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第5話

  勉強を始めると決まってからあたしはラフォン様の屋敷の一角、使用人の部屋に住まわさせてもらっている。


 これはあたしが衝動的に飛び出してきたせいで住むところもお金も全くないと伝えたところ頭が痛いというように三人が額を抑えてラフォン様がそれならとお部屋を貸してくれることになったんだけどゼランとミーヌさんが使用人部屋を主張したからだ。


 あたしは住まわせてくれるのなら物置小屋でも何でもよかったのでそれよりも広い部屋を借りられて満足している。


 元々住んでいた部屋の方がボロっちくて隙間風なんて当たり前だった。


 使用人部屋でもあたしにはベッドがふかふかで落ち付かなかったけど、慣れるようにとミーヌさんに怒られてしまった。


 一生慣れることはないんじゃないかって思っていたけど一週間ぐらいで何とか慣れたけど、ラフォン様はあれよりもっといいベッドを使っていると聞いた時にはさすが王族だと感心した。


 あたしが礼儀作法だなんだと覚えたらお城に連れて行ってくれる。その時にはもっといいベッドを用意してくれると言ってたけどこれ以上の物を用意されたらあたし元の暮らしに戻った時どうなるんだろ?


 ここの人たちは何の力もないあたしでも優しくしてくれる。


 だけど、ユリアが本当に王子様のところに居たらあたしは追われる身になる。


 そうなったら今のようにここには居られないし、ラフォン様にも迷惑を掛けるだろう。


 それでもあたしはユリアに会いたい。


 今までのように辛いことも悲しいことも二人で抱きしめ合えれば何とかなるような気がする。


 あたしはユリアと一緒がいい。ただそれだけしか求めてない。だけど、ラフォン様たちの優しさに触れると心のどこかかチクチクと刺されるようなふわふわするようなよく分からない気持ちになる。


 もしかしたらここに長くいたらあたしが今までのあたしじゃなくなってユリアのことをいつか必要としなくなる日が来てユリアを忘れちゃうようなことがあるかもしれない。


「そんなのヤだ。あたしに必要なのはユリア。ユリアとずっと一緒に居ようねって約束したんだもん。絶対にユリアのことは諦められない」


 声に出して呟けば少しだけ前向きな気持ちが沸いてきた。


「あたしはユリアを取り戻す。その為ならラフォン様たちの優しさも利用するべきよ」


 口に出すと酷いんじゃ? と言う自分の声は小さくなり、それでいいと頷く自分の声の方が大きくなっていつの間にか前者の声は聞こえなくなった。


「あたしはユリアだけいてくれたらもう何もいらない」


 ふかふかのベッドに驚く暇もおいしい食事に舌鼓打つ暇もいらない。あたしはあたしに出来ることをすればいい。


 それからはミーヌさんに程々にするようにと言われたけど頑張って色々と覚えた。


「ラナ今いいですか?」

「はい?」


 教科書にと渡された本を部屋で読んでいたらノックと共にミーヌさんの声がしたので返事をすれはミーヌさんと共にゼランが入って来た。


 実はあたしゼランとは最初に会った時以来殆ど顔も合わせたことはない。


 一応あの時のことは必死だったとは言えやってはいけないことだったので後でしっかりと謝ったんだけどゼランは聞いてるのか聞いてないのか曖昧な返事だったのでもしかしたら許してはくれてないのかと顔を見ると緊張しちゃう。


 そしてゼランはあたしに用はないと話し掛けようともしてこなかったのであたしと関わりたくはないだなと思ってたんだけど、そんなゼランがミーヌさんと一緒とは言えあたしに宛がわれた部屋にやってくるなんてと目をぱちくりとさせているとミーヌさんが苦笑し出した。


「今日はラナにお願いがありまして」

「あたしにですか?」


 ミーヌさんはラフォン様に仕えてる人だからあたしにお願いをするならラフォン様から何か言われたんだろうか?


 勉強は順調だと思うけどもしかしてあたしが邪魔になったとか?


「あ、あの……」

「そんなに大したことじゃないんですけどゼランとお使いに行ってきてくれますか?」

「え? お使いですか?」

「おい、俺はまだ了承してないんだが」

「いいじゃないですか。どうせ今日はラフォン様は屋敷に居るんですから。着いたらこの紙に書いてあるものを買って来てください。お金はゼランに渡しておきますから」


 一枚の紙を渡して来たので開こうとしたら着いてからだとミーヌさんにたしなめられてしまった。


「もう馬車の手配はしてありますので二人で行って来てくださいね」


 にこやかに笑うミーヌさんにそのまま部屋から追い立てられてしまった。


 戻ろうにもお使いをしないといけない。でも、ゼランと?


「……まあ、あの、なんだ。さっさと行ってすぐに帰るぞ」

「分かりました」


 買うものだけ買って戻りたいのはあたしもおんなじだ。


 ゼランと一緒なのも気まずいし、もっと勉強して早くお城で働けるようになりたい。


 ミーヌさんが手配したという馬車に乗って街に向かう。


「ミーヌが買って来いって言ってたのは何だ?」

「街に着いてから見ろって言ってました」

「今見たって同じだろうが」

「あ……」


 ミーヌさんに渡された紙をなくさないようにと大事に持っていたのにゼランはそれをあたしから抜き取った。後でミーヌさんに言い付けてやる!


「……あー、マジか」


 何が書いてあったのか分からないけどそれを見たゼランが頭をポリポリと掻いて困惑したような顔をしていた。


「何が」

「お二人さんそろそろ街に着くよ」


 何が書いてあったんだろ? 気になって声を掛けようとしたら外から御者が声を掛けてきてタイミングを逃してしまって聞けなかった。


「わっ!」


 あたしが住んでたロンシャウより王都の方が人が多いのは分かっていたが、それにしても人が多い。


「ラナ」

「あ」


 馬車から降りて人の多さに圧倒されていたら馬車の中にまだいたゼランに声を掛けられて慌てて馬車の前からどくとゼランが降りてきた。


 そういえば何を買うんだろとミーヌさんに渡された紙を読もうとしたけど紙はまだゼランが持ったままだった。


「買うものっていったい何だったんですか?」


 御者と話していたゼランに声を掛ける。ゼランはこちらをちらりと見ると御者と二、三言話すと馬車は行ってしまった。


「とりあえず歩くぞ」


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