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第7話 ゼラン視点

 ラフォン様付きの武官になってから早数年。


 お偉方の護衛は退屈な時と忙しい時の差が激しいが給金がいいから続けられている。


 ちょっと前にやって来たラナという小娘。


 ガリガリとまではいかないが痩せ細った体に必死にすがる姿にラフォン様とミーヌは簡単に絆されたみたいだがラフォン様の身を守る者としてはそう簡単に絆される訳にはいなかいと気を張っていたがそんなことを気にするのが馬鹿らしくなるぐらい妹のことしか考えてないのでその内馬鹿らしくなってやめた。


 そのちょっと前にラナからラフォン様に抱きついた時のことで何かゴニョゴニョと言っていたがあまりにもゴニョゴニョと言っていたから適当に頷いておいた。


 ラナを雇っていたところの女店主はラナに詳しく話を聞けば数年そこで働いていたということだったので子どもを働かせるのは違法だと逮捕されていたので店はもう潰れてなくなっている。


 ラナを捨てようとしていたという両親も探しておくようにと言われているが、ラナの証言で探しに行けばラナの両親はとっくに消えた後で近所の人間に聞いてもだいぶ前に引っ越して行って行方は分からないとのこと。


 その近所の人間にラナのことを聞いてみても逆にユリアのことしか聞かれなくてラナはよっぽど影の薄い子だったのか露骨な贔屓をされていたのか。


 ユリアの方がまともな感性をしていたお陰でラナはスレていない子に育ったのかと思わず俺もラナに絆されるところだった。


 一応そのことはミーヌに報告してどこかに身を隠してしまったラナの両親をもう一度探しに行くかと重い腰を上げようとしていたのをミーヌに止められた。


「ゼランちょっといいですか?」

「何だ? もうすぐしたらまた出かけるが」


 ラフォン様からの命令だから断ることは出来ないぞと言うとミーヌは分かっていると頷いた。


「人探しなら姫に頼むのが一番早いのにな」

「そうですね。ですが、ラナのことを姫に伝えていいものなのかラフォン様はかなり猜疑的ですから」


 確かにこの国の姫は人探しに最適な祝福を持っているんだが、姫はこの国の監視のために祝福を使っている。ラナの妹のユリアのことを探すのに協力してくれるか分からないし、姫に協力をあおげば王のところへ報告が行く。


 もし、あの王子だけの独断でやったことならばいいが姫が黙っている時点でその線はないだろうからな。用心のために紙面には残さずにこうやって口頭でやり取りする程気をつけなければならない。


「それで出かける前に付き合って欲しいところがあるんですか」

「安い酒場か? お前には向いてないの分かってるだろ」


 このお高くとまっている男はどこかの貴族の三男坊だったかで前に行ったことがないと言っていたので連れて行ったらば粗末な服を着せていたのに育ちの良さは隠せずに女たちの注目を集めやっかんだ野郎たちに絡まれて大変な目に合った。


 それ以降何が面白かったのか分からないがたまに行こうと誘われているが全て断ってる。あんなのは二度とごめんだからな。


「いえ、今回は違います。ついて来てください」


 はいはいと適当に頷きながらついて行けば使用人たちの居住区の方に向かってる。まさかと思えばラナの部屋をノックして一緒に出掛けてこいと屋敷から追い出された。


 何なんだあいつはと思ってラナに渡され紙を見てみればラナに祭りを楽しませろとのこと。


 何で俺がと思いながらちらりとラナを見れば顔色が悪く目の下にはクマまで出来ている。


 大方根を詰めすぎてミーヌに心配されてこんなことをしたのだろうが自分で行けよと悪態を吐きたくなったが、子どもの手前我慢して祭りへと繰り出して沢山食べさせて遊ばせていたら疲れたのかぐっすりと眠ってしまったので屋敷へと戻るとミーヌが待ち構えていた。


「自分で行けよ」

「私ではここまではしゃいではくれないと思ったので……ふふ思った通りぐっすり眠ってますね」


 にこやかに笑うミーヌに殴りたくなったがラナを抱っこしたままなので諦めて部屋で寝かせるために移動するとミーヌもついてきた。


 まだ何かあるのか?


 そう思ったがミーヌはラナの部屋のドアを開けたり俺がラナをベッドに横たえると掛け布団をかけてやったりと甲斐甲斐しく世話をしてやっているんだがこいつは母親かなんかか?


「完全に絆されてんじゃねえか」

「そうですね。ラフォン様の身を守ることを考えるのなら私もラナを警戒するべきなんでしょうがユリアを見つけるためならばとここまで必死にする姿が健気で」

「そうかい」


 ラナの頬を撫でる姿はすっかり保護者のようでこいつはいつの間に性別を女に変えたんだと聞きたくなったが呆れてため息しか出なかった。


「ラフォン様には何て言うんだ」

「私が気に入ってしまっただけです。報告なんてしません。それにラフォン様へ報告する時には私情は挟みませんよ」

「そうであることを祈るよ。ああ、そうだ。忘れるところだった」


 ミーヌにいくつかの紙袋を見せるキョトンとした顔をしてきた。


 その顔が面白くて笑ってしまいそうになったがそれをおくびにも出さずに紙を押し付ける。


「何ですかこれ?」


 押し付けられたミーヌは紙袋をがさごそ漁ってるので教えてやった。


「何ってラナに買ってこいって言ってた旨い奴だよ。ちゃんとラナが選んだんだから今度何か言ってやれ」

「そうします。ゼランもありがとうございました」

「今度高い酒おごってくれるだけでいいさ」

「それは……善処しますよ」


 苦笑するミーヌを鼻で笑ってやると二人揃ってラナの部屋を後にした。


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