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第21話 ランプル一座団長

「絶対反対だ!」

「でも、怪我してるのにほっとけないじゃない」

「なら、手当てだけでいいじゃないか!」


 ぎゃあぎゃあと言い争う二人に頭が痛くなりそうで額を押さえながら二人に声を掛ける。


「二人共落ち着いて」

「ケント、エリザ、二人共そろそろいい加減にしなさい」


 口喧嘩だけでなく掴み合いになりそうになった二人に待ったを掛けたのは私ではなくうちで一番の花形のシフィーだ。


 だが、シフィーも苛立った様子で口調にトゲがある。二人もそれがわかっているのだろう。ぴたりと口を閉ざしシフィーの様子を窺っている。


 シフィーは普段温厚な分こういう時に頼りになるけど、本来それは私の役割だからあまり盗らないで欲しい。


 二人がこんなに揉めているのはさっきリズから大怪我をした女の子とその子の姉を拾ったと報告があったから。


 リズの話だと訳ありっぽくてケントが怒るのも無理はないが、この一座の理念は来るもの拒まず去るもの追わずだ。


 訳ありだろうとなんだろうと受け入れるのは分かっていることなのにケントは毎度毎度騒ぎ立てる。


 ケントもうちに来てから十年近く。そろそろうちのやり方に慣れてくれればいいが、まだまだお子様なとこは抜けないのかと頭がいたくなる。


「あの子らをウチに入れるかは団長が決めることだよ。あんたたちが騒いだところで意味ないよ」

「くそっ……」


 ケントは悪態を吐いて天幕を出て行った。あいつは本当いつになったら大人になるのか。


 後で誰かにもう一度説明させた方がいいのかもしれない。


「何だあいつ?」

「リズか」

「連れて来たよ」


 ケントと入れ替わりにリズが不思議そうな顔をしながら天幕の布を開いて入って来た。リズはケントより後に入って来たのにうちのやり方にすぐ馴染んでくれたのにと思っているとリズの後ろに小柄な少女が居ることに気付いた。


 年の頃は十五か見積もっても上下二、三歳ぐらいか? もうちょっと幼く見えるけど、どうなんだろう?


 水色の長い髪に特徴的な金色の目。妹は酷い怪我をしていると言う話だから姉の方か? 妹を連れてここまで走って来たという少女は手足を包帯に巻かれてはいるものの、話に聞いている妹よりは元気そうだ。


「君がラナでいいのかい?」

「はい、初めまして。あ、あの妹を助けてくれてありがとうございます」

「それは別にいいよ。働いて返してくれたら。とりあえず自己紹介をしようか。私はこのランプル一座の団長のマキューリアだよ、キュリアと呼んでくれ」


 ぺこりと頭を下げる少女にさて、どんな話をしようか。


「あの、ユリアを助けてくれてありがとうございます」 

「ん。うちのやり方はリズから聞いてるよね? その分働いてくれたらいいよ」


 ラナは頷いて真剣な顔をしている。


「でもね、今ウチの一座は役者は足りているし、役者として育てるにも数年掛かる。どうしようか」


 ケントが舞台に上がるようになったのも最近だしなぁ。どこに入れるのがいいか。


 妹の怪我の具合にもよるけどとりあえずラナを見た限りだと見た目はいいから二人揃って舞台に立たせるのも悪くない。


「雑用なら何でもできます!」

「何でもはしなくていいよ」

「でも、それじゃあ……」

「……うーん。リズとりあえずこの子に下働きの仕事教えてあげて」

「はーい」

「いいんですか?」


 ラナが信じられないといった顔をしている。あの大きく開いた口に何か入れてみたくなったけど、生憎手元にはお菓子はなかった。今度大きく口を開いたら何か入れてあげよう。


「いいも何も最初からそのつもりだよ。ウチは来る者拒まず去る者追わずの精神でやってるから離れたくなった時はいつでも言って。その時は治療費の残り払ってもらうから」

「あ、ありがとうございます!!」


 ぺこりと下がった頭に思わず撫でる。思っていたよりさらさらしていて指通りもいい。疲労が顔に出ているし泥で汚れているが磨けば光るかもしれないがどこかいいとこから逃げ出した可能性もある。


 その辺のことには気をつけておいた方がいいな。


「あ、あの?」

「団長」


 ラナの声にハッとなった。


 いけないいけない。小さなものは愛でたくなるけど、今は仕事中だ。しっかりしないと。


「ああ、すまない。ではリズ頼んだ。ああ、それとうちの仕事覚えさせるのに後て公演やってる時にでもラナに見せてあげて」

「はーい」


 シフィーとリズが笑いそうになっていたがそれを無視してラナを見送った。


 シフィーはあたしが可愛いもの好きなの知ってるけどリズには言ってないのに。もしかしたら今ので勘づかれたのかも。


「団長あの子のこと気に入ったの?」

「シフィーは?」

「……いい子だとは思うわ。でも……」

「大丈夫。何かあれば私が守るから」


 先代の団長がそうしていたように団員たちに何かあれば団長自らが戦う。代々そうやってこの一座の団長はやってきた。私もそれに習い問題があれば真っ先に対処するようになった。


 お陰で兵士でもないのに戦いにはかなり慣れている。


「あたしたちも居るからあまり無理しないでね」

「分かってる。頼りにしてるよ」


 新人が入る度に多少のいざこざがある。でも、今まで通りしていればそれも多分大丈夫だろう。何かあったとしても今まで通りみんなで協力していけば何とかなるだろう。


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