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第13話 ユリア1




 お姉ちゃん。お姉ちゃんに会えた。


 だけど、お姉ちゃんにはあたしのようになって欲しくない。お願いお姉ちゃんだけでもこんな地獄から逃げて──




◇◇◇◇◇◇




 あたしはユリア。あたしには双子のお姉ちゃんがいる。


 あたしと同じ色の髪と瞳を持つけど、あたしとは違っていつもその瞳にはやる気に満ちあふれキラキラと眩しく光っていたあたしにはそれが眩しく見えた。


 母さんがあたしのことだけえこひいきしているのは小さい頃から理解していてそれに優越感を持っていた時もあった。


 それはあたしが祝福を持って生まれたから。


 祝福は神様からの贈り物だと言われている。


 祝福は生まれた時に神様からランダムでいただくから誰が貰えるかなんて生まれるまで分からない。


 うちの家はもの凄く田舎でご近所もかなり遠くてうちの親はなんでこんなところに住もうと思ったのかとっても不思議だったけどそれはうちにお金がないからだというのは幼くてもすぐに分かった。


 ボロ同然の粗末な服に隙間風のするボロい家。薄いお粥みたいなおいしくない食事。それでもあたしが祝福を持って生まれたお陰であたしの分の食べ物はちょっとだけいいものを出していてくれていたらしい。


 父さんと母さんはあたしが大きくなったら家を大きくしてくれるとあたしばっかり可愛がっていた。


 けど、お姉ちゃんはそんなあたしにも態度を変えることなんてなかった。あたしは小さかった頃それが不満だったけど、それはすぐに意見を変えさせられる出来事が起こった。


 あたしがお姉ちゃんを最初に凄いと思ったのは五歳ぐらいの時だったかな? 近所に野良犬が出るようになったから気をつけなさいって母さんに言われてたんだけど、あたしには祝福の力があるからって気にせずに遊びに行ったんだ。


 そしたらそのまま遊び疲れて寝ちゃって起きたらもうすぐ日が沈みそうになってたから慌てて帰っていたら野良犬に出くわした。


 その野良犬はかなり痩せててあばらも浮いていて何か食べなきゃ死んでしまいそうな程飢えている。


 この時のあたしは絶対に怖いことなんてないし、祝福のお陰で何も起こる訳がないと思い込んでいた。


「わんちゃんお腹空いたの? あたしもなの。これからあたしご飯食べに行くんだけどわんちゃんも一緒に行く?」

「ヴヴ……」

「わんちゃん?」


 あたしのことを知らないから警戒してるだけだと思ってた。いつも動物はあたしに声を掛けてくれるからあたしに向かって唸るなんてあり得ないことだった。


 あり得ないことだからと油断していたあたしは逃げればよかったのにその場にしゃがみこんで大丈夫だよって声を掛けていた。でも、その野良犬に通じなかったみたいで野良犬は姿勢を低くしてあたしに飛びかかってきた。


 あたしはとっさに動けずにいたら後ろから突き飛ばされてしりもちをついた。


「きゃ! なに? えっ……お姉ちゃん……」

「ユリアに何かしたら許さないんだから!」


 野良犬に腕を噛まれながらも野良犬に向かって怒鳴るお姉ちゃんは今まで見た中で最高にかっこよかった。


 その後駆けつけた近所の人が野良犬を追っ払ってくれてお姉ちゃんは母さんに散々怒られてたけど、あたしを守れたからいいって熱に浮かされながらも笑っていた。


 父さんと母さんはお姉ちゃんに薬代を出すのも渋ってたけど、あたしが散々泣きついて医者も呼んでもらって何とか治った。


 けど、ある晩あたしにしか祝福がないからお姉ちゃんを捨てるって話をしていてムカついてならあたしも父さんたちを捨ててやるってお姉ちゃんだけを連れて行った父さんの後を鳥たちにお願いしてつけてもらってお姉ちゃんの居どころを調べてもらってから行った。


 お姉ちゃんはあたしが助けに来てくれたと思っているけど、違う。あたしがお姉ちゃんに助けてもらったんだ。


 あそこにいつまでもいたらあたしは駄目になっていた。


 それなのに見ず知らずの男に簡単に着いて行くなんてどうかしていた。


 その日あたしは休暇だった。お姉ちゃんは朝早くから仕事に行って居なくて家事はお姉ちゃんがしてくれていていたのかそんなにすることがなくて、家に居ても暇だったから外に出かけた。


 お姉ちゃんと家を出て新しいところロンシャウという街に住む時もあたしが祝福の子だと伝えると大人たちは親切に家を用意してくれ、あれこれと世話までしてくれたけど、お姉ちゃんに祝福がないと分かると大人たちはあたしの見えないところでお姉ちゃんをこきつかったりしていて嫌いだった。


 ここの人たちも父さんたちと同じように捨てた方がいいのかと悩んでいた。けど、お姉ちゃんは家もあるし、食べる物も豪華になったからと喜んでる。


 確かにお粥みたいなおいしくない食事からお店の残りばっかりだけど、お肉とかも食べられるようになったから昔より豪華かもしんないけどさ、あたしたちの年齢で働いてる子なんていないんだよ。


 他の子が学校に行ったり家の手伝いはするけど遊べたりできるのにあたしたちは毎日朝から晩まであくせく働いてる。


 あたしが変なのかなと思っていたらお姉ちゃんはそんな悪どい人たちにも変わらなくてそんなお姉ちゃんに周りの人たちの方がいつの間にか変わって行った。


 あたしもお姉ちゃんに対する周りの人間みたいに何か変わったのかな?


「すまない。ちょっと聞きたいことがあるんだが、少し時間をくれないか?」

「はい?」


 そんなことを考えながら川縁を歩いていたら見知らぬ男の人に声を掛けられた。


 その人はこの辺りでは見たことないようなカッコいい顔をしていて黒く艶やかな髪に宝石のようにキラキラと輝く紫の瞳にまだ成長途中なのか身長の割りに大きな手足。あたしよりいくつか上ぐらいの少年? 青年? よく分からないけどとにかくカッコいい男の子が立っていた。


 服はあたしたち庶民が着ているような簡素な物だけど、この人にはびっくりするくらい似合わない。もしかしたらいいところの子でお忍びでやって来たのかもしれない。


 そんな人に声を掛けられただけでも驚くことなのにあたしみたいな庶民に嫌悪感を抱く様子もなく話し掛けてきた。


「この辺りに──っがいるって聞いたんだけ……聞いてる?」

「あ、あの……すみません聞いてませんでした」


 ぼーっと男の子の顔を眺めていたらいつの間にか目の前に相手の顔があってびっくりした。まつ毛長いし、あたしたちみたいに肌荒れなんて1つもないし、いい匂いまでする。


 ドキドキとうるさい胸を抑えてもう一度声を聞かせてくれないかと何を聞いたのかと尋ねた。これがあたしがこの国の王子様であるアルフレッドに最初に会った時の話。


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