「それは違います」
パシン
「っ!」
始まりはあたしが食事中に音を立てたとか挨拶が上手く出来なかったとかの些細なことだったと思う。
あたしに王都のこととか城の中で生活するに至って色々と教えてくれる人を付けてくれると言われてあたしも頑張っていた。
だけど、間違えると先生はあたしを乗馬用の鞭で叩くようになってきた。そのことをアルフレッドに言うとあたしのためにしてくれるんだから我慢しろと言われるがそんなの無理だからそれ以降も打たれる度に伝えた。
最初は面倒臭そうにだったけど話を聞いてくれた。
あたしが分からなかったところはアドバイスもしてくれたし、マナーや歴史を分かりやすく解説している本も貸してくれたけど、あたしには難しくて何度も尋ねる内にアルフレッドとあたしを小馬鹿にしたり軽くつねったりするようになってしまった。
そんないじわるなことはして欲しくなかったけどアルフレッドの気分を害したくはなくて最初はそれを受け入れていた。
けれど何度もそれが繰り返されるとさすがに我慢が出来ない。もう無理だとあたしは勇気を出してアルフレッドにどうしてと尋ねたら舌打ちされてしまった。
それだけでもショックだったのにそれ以降アルフレッドからの暴力は段々とエスカレートして行った。
あたしは祝福があるからアルフレッドに保護してもらったんじゃなかったの?
好きだって言ってくれたのは嘘だったの?
あたしはアルフレッドを信じていいんだよね?
あの時の言葉は嘘じゃないんだよね? あたしは本当にこの人を信じていいんだろうか?
あたしはアルフレッドにとって何?
その後も暴力は収まるどころかどんどんとエスカレートしていっていつぞや瓶で頭を殴られて頭から血を流しているのにアルフレッドはそのまま出かけてしまって放置されて呆然としていたらアルフレッドはしばらくして戻って来たと思ったらまだ居たのかと呆然としたままのあたしのお腹を思いっきり蹴っててよろけた拍子に割れた瓶の欠片が顔に突き刺さってしまった。
その後頭を殴られたのが悪かったのか当たりどころが悪かったのかはわからないないけれど右目の視力は段々と悪くなってしまいいつの間にか右目は何も見えなくなってしまった。
医者に見せてくれたらまだ見えていたかもしれないのに、アルフレッドに治療を頼んだけどあの人はあたしに医者に見せる金を使うよりも民を優先すると言われてどうしてこの人に着いて来てしまったんだろうと思うと自然に涙が溢れてきた。
何でこんな人好きになっちゃったんだろ。
この頃からお姉ちゃんのところに帰りたいと泣くようになった。
アルフレッドがいる時はあたしが泣くと怒って来るから声をたてないようにひっそりと。
でも、この辺りまではお城の一部だけだったけれどもあたしにもかりそめの自由があった。
ある日あたしは何故かあった釘を踏んで足を怪我したが録に手当てもしてくれずに足枷まで付けられてここに閉じ込められた。
多分あたしのような存在はいらなくなったのだろう。それならば殺すなりなんなりしてくれた方がマシなのにまだ利用価値でもあるのかアルフレッドは定期的にここに現れては憂さ晴らしのように気が済むまであたしに暴力をふるっては帰って行く。
あんなのあたしが好きだったアルフレッドじゃない。
あたしが不相応にこんなところまでのこのことやって来たのが間違いだったんだ。
ここは居たくない。
もうこんな生活は嫌だ。お姉ちゃんのところに帰りたい。それが無理ならいっそのこと殺してくれと願ってた。
ここに閉じ込められてからどれくらい時間が経ったのか分からない。日に一度だけ持ってくる粗末な食事。犬のように食えと言われて食べなければ暴力を食べてもあさましいと言われて暴力を振るわれて限界だ。
こんなところでアルフレッドの暴力を待つしかない日々を送るのは嫌。
どうやったら楽になれる? 暴力を振るわれずに済む? 死んだら楽になれる?
死んだらもう暴力を振るわれることなんてなくなるだろうか?
そうよね。死んだら土に還る。そうしたらもう何も感じないし何も考えることもなくなるだろう。そうしたらきっと幸せになれる。
そうだ。死のう。
アルフレッドが祝福持ちを保護しているって言うのも嘘だったみたいだし、あんなことをするような奴があたしみたいな弱い存在を守る訳がない。あいつも道連れがいいな。
最後にあいつのあわてふためく顔が見れるかもしれない。それはもしかしたらとてもいいアイデアなのかもしれない。
どうやってアルフレッドも道連れに死んでやろうかと考えていたらお姉ちゃんが窓の外にいた。
これは夢? 夢だっていい。
またお姉ちゃんに会えた。
お姉ちゃんごめんね。あたしはもう死んじゃうけど、最後にお姉ちゃんに会えてよかった。
あたしの大好きなお姉ちゃんあたしの唯一の家族で世界一大切な人。
あたしがお姉ちゃんを捨ててこんなところまで来てしまったのにお姉ちゃんはわざわざこんなところにあたしを迎えに来てくれた。
こんなところまで来てしまった大馬鹿者のあたしをお姉ちゃんに見放されたかと思ったのにお姉ちゃんはこんなところに来てくれた。
お姉ちゃんが居る場所はあったかそうで優しそうでいいな。あたしもそこに行きたい。日の光の下でお姉ちゃんと一緒に笑っていたい。
ふらふらとしながらもまだ夢から醒めたくない。大好きなお姉ちゃんに抱きしめてもらいたい。もう大丈夫だよって言って。もうこんな悪夢見なくていいんだって。
でも、ここは危ないからお姉ちゃんは逃げて。
「ユリア!」