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第6話

「ま、待って……」


 ゼランの足は早く駆け足で着いて行くがいつまでも背中に追い付くことが出来ずに息を切らして思わず声を上げる。


 最近勉強ばっかりしてたせいか運動不足になってる気がする。戻ったらちょっと運動しようかな。


 声を上げたお陰かゼランはようやく立ち止まってくれた。


 止まってくれたお陰ぜーぜーと荒くなってしまった息をようやく整えられるとあたしは一旦追い付くのを止めて息を整えることに集中する。


「あー……子どもと歩かねえから悪いな」

「えっきゃ!」


 ゼランの呟きに返事をするよりも早くゼランが近付いて来たと思ったらそのまま抱き上げられてびっくりした。


「こっちの方が早いだろ。それにお前も街の様子が見れていいだろ」

「えっ、あ、あの、ありがとうございます」


 いきなり抱っこされてびっくりして暴れそうになったけどびくりともしないゼランの腕のせいであんまり暴れられなかったし、意外と高くて暴れて落ちたら痛い目を見るのはあたしだと思い直してしっかりとゼランにしがみついてから一応お礼を言ってみる。


「別にいい。それから子どもなんだから俺に敬語はいらない」

「えっと……そうする。あの、それでミーヌさんのお使い」


 いいのかなと思ったけどさっさとしろと睨まれたので慌てて敬語をやめて気になっていたことを尋ねた。


「ああ、あれか。あれは気にしなくていい。それより何か食うか? 買ってやるぞ」

「駄目だよ。お使いを頼まれてたのに」


 勉強も毎日沢山しているのにまだお城で働けないし、ここでお使いをしてあたしは役に立つということをミーヌさんに知ってもらってラフォン様にもあたしが使えるんだって伝えてもらわなくちゃ。


 だからお使いを済ませたいと主張するとゼランはため息を吐いてきた。


「何でため息を吐くのよ」


 ちょっとムッとしながら聞けばもう一度今度はわざとらしくため息を吐いた。


「そんなに根詰めてたらその内体壊すぞ」

「ユリアに会えるなら体壊したっていい」

「そのユリアが再会した時にお前が体壊してたら喜ぶのか?」

「……」

「なら、ほら今日は食って子どもらしく遊んどけ」

「ふぐっ」


 いきなり口の中にぶどうを一粒入れられて変な声が出た。


 何するのよと睨むがゼランはお店の人にお金を払っていてこちらを見てもいなかった。


 何なんだこいつはとぽかすか殴ってやりたかったのにお金を払い終わったせいで次から次へとぶどうを口に入れてくるので怒るに怒れない。


 仕方なくぶどうを咀嚼するのを優先させてぶどうがなくなるのを待った。


「次は何食う?」

「まだ食べるの?」


 あたしの口に入れる合間に自分も食べていたみたいだけどゼランにはぶどうだけじゃ全然物足りなかったみたいでキョロキョロしている。


「どこかで落ち着いて食べたら?」

「今日は祭りだからな。それにこういう日は普段食べれないモンも屋台とかで食えるんだぜ」

「祭り……」

「祭りは初めてか?」

「ううん。ロンシャウでも何回か行ったことはあるよ」


 ここまで人の多いのは初めてだけど何回かユリアと行ったことはある。


 あの時はお金があんまりなかったから二人であっちこっちのお店を冷やかしてたけど、それでも充分に楽しかった。


 またユリアと一緒にお祭りに来れたら──


「なら祭りの楽しみ方は分かってるな。こういうところではそんな仏頂面してる奴なんて居ねえからほらお前もあの子たちみたいに笑っとけ」


 誰が仏頂面だと睨んでからゼランが指差した方にいる子どもたちの方を見れば弾けるような笑みを浮かべていた。


 あたしがあんな風に笑ったのっていつだっけ?


 ユリアがいた頃はあんな風に笑っていたような気がするけどユリアが居なくなってから笑ったっけ?


「むご」


 どうだった? と考えていたらいきなりゼランが今度は串焼きを口に突っ込んできた。


「ほら、どんどん食え。ミーヌたちの土産も買うぞ」

「ミーヌさんのお土産がお使いなの?」


 口に入ってる分だけ咀嚼してから尋ねるとゼランは一瞬動きを止めたような? 


「まあ、そんなところだ。ほら、どんどん食え。一番旨いのをあいつらに持って帰ってやれ」


 気のせいかなってぐらいの一瞬だったからもしかしたらあたしが気にし過ぎなだけだったかもしれない。


 気のせいか何だったんだろと考えそうになったけどミーヌさんの名前を出されてすぐに忘れてしまった。


 ミーヌさんへのお土産なら仕方ない。


 あたしがおいしいと思う物は庶民的な物だからミーヌさんの口に合うのだろうか? と疑問に思ったけどゼランはあたしと同じ物をぱくぱく食べているし多分大丈夫よね。


 ゼランにあれこれ口に突っ込まれる前にあれ食べたいこれ食べたいと自分から言うようにして途中ゼランが腹ごなしをしたいと言うから祭りのお店を冷やかしたり、遊べそうなお店では武官なのを誤魔化してその肉体を遺憾無く発揮してお店の人に二度と来るなと怒られていたりしてわりかし楽しかった。


 楽しかったお陰かくたくたになっていつの間にか眠ってしまったらしくて起きた時にはベッドの上でびっくりした。

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