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第12話

 痛い。痛い。痛い。


 もう嫌──




◇◇◇◇◇◇




「こっちにしようか。あっちにしようか」


 今日はラフォン様が王子様のところに行くって言っていたんだけどあたしはお留守番。最近ラフォン様は王子様のところにしょっちゅう行っているみたい。


 あたしも着いて行きたくて言ってみたけどラフォン様はダメだっていうの意味分かんない。


 もし、そこにユリアが居たらどうするのよ。どうして連れて行ってくれないのか。ラフォン様もゼランもミーヌもあたしに隠しごとをしているみたいでもやもやするから今日はまだ行ったことのない場所を探しに行こうと思う。


 一人で行動しないようにって言われてるけど掃除は終わってるし、ラフォン様も居ないんじゃすることもなくて暇なんだもの。


 ただ、あたしのことをよく思ってない人たちも多いからそういった人たちに出くわさないように気をつけなくちゃ。


 行ってみたことない方へ、そして、誰かに出くわさないようにと適当に進んでいると目の前に森があった。お城の中に森があるのは不思議だけど、前にゼランがこういう場所もないとお城は息が詰まると言ったいたのであたしは気にせずに突き進んだ。


「あ、鳥がいる。あっちには見たことのない花が咲いてる」


 見たことない花は何て花なんだろ? 薄紅色の小さくて可愛い花だ。摘んで行ってラフォン様に見せたら喜んでくれるかな?


 ラフォン様のお城のお部屋は殺風景でお花の一つや二つ生けたっていいんじゃないかって思ってたからこういったささやかな花が一つか二つの方が喜ばれれるかもしんない。


「ん?」


 今、視界の端に何かあったような?


 花を摘んでから気になった方へと歩いてく。ゼランの話では森の奥には湖もあるし、大人しい野性動物もいるらしい。あたしが見たのもきっとそういう生き物に違いない。


 大人しい生き物ってどんなのだろう? もしかしたら触れちゃうのかな?


 ワクワクしながら遊歩道を外れて奥へ奥へと進んで行く、だんだんと奥に行くにつれて戻った方がいいって頭では分かっているのに、中々姿を見ることが出来なくて気付けば今居る場所が全く分からなくなってしまった。


 さすがにこれはヤバい。


 お城の森で迷子になったらゼランに怒られるだけじゃなくてあたしのことを嫌っている他の使用人たちに何を言われるか分からない上にラフォン様に迷惑が掛かってしまうかもしれない。


 でも、この森に植わっている木はどれも似たような感じで遊歩道もなく自分がどこを歩いているのかも分からないのよね。こんなところで迷子になるなって言う方がどうかしている。


 お城が見えたらいいんだけど頭上にはうっそうと枝が繁り薄暗くて空もあんまり見えない。


 落ちついて遊歩道を探すか誰か歩いている人が居ればその人に道を尋ねればいいと思いながら適当に歩くと見知らぬ場所にでた。


「どこここ?」


 森の中に小屋? にしては大きい。あたしたちよりまだいい暮らしをしている庶民の家より少し大きいぐらいの家がある。何でこんなところに?


 管理小屋とか? それなら誰かいる?


 一瞬食堂のおばさんに聞いた新しい怪談を思い出したがあれは立ち入り禁止になっている場所だからこことは違うはずだ。


 誰も居なかったとしても休憩する分には問題ないやと開けてみようとしたが鍵が掛かっているみたいで開かない。


「すみません、誰かいませんか?! あたし最近お城で働き始めたラナって言うんですけど、迷子になっちゃって!」


 誰も居ないのか声を掛けてみても辺りはシンと静まり返ったままだ。


「居ないんですか?! ……じゃあ、休憩してもいいかな」


 ずっと歩き回ってていたら足が痛くなって来ちゃった。


 だから休憩させてくれないかなって思って声を掛けた。誰も居ないのかなとだけど、この時のあたしは疲れ切っていて絶対に休みたくて仕方なくて諦めたくなくて、どこかから入れないかと小屋のまわりをうろうろと移動しているとそれを見つけた。


「えっ……」


 小屋についている窓。そこから中が覗けそうだといそいそと窓の中に何か動くものがいた。


 何だろうと目を凝らす。


 外の方が明るくて中は薄暗くて何があるとかは分からなかった。けれど、目を凝らしてしばらく中の様子を伺っていると分かった。


「ユリア!!」


 ユリアがいた。あたしと同じ色の長い髪を耳の上で2つ結びあたしに気付いた様子はなく室内の奥を見ているのか何かをしているのかは分からない。


 けど、黒く豪奢と言っていいようなドレスを身に纏ってユリア自体が若干小さくなってしまったような気はするがあたしにはあれはユリアだと確信した。


「ユリア!」


 もう一度呼ぶ。今度は窓ガラスを叩いてこちらの存在を知らせるとユリアがぴくりと動いた。 


「ユリ……えっ」


 こちらをゆっくりと振り返ったユリアはやつれ顔の右側に血のついた包帯をしていた。


 どういうこと? いつ怪我をしたの? 会わない間に一体何があったの? 


 あたしが変わってしまったユリアの姿に動揺して固まっているとユリアはゆっくりと窓に近寄って来てくれて窓を開けてくれた。


 その緩慢な動きもどこかぎこちなくおかしい。


「ユリア……?」

「おね……お姉ちゃん……ど、して」


 ユリアが泣いている。


 いつもあたしが泣いてユリアが慰めてくれていたのにどうしてと思うがそれよりも窓枠に手を掛けて勢いを付けて中に入った。


「ユリアよかった。ずっと会いたかった……え、何これ」


 ユリアは痩せこけていた。何があったのかと聞きたかったのにあたしは馬鹿みたいに突っ立ってユリアを呆然と眺めていたらあることに気付いた。


 鎖だ。外からは見えなかったのにユリアのドレスの裾からどこかへと繋がっている鎖かあった。あたしは半ば呆然としつつユリアにごめんねと断ってからユリアが着せられているドレスの裾をめくるとユリアの足首に足枷がつけれていた。


 そして、ユリアが歩いた場所には真新しい血痕がついてる。


 室内には他にも黒くなった血痕らしきものが沢山あって……。


「ユリア……何これ……」

「逃げてお姉ちゃん……あたし間違ってた……」

「ユリア……何があったの……」


 あたしは間に合わなかったの?

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