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第19話

「本当にここでいいのかい?」

「はい。ありがとうございました!」


 お城を出たのは夕方だったけど、今は完全に夜。


 場所は王都を出てすぐの道。


 この道しばらくは一本道だけど途中から道は曲がったり枝分かれしたりするんだけど、それはまだ見えて来ない。


 前にこの道を通った時はユリアに会うと決めていたのに今は全く違う気持ちで同じ道を見つめてる。どうして夜中にこそこそと移動しなくちゃいけなくなっちゃったんだろ。


 絶対にユリアをこんな目に遇わせた奴が悪いのに。


 時間は寝るにはまだちょっと早いかもしれないけれど、みんな家に戻って家族でまったりしている時間帯だ。道には殆ど誰も歩いていない。


 これは時間と場所が悪いせいかもしれない。


 おじさんの話では夜に王都出る人がそもそも少ないらしい。


 居ても酔っぱらいが転がっているぐらいだ。あの人たちは後で城下を警備している兵士たちが回収するとさっきのおじさんが教えてくれた。


 何で夜には出ないんだろうと思ったけど、王都の門のところに衛兵が立っているせいかも。あたしはおじさんの助手かなんかだと思われたのか特に何も言われることなく王都を脱出出来た。


 外は月が出ているとは言え辺りは暗くて馬車につけられているランプの明かりが眩しく感じられる。


 おじさんには約束通り王都の外に運んでもらった。おじさんにお礼を言ってからその姿が見えなくなるまで見送ってから背中に背負っていたユリアが入った荷物をそっと下ろしてから覗くとユリアはまだぐっすりと眠っていた。


 ホッとしながらユリアに被せていた布を取る。手当てしなきゃ。


 だけど、こんなに移動しても起きないってことは普段あんまり眠れてないってことよね。


 ユリアが今までどうしていたかと考えるだけで涙が溢れそうになる。


 でも、今の内に包帯ぐらいはちゃんと巻いてあげないと。お城から逃げるために着替えさせるので精一杯だったから。泣いている暇はない。


 ぐいっと袖で涙を拭ってから活を入れるために頬っぺたを力いっぱい叩く。


 これからのことを考えたらあたしにはやるべきことが沢山ある。


 最初にあたしがするべきことはユリアを安全な場所まで連れて逃げてちゃんとした治療を受けさせること。


 ユリアを安全な場所まで連れて行ったらユリアの治療を優先して生活の基盤を整えてユリアにこんなことをした奴らに絶対仕返しをしてやる。


 ユリアがされたこと以上の苦しみを。死にたいと望んでも死にはさせない。じわじわといたぶってやる。


 その後あたしはどうなってもいい。だけど、ユリアには幸せになってもらいたい。


 この子が傷ついた以上の幸せを贈ってあげなくちゃ。


 深く眠るユリアの寝顔を見つめながらそう決心した。


 通りから見えない木陰に移動に移動して暗いから月明かりを頼りにユリアの傷に包帯を巻いて行く。


 傷だらけのユリアの細くなってしまった体に涙が出てくるけど、あたしはユリアが傷だらけになって辛い日々を送っているのも知らずに呑気に暮らしていた。あたしが泣くのはお門違いだと溢れそうになる涙を何度も拭って傷口を隠していく。


 本当は医者に見せたいけど、こんな時間にやっているところなんてないし、明らかに訳ありのあたしたちが行ったって通報されちゃうかもしんない。


 それだけは駄目。


 あたしたちみたいな訳ありの人間でも見てくれるような医者を探さなくちゃ。


 クソみたいな奴のせいでユリアがこんな目に遭ったのにすぐに連れ戻されるような真似だけはしちゃいけない。


 包帯を巻き終えると手早く服を着替えてそれまで着ていた服はその辺の草むらに捨てた。


 これであたしたちが城から逃げたなんて言わなきゃ分からないでしょ。後はこの服がしばらく見つからなければ時間を稼げると信じたい。


 ここまで逃げられたんだもん。まだしばらくは大丈夫なはずだ。その内追っ手も来る可能性もあるから変装とかも考えなくちゃいけなくなるかもだけど今は出来るだけ距離を稼ぐ方が先決だ。


 今度は荷物をお腹に巻きつけてユリアを背中に背負う。 


 全く重さを感じないとはいかないけれど、それでもかなり軽い。


 どうしてこんなになるまで我慢していたの。こんなことをする奴らがまともな訳がない。


 早く医者に見せなきゃいけないのになんで今は夜なんだろ。それにどうしてこんな目に遇わされたユリアが逃げ出さなくちゃいけないのよ。


 ユリアをこんな目に遇わせた奴らが不幸になればいいのに。


 ごめんねユリア。


 あたしがもっと頑張るから。絶対にユリアを幸せにしてあげる。


「だから待っててねユリア。お姉ちゃんがすぐに医者を見つけてあげるから」


 とりあえずいつまでも同じ場所に留まってちゃいけない。ユリアを背負ったままあたしは走り出した。


 夜だから人の居ない道は静かで秋深くなっているせいか肌寒いけれど、走っていたらそんなに気にならない。だけどユリアが冷えて風邪なんか引いてしまえばこんな怪我もしているし取り返しのつかないことになったら大変だ。


 一回ユリアを下ろして持って来た服を全部ユリアに巻き直してからまた走り出した。


 ユリアをこんな目に遭わせた奴らを同じ目かもっと辛い目に遭わせてやると固く誓いながら。


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