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第17話 追跡者1

「……は? 今何と言った?」

「そ、それが……」


 煮え切らない返事の使用人では話にならないと近くにいた武官に視線を向けるとそいつは俺の意図を汲み取ったかのように頷くとその使用人を殺した。


 その姿を眺めながら先程この使用人が言っていたことを思い返す。


『殿下の小鳥が逃げ出しました』


 小鳥というと最近城に連れてきた少女のことだろう。あの金色の瞳に小さな体、逃げられないように鎖で繋がれて小屋に押し込めた姿はまさに鳥かごの中の小鳥。


 俺自体がそう言い出した訳ではないが、あれの世話を任せていた者たちの間ではいつの間にか小鳥と呼んでいるようになっていたのは知っていたが放っておいたらそのまま定着


 あれは王族でもたまにしか生まれない祝福の子を完全に王族の血に祝福の子が生まれるようにと連れてきたのにあまりにも愚鈍なために半ば憂さ晴らしのために飼い殺しにしていたが最近は憂さ晴らしのために利用することもあった。


「どうなさいますか」

「とりあえず確認に行く……それは適当に捨てておけ」

「御意」


 ゆっくりと立ち上がり武官が片付けをしているのを横目に出かける支度をする。これがら本当だとしたら朝から面倒なことをしてくれたんだと舌打ちしたくなる。


 いつも通り誰かに八つ当たりしたくなるのを我慢しながら足早に移動する。 


 どうして俺がこんなことぐらいで行かなければならないんだ。


 あの小娘一人ぐらいどうして見張ることも満足に出来ないんだ。


「アルフレッド」

「ミリシャじゃないかどうした」


 急いでいる時に呼び止められ苛立ちを抑えながら振り返る。


 俺を名前で呼ぶのは父上か妹ぐらいだ。


 妹のミリシャ・フォン・カーリット・シェスタ・マーベレスト。俺と同じ黒髪だが瞳だけは水晶のように輝き全てを見透かされている気分になるが、ミリシャはいつになったら俺を兄と呼ぶようになるのか。


 俺は王太子なのに。


 だが、ミリシャにはそれが許されている。


 ミリシャは千里眼の祝福を持ちその特性から軍によく出入りしている。そのため今度軍にいる祝福の子が多く出ている家系と婚約することが決まっている。


 まだ14歳だってのに大変なことだ。いや、王族なのに17にもなって婚約者の一人も居ない俺の方が変なのか。


 妹の周辺は婚約の準備だなんだのとバタバタと慌ただしいのでこんな時間から俺のところにやってくるような時間など取れないはずだが何があった。


「父上が呼んでいる」

「何?!」


 父上が? もしやあの小娘のことを知られていた? 十分に周囲へと気を配っていたはずだがどこからかバレていたということか?


 ミリシャが言いに来たということは父上も俺の行動を把握していたということだ。


 ミリシャにも気づかれないように結界の祝福を持つ者に見張らせていたはずなのに何をしていたんだ全く。


 高い金を払ったのに使えない奴らだ。あいつらも後で殺すように言っておかなければ。


 しかし、今まで俺のすることには口を出したことがなかったのに急にどうしてだ? 


「気になる?」

「そりゃな」


 父上は俺たちとは食事をすることは殆どない。食事中も仕事をしたいからと言うのが理由だそうだが、本当のところはどうか分からない。


 母上は居るには居るが離宮に暮らしてらっしゃるので俺たちのことには眼中にないのだろう。年に一度新年の挨拶の手紙を送ってくるだけ、しかもあれは人に書かせているのだろう。何年も内容が変わっていない。 


「しかし、お前が来たのなら理由はなんとなく分かる」

「あらそう? それなら話が早いわ。父上はあのユリアとか言う小娘に希望を見出だしたそうよ」

「希望?」

「あの子いくつもの祝福を持っているじゃない。平民のくせに」


 なるほど。父上やミリシャのような祝福のない俺には分からないことだが同じ祝福の子同士なら常人には分からない何かが分かるのか。


 ならばこの件に関しては父上も乗り気なのだろう。


 俺一人の手柄にしたかったが、小娘が逃げ出したのならこいつの祝福を頼った方が早く事を終わらせられる。


「ユリアを拐ったのはユリアの双子の姉のラナ。父上がアルフレッドに下した命は私と一緒にユリアを連れ戻しラナを殺すこと」


 姉が居ると言っていたが、双子だったのか。それよりも──


「お前も一緒にか?」

「ええ、その方が確実で早いからって」

「まあ、そうだが……」


 それくらい俺一人でも出来るし、たかが小娘二人ぐらいその辺の兵を使えばどうとでもなるだろう。


「とりあえずラナは指名手配してあるわ」

「早いな」

「これぐらい当然でしょ」


 俺は今聞いたところで今から事実確認をするところだったがな。


 もしかしたらこいつの方が後継者としては上なのかもと思いかけてやめた。こいつはどう足掻いても軍の誰かのところへ嫁ぐ。それに俺も父上の後継者という立場を失いたくない。


 そうじゃなくともミリシャ以外にも優秀な王族は多い。そいつらだけでも相手にするのが大変だというのにこいつまでも後継者に名乗り出られたらたまったもんじゃない。


「今そいつらはどこに?」

「今は王都を出て移動してる」

「どっちだ?」

「西に真っ直ぐ」


 西というと小さな村にしばらく潜伏してから移動するかそれともさらに奥にある大きな都市だとジェルミナスやトレトナレルなんかもあるがそちらか?


 そのどれにも警備を強化しておくように命じて馬を用意させる。


 女の足じゃそう遠くまで行けない。今ならば馬で簡単に追い付けるはずだ。


 捕まえたらあの二人をどんな目に遇わせようか。


 目の前で拷問すれば逃げ出す気力も失うだろう。


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