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第14話 ユリア2

 アルフレッドとはその後も何度も会った。


 お店は女将さんがいくらでも休みをくれたし、その分お姉ちゃんにしわ寄せが行ってたのは知ってたけどあたしには都会からきた貴族なのにあたしみたいな庶民にも優しくしてくれるアルフレッドのことに夢中でそれどころではなかったから。


 心の中でお姉ちゃんごめんねと謝っていたし、お姉ちゃんは仕事が増えてもまかないが増えると喜んでいたから多分あたしが押し付けているってことも気付いてないのだろうけど。


「それでユリアは祝福持ちなんだったならどうしてこんなところに居るんだい? 王都とか出たらもっといい暮らしだって出来ただろ」

「それはお姉ちゃん……ううん。何でもない」


 アルフレッドには何でだからお姉ちゃんのことを知られたくなかった。


 もしかしたら他の人たちが変わって行ったようにアルフレッドもお姉ちゃんの方がよくなってしまうかもと思ってしまったからかもしれない。 


 おかしいよね。父さんたちを捨ててまで大事にしていたお姉ちゃんなのに。


 あれ? あたしなんでお姉ちゃんのことおざなりにしてるんだろ?


「お姉ちゃん? ユリアには姉がいるのか? もしや姉も」

「お姉ちゃんは祝福持ちじゃないわ!」


 それについて深く考えようと思ったのにアルフレッドの言葉にあたしは反射的に叫んだ。


「……そうか」

「うん。家族の中であたしだけが祝福の子なの」


 ここにはアルフレッドの知り合いが居るらしくて、しばらくはその人に会うためにこの近くに泊まっているそうだ。あたしたちが会えるのはその間だけ。


 仲良くなったとしてもすぐに


 その人に会えない日はあたしがこの周辺を案内することになっているの。


 アルフレッドに会える前の日からそわそわしてるからお姉ちゃんや女将さんには変な顔されちゃうので出来るだけ平静を装うんだけど、女将さんには多分気付かれているような気がする。


 この間髪飾りくれたし。


「それじゃあ、その姉のためにこんな辺鄙な場所に暮らしているのか?」

「辺鄙?」


 確かに王都から来たアルフレッドからしたら辺鄙な場所かもしれないけど、父さんたちを捨ててここに来たあたしたちにはこの年で部屋を貸してくれるところなんてない。だから部屋を貸してくれるような親切な人たちがいてとっても暮らしやすいところだ。


「すまないユリアを馬鹿にしたつもりはないんだ。ただ……」

「平気よ。でも、あたしたちにはここが暮らしやすくて気に入ってるの」

「そうか。実はそろそろ戻らなくてはいけないんだ」

「え? まだ居られるんじゃないの?」


 しばらくは居るつもりだと話してたのにどうして?


「ああ、予定が変わったんだ」

「そう、だったのね」


 それじゃあ、寂しいけどアルフレッドととのこの楽しい時間は終わりなのね。


「ユリアがここが嫌だって言うのなら一緒に連れて行くつもりだった」

「え」

「しかしユリアにはここでの暮らしの方がいいみたいだから」

「そんなことない! あたしもアルフレッドともっと一緒にいたい!」

「しかし、姉はいいのか?」 

「お姉ちゃんにはあたしから上手く言っておく。だからアルフレッド、あたしも一緒に連れていって!」

「ユリア……」


 その時アルフレッドの顔はよく見えなかったが後から考えるとアルフレッドは笑っていたのだろう。アルフレッドはあたしの返事を聞くとあたしの前に来た理由を話し出した。


「実はここに来た理由は祝福持ちを保護するのが目的だったんだ……」

「保護?」

「実は」


 アルフレッドの話しは驚くべきものだった。


 アルフレッドは実はこの国の王子様で今国内の祝福の子が続々と行方不明になっているというものでアルフレッドは秘密裏に調査していたところ他の国に誘拐されていたそうだ。


 その国では祝福の子は少なくて祝福の子欲しさにしていたとかでそっちの方を抑えることは出来たが、一度旨い汁を知った国内の犯罪者はそこを抑えたところでどうにかなるような物ではなかったらしく国内の行方不明事件は一時的に減っただけですぐに再び増えたらしい。


 アルフレッドは王様の命令で犯人を捕まえるのと祝福の子の保護を同時に小神なっていたらしい。


 この辺りはまだ安全だけどいつここもそういった犯罪者が来るか分からないそう。怖いことを言わないで欲しいと震えていたらアルフレッドが抱きしめてくれてあたしは天にも昇る気持ちになった。


 祝福の子が相次いで行方不明になってたなんて知らなかった。ここで呑気に暮らしていただなんてアルフレッドの苦労を初めて知って動揺して「あたしに手伝えることはない?!」気づけばそう言ってた。


「ありがとう。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」


 にこりと微笑むアルフレッドの姿に再び天にも昇るような気持ちになった。


 そこからは早かった。女将さんに店を辞めることを告げてお姉ちゃんにもさようならをして(お姉ちゃんは呆然としていて何も言わなかった)アルフレッドと一緒に王都へと入った。


 王都は沢山の人がいて祭りでもしているのかと思ったらしてないってアルフレッドがあたしの暮らしてた場所を辺鄙なと言った訳がようやく分かって恥ずかしくなった。


 あたしはアルフレッドの隣にふさわしくないんじゃないかって身を引こうとしたけどアルフレッドはそのままのあたしでいいって言ってくれた。後から思えばそんな必要がないってことだったのだろう。愚かなあたしは全く気が付かずに初めて来る王都のにぎやかさにただただ圧倒されていただけだった。


 あんなことになるって分かっていたらついていかなかったのに。



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