今日はゼランもミーヌさんも捕まらなかったので一人でお城の敷地内を探索している。
城内よりも人に会う率は下がるし、いくらラフォン様の侍女になったからと言ってもあたしの身分じゃお城の中は入れない場所の方が多いのでそちらはラフォン様たちが請け負ってくれるらしい。
「お城に来たらすぐにでもユリアを探して逃げ出せると思ったのになぁ……」
もしかしたら王子様ではなく人拐いとかだった?
手の込んだことをしてもしかしたらユリアが祝福を持っているって知っていて近付いたとか? それだったらユリアは生きているだろうけど、どこか遠い国に売られてしまった?
そうだったらあたしはどこに行けばいい?
ユリアのためならここに来たようにどこにだって行くけど手がかりなんてない。今は悔しいけどラフォン様たちにお任せするしかないんだろうけど、全く何も言われないのは歯がゆくて仕方ない。
「あらラナちゃんじゃないの。どうかしたの?」
食堂のおばさんだ。
適当に歩いていたから知らない場所に出るかもと思ってたんだけど無意識の内に知っている方へと来てしまったみたいだ。
「ラフォン様にお茶?」
「ううん。休憩中だったの」
「あら、そうなの? おばさんは今から野菜の下ごしらえするところだったのよ。もしよかったら手伝ってくれると嬉しいんだけど平気?」
「それぐらいならいいですよ」
おばさんの噂好きのお陰で城内で貴族が通る道とか意地悪な使用人の働いている区画とか幽霊が出るという噂の場所まで教えてくれた。
幽霊が出るって場所はもしかしたらユリアがいるかもと思ってゼランに連れてって欲しいとお願いしたことがあったけど、昔からある噂話だから関係ないし新しい物があるならそれから探してやると言われてしまってる。
だから暇してるっていったら暇してるし、ユリアを探してるから忙しいっちゃ忙しい。だけど、おばさんのお陰で避けるべき場所は分かるようになったし、ミーヌさんやセリーヌさんが教えてくれなかった貴族との対応の仕方とか細々としたことなんかを教えてくれるのでいつかお礼をと考えていたからこんなことでいいのならいくらでもやるよ。
「ありがとう。ラナちゃんが来てくれたから助かるよ」
食堂には他にも人が沢山いるのに野菜の皮剥きやなんかはやりたがらないらしくいつもはおばさんが朝から晩までひたすらしていたり運よく捕まえることが出来た新人なんかに手伝ってもらって回してるんだって。
「あたしだって他にも仕事あんのにねえ。最近の若い人は根性もないのに来るから」
「そうなんですねー」
あたしお城で働いる中で一番若いって言ってたのにと苦笑いしか出てこないけどおばさんが言っているのは下働きの人たちのことだとしばらくしてから気付いた。
「下働きでも何でもすぐに料理とか盛り付けとか出来るんじゃないか自分は人よりも出来るからそんなことはしたくないってさあんたは下働きなんだから下働きの仕事もしようとしないだなんてそんなんだからすぐにクビになるんだっての」
「大変ですね」
適当に相槌を打ちながら野菜の皮を剥いていく。
おばさんはずっと口を動かしているのに手もちゃんと剥いてくし早い。
あたしもおばさんみたいに剥きたいけど喋りながらだとどうしても遅くなってしまう。でも、相槌だけしか打ってないからそんなに遅くはないと思いたい。
「あ、そうだ。おばさんこの間言ってた幽霊の話って」
「ああ、あれ? あれね。あ、そうだ。新しい幽霊の話があるんだよ。ラナちゃん聞く?」
「どんなのですか?」
前に聞いた話は離宮のことだけど大昔幽閉されて亡くなったお姫様が夜な夜な道ずれにする人を探しているだとか戦で亡くなった恋人を探しているだとか中央の見張り窓から見える絵が骸骨に見える人は死期が近いだとか色々あった。
あたしはあんまり怖いとは思わなかったけど、こういう話が駄目な人はそういう話を聞くとすぐに辞めてしまうんだとか。
すぐに辞めるぐらいなら最初から応募なんてしなきゃいいのに。そしたらあたしみたいな孤児が働ける機会が増えるかもしんないのに。
「それがね庭園の奥に森があるんだけとね最近立ち入り禁止になったんだよ」
「何でですか?」
庭園の奥って言うけどお城には庭園がいくつもあって趣が違うらしい。
今度ラフォン様が行く時があれば連れてってくれると約束してくれた。
「あたしら下っ端には詳しいことは分かんないけど最近そこに髪の長い女の霊が出るんだって」
その内の一つだろうか? おばさんは詳しい場所は教えてくれなかった。それよりも新しい話だから早く話したいとばかりに話すのであたしも聞くのを諦めて合いの手を入れるだけにする。
「女の?」
「ああ、その声を聞くとあの世に連れてかれるとか」
「あの世に」
「ラナちゃんも気をつけなよ」
「そうですね」
幽霊とかそういったものには興味がなかったんだけどユリアの手掛かりになるかもと思って聞いていたのに今日の噂もユリアとは関係なさそうだった。
おばさんの手伝いでかご三つ分ぐらい野菜の皮を剥き終わるころにゼランが迎えに来てくれたのでおばさんに挨拶して戻った。