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第16話

「ユリア!」


 ぼろぼろのユリアから無理やり話を聞いていたけどユリアはまともに喋れずにつっかえつっかえで途中何度もむせて慌てて小屋の中を捜索して水を飲ませた。


 その時にユリアの足につけられた鎖を外す道具があればとも思ったけどそれ見つからなくて困ったし、ユリアは話をしている途中で気絶してしまった。


 よっぽど酷い目にあったみたいで目の下にはクマまで出来ている。


「許さない……ユリアをこんな目に合わせるなんて……」


 逃げよう。こんなところからユリアを連れて。


 でも、どこに? ラフォン様のとこ? あそこは駄目。


 あたしのことを雇ってくれただけでもかなり迷惑を掛けたのにユリアまで匿って欲しいと言うのはさすがに無理がありすぎる。


 ユリアをこんな風にしたのが本当にこの国の王子様ならユリアを連れて行けばもしかしたらラフォン様のお立場を悪くしてしまう可能性だってある。


 それは駄目。


 あんなに優しい人にこれ以上の迷惑を


 そうして考えたのはユリアを連れて逃げること。


 ユリアの体はいつの間にか痩せ細っていて凄く軽くなっていた。これなら背負って簡単に逃げ出せる。だけど、問題はユリアの足につけられた足枷。


 今は外せる道具なんてもってない。この家をざっと見て回ったけど、使えそうな道具なんてなかったので一度戻って道具を持って来なければならない。


 ユリアをこんなところに残してかなければならないなんて──


「ごめんねユリア。すぐに戻ってくるからそれまで頑張ってね」


 ユリアを起こしてしまわないようにそっと横たえて窓から抜け出す。


 毛布かなんか掛けてあったけどここにはそんな物なくてどうしてこんな扱いが出来るんだと涙がまた出てきた。


 あたしたちも同じ人間なのに……偉かったら何をしてもいいのか。あたしたちみたいな貧乏な孤児の命は虫けらなんかじゃないのに……あり得ない。あたしはユリアをこんな目に合わせたクソ野郎なんか生かしておけない。


 ここに来た時は迷ったけど帰りは迷わなかったためにすんなり戻れた。ラフォン様たちはまだ戻ってきてない。


 逃げるなら夕闇に紛れて逃げてしまえばしばらくは大丈夫なはずだ。


 ラフォン様のところで2ヶ月も働いた。勉強中の時にもお給料は出ていたし、前の職場とは比べられないくらいのお給料ももらったからしばらくはこれで食いつないでいける。


 お金の入った小袋を服の中に大事に仕舞いユリアでも食べられそうな物にセリーヌさんからもらった着替えを数枚手に取る。


 ユリアの着ていた服もあたしが今着ている服もここを出たら着られなくなるからしばらくはこれを着てその内新しい服と交換すればセリーヌさんにも迷惑をかけないはずだ。


 だからそれまでの間はセリーヌさんごめんね。これぐらいで迷惑は掛けないと思うから許してね。


 その着替えと食べ物を一緒にくるんで詰め込むとラフォン様たちが戻ってくるのを待った。


 ラフォン様は城には泊まらない。大丈夫。ちょっと話をしたらすぐにユリアのところへ行けばいい。足枷を外すのに良さそうな工具も手に入れた。 


 その間に荷造りを終え泣いたのがバレないように冷たい水で顔を洗って誤魔化したりしていた。 


 そうやってラフォン様のお戻りを待っているとラフォン様が戻ってきた。 


「ラフォン様お帰りなさいませ」


 ラフォン様、ゼラン、ミーヌさん今までありがとうございました。あたしはここを去ります。もう会えるかは分かりませんがみんなと出会えたことは忘れないさようなら。お元気で。


 ラフォン様が何か言っていたような気がしたがユリアを連れて逃げるあたしには関係ない。


 疲れていらっしゃるみたいだったけれど、帰り支度をしていたラフォン様にいつもみたいに頭を撫でられた。


 そしてラフォン様たちがお部屋を出ていった後あたしも行動に移す。まとめていた荷物を持って仕事着からセリーヌさんにもらった服に着替えてそそくさと外に出る。


 ユリアのところまであっという間に戻るとユリアは変わった様子もなく眠ったまま。クマも酷い。ずっと安心して眠れなかったのだろうと思うと胸が締め付けられそうになる。


 あたしが出てった後誰かが来た様子もなくホッとする。


 手早く足枷を壊す。その音でユリアが起きるかもと思ってたけど、よっぽど疲れていたのか全く起きる様子はなく簡単に外せて手早く着替えさせた。


 服の下はアザだらけで見るのも辛かったけど、これはあたしがユリアが辛い時にも呑気に暮らしていたせいでこうなった。辛いのはあたしじゃなくてユリアだと言い聞かせて目を瞑らずに着替えさせるとユリアを背負ったまま外に出た。


 外に出ると涼しい風があたしの髪を揺らした。


 ユリアに再会するまではこの風も気持ちいいものだったけど、今は中にユリアを戻せと言ってるようで気持ち悪い。


 森を抜けて門の方に行くとちょうど外に出るという業者に出くわしたのでそれに乗せてもらえることになった。


「それにしても随分大きな荷物だね」

「はい。おじさんが通りがかってくれてよかったです」

「そうだね。街の外でよかったんだよね?」

「はい」


 なんならもう少し先まで送り届けるよと親切な商人のおじさんにお礼だけ言う。城から抜け出すのを知らないとは言え手伝わせただけでも十分に危ういのにこれ以上の迷惑は掛けられない。


 ユリアと荷物は上からシーツを被せて背負っているのでおじさんからは荷物に見えたみたいでよかった。ユリアもまだぐっすり眠ってる。


 おじさんに街の外まで送っていってもらうとそこからはひたすらに走った。


 ユリアを連れてどこか安全な場所へ。


 もっと遠く。ユリアが安心して暮らせるような場所へ。ユリアに酷いことした王子に天罰が下りますようにと祈りながらあたしは走った。


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