には大きさが様々な石やあたしたちぐらいの高さの岩なんかもあってあれを持つのだろうか? と思っていたら手押し車を押していた団員が岩の乗ったところに登り始めてびっくりした。
全員が登り切るとメイビは団員ごと手押し車を持ち上げようとしていてさすがにあれ無理なんじゃ? と思っていたがメイビは額に青筋を浮かべながら持ち上げていて凄かった。
メイビの姿に会場に入っていたお客さんたちも歓声を上げている。
「あれって何かの祝福?! だとしても凄いな!」
「あ、こっち見たわ!」
「あの人本当に女性なの? すごいわね。あたしたちが鍛えたってああはならないんじゃないの? 後で触らせてもらえないかしら?」
きゃっきゃと近くの席の人たちが騒ぐ。
あたしたちも興奮してリズにあのメイビって人は何の祝福を持っているのかと両側から尋ねた。
「二人共落ち着きなってまだ始まったばかりだよ」
リズは苦笑しているけど興奮しているあたしたちはそれどころじゃない。
教えて教えてと両側からリズを揺さぶりながら聞いたらさすがにこれは駄目だったみたいで怒られてしまった。
「ああ、もう! あんたたちは後でメイビに聴けばいいじゃない! ほら、もう次が始まるでしょ!」
リズの言葉通り舞台に視線を移せばいつの間にか手押し車とたくさんいたはずの団員たちも姿を消していた。
「あれ? いつの間に消えてた?」
「あんたたちが興奮してる間だよ」
興奮し過ぎていたみたいで全く気付いてなかった。
「というか、しばらくしたらあんたたちもああやって舞台に立つかもしんないんだから今から何か考えていたら?」
「あたしたちが?」
呆れたように言われてきょとんとしてしまった。
あたしたちは雑用ぐらいしか考えてなかったけどあの舞台に立つこともあり得るの?
この一座に長く居ればそういうこともあるんだそうだ。
特にあたしたちは双子だからいい見せ物になる可能性があるんだって。今までそんなこと考えたことなかったからびっくりした。
あたしたちはこの国から逃げるためにと利用するためにこの一座に入れて欲しいと思っただけでそれ以上のことは考えてなかった。
そうか、復讐するにしたってもっと先のことまで考えなくちゃいけないんだ。
まずはあの舞台だけどあそこに立つ自分を想像してみたけど全く想像が出来なかった。
ユリアも同じだったのか難しそうな顔してリズに色々と聞いてる。あたしも聞きたいけどユリアを優先させてあげてあたしは別の機会に質問しよう。
舞台に視線を移せば今度はさっきの団員たちが二列に並んでる。
みんな同じような体格で今度はメイビは居なかった。
何が始まるんだろとわくわくする。
そこから先は舞台に夢中になり過ぎてあたしたちもあそこに立つんだってことはすっかり記憶の彼方に行ってしまった。