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第20話

 ユリアは最初混乱していたが根気強く説明するとようやく肩の力を抜いてくれてホッとしたと思ったら次にガタガタと怯え出し最後には泣き出し気絶するように眠り酷い悪夢を見るのか絶叫で飛び起きるを何度も繰り返してしまう。


 その度にユリアの苦しみを分かってあげられなかった自分の不甲斐なさに泣き、ユリアをこんな目に合わせた王子への憎しみは募った。


 こんな調子じゃ宿にも泊まれないが、どうせお尋ね者になっているだろうからどちらにしろ泊まれないでしょう。


 でも、ユリアの手当てはしたいし、どこかで休めることが出来ればいいけどと思い始めてから数日でそれは目の前に現れた。


 大きな天幕に大きな檀上の上でひらひらと薄布を使い舞う歌姫たち。


 他にも色んな出し物があり、そのまわりには出店まで出ている。


 大道芸人だ。国から国を回り色んな地へと行く彼らは一ヶ所に留まることに常に移ろい一定の土地に留まることはしないし、その常に移動する彼らのところには犯罪を犯して国にも入られなくなった者もいると聞く。


 あたしはこの人たちを見た瞬間これしかないとひらめたいた。


「お願いします。あたしをここで働かせてください!! 前は宿で働いていました! 薪割りでも水汲みでもなんでもします! だから妹の手当てとしばらくの間一緒に行動させてください!!」

「えーっと、どういうこと?」

「働かせてくれってさ」

「それは分かるけど……あー、とりあえずリズは医者の手配をしてくれ」

「はいよ。えっと、妹さんはどこ? 具合見ておきたいから」

「あ、こっちです……」


 リズと呼ばれたそばかす顔の焦げ茶色の髪に澄んだ緑色の瞳のお姉さんにユリアの居るところに案内する。


 ユリアは今傷ついた状態で無理に移動を続けたせいか熱が高く意識はないために近くの木陰に残してきた。


「あたしはリズね。あんたは?」

「あたしはラナです。妹はユリアって言います」

「ラナとユリアね。あたしたちがランプル一座だって知ってる?」


 聞いたことない。でも、ここで知らないって言うのもどうなんだろ? 


「はは、その様子だと知らなかったみたいだね」

「うっ、すみません」


 どうやら顔に出てしまっていたらしくリズは吹き出した。


「知らなくても平気だよ。あたしだって最初は知らなかったもん。でも、舞台に出られるようにまでなった」

「リズさんは」

「リズでいいよ」

「リズはどうしてこの一座に?」

「うーん。どうしてだろうねぇ。あ、あの子かい? って、酷い怪我じゃないか!」


 その言い方に気になるものがあったけど、それよりユリアの方だ。


「朝から熱も出てご飯も食べないんです!」

「ちょっとあんた大丈夫かい?! ラナだったね? いつからこんな状態だったんだい?!」

「それは……分かりません。あたしが見つけた時にはこうでした……」


 リズに答える内に悔しくて唇を噛む。あたしがあの時突っ立っているだけじゃなくてユリアを強く引き止めておけばよかった。そしたらこんな目には合わなかったはずだ。


「ああ、もう! ラナあんたは唇噛んじゃだめ! 女の子なんだから気をつけな。ユリアを運ぶよ。運んだら医者を呼ぶから! それから井戸の場所を教えるからあんたは水を汲んでユリアの傷を綺麗にしておくんだ。いいね?」

「はい!」


 リズにあれこれと指示をされてユリアを小さい天幕へと運び入れた。後から聞けば小さい天幕は従業員の住まいなんだそう。大きな天幕の内側に小さな天幕があり更に井戸は天幕の群れの中心にあった。


 けれど、井戸のまわりには人気はなく静かだった。


 水を汲んでユリアが寝かされている天幕に戻ると既に医者は呼ばれていたのかユリアの様子を見ていた。


 医者の人もここの人たちと一緒に行動しているのかな?


「あんたがこの子のお姉さん? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 いつくかの質問をされたがそのほとんどのことが答えられず、リズに聞かれた時のように分かりませんを繰り返すことしか出来なかった。


「……それじゃ仕方がないけどお姉さんの方も怪我をしているから手当てしないとね」  


 あたしが運んだ水でユリアの身を清めてくれた医者がそんなことを言ってきたからびっくりした。


「え?」 


 あたしが怪我? 怪我なんてしてないはずだと体を見下ろせば腕には引っ掻いたような傷に足はいつの間にか靴も片方脱げて泥だらけの中に血がこびりついて固まってしまった場所もあった。


 いつの間に。


 そういえば城から逃げてる時に転んだんだっけ? とぼんやりと思い出した。腕の傷はユリアを抑える時についたのかな? と思っていたら消毒液を顔にもつけられていたので気づかなかっただけで、あちこち傷だらけだったらしい。


「しばらくは二人共安静で妹さんにはこの薬とかなり弱ってるみたいだから滋養のあるもの食べさせられたらいいけど、この状態なら胃に優しい物を出して。それから──」


 医者の説明を聞きながら眠っているユリアを眺める。顔の右側には大きな包帯。服の下も包帯に巻かれていてどこもかしこも痛々しい。ふっくらしていた頬は痩せこけて顔色も悪い。


「あの、」

「おーい! 説明終わったか?」


 リズがひょっこりと顔を出した。医者は今あたしにしてくれた説明をリズにもしてリズも頷いて説明を聞いている。


 医者が一通り説明して出ていくとあたしとリズ。それから眠っているユリアだけが天幕に残された。


「ラナちょっと着いて来て」

「へ?」

「ここで仕事するんだろ? 団長に話をしたから」


 そういえばそうか。あたしはここで働きたいと言ったから働かなくちゃ。でも──


「ユリアならぐっすり眠ってるし、団長とちょっと話すだけだからすぐに戻ってこれるよ」  

「……分かりました」


 ユリアのことは気になるけど、この人たちのお陰で医者にも見てもらえたんだもん。恩返しはしなくちゃ。


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