ラフォン様と一緒にいた人たちはゼランって呼ばれていた人ともう一人の人はミーヌさんというらしかった。
ラフォン様はこの国の王族の方らしいが、王子様ではなくその親戚らしい。
あたしはかなり高貴なお方を捕まえてその前で泣いてしまったらしく後でゼランとミーヌさんにこっぴどく怒られてしまったし、自分でも冷や汗を掻いた。
首飛ばなくて本当によかったとしか言い様がなかった。
「……というわけでラナここまでは分かりましたか?」
「はい……」
下働きとは言えお城で働くなら教養はあった方がいいなんて言われてやらされているがあたしにはどれもこれもちんぷんかんぷんで頭が痛い。
読み書きが出来るだけじゃ駄目だったんだ。
下ごしらえとどっちが楽かって言われたらこちらの方がずっと楽なのかもしれないけど、普段してないことをいきなり沢山始めたら混乱してしまう。
というか全く違う分野たから比べるのもおかしい。
そして、教養って何って言ったらあたしに色々教えてくれることになった先生役のミーヌさんが頭を抱えていたけど、そんなに変なこと言ったかな?
お店では教養って言葉も聞いたことなかったから聞いただけなのに。
試験では礼儀作法と筆記試験だけだったはずなんだけどと思って聞いてみたらミーヌさんはこう言った。
「当たり前です。あなたはラフォン様の推薦で働くんです。その辺の下働きと同じだなんて考えないでください」
下働きよりは待遇をよくしてくれるっぽい?
試験会場であたしのことを笑ったあの貴族女よりも上になれる?
それだったら頑張ってみてもいいかも。あいつのことを嘲笑ってやりたかったし。
最初は読み書きだけだったけど、出来ると言っても字が汚いからとやり直しをさせられたり、姿勢が悪いと怒られたりと大変だった。貴族はもっと小さい内からやるってミーヌさんに言われてあの性格の悪い女の人もこれをやってたのかとちょびっとだけ反省した。
そりゃこんなに勉強ばっかやってたら性格歪みそう。
慣れないことばかりで疲れ果て、いくらユリアのためでもこれ以上は頑張れないと逃げ出しそうになった時はミーヌさんは他に興味があればって感じでこの国の歴史とかちょっとした裏話とかも教えてくれるから前よりは面白くなってきた。
ラフォン様はあんまり顔を見ない。ミーヌさん曰くかなり忙しい人であたしが会った時にあんなところにいた方が珍しいらしかったそうだ。
ラフォン様のお陰で綺麗な服を着れて今まで食べたことのないようなおいしい食事にありつけるのだから感謝してもしきれない。直接お礼を言いたいのに会えないのは少し寂しい。
「ラナがちゃんと働けるようになればラフォン様に会えるようになりますからそれまで頑張ってください」
「……はい」
「ところでラナはいくつなんですか?」
「あたし? あたしは……13?」
指を折りながら数えると13とひきつった声が聞こえた。
「13はまだ若すぎます。どこも雇ってはくれないはずですが」
「そうなんだけど……」
あたしの場合は運がよかった。
ユリアがいたお陰で女将さんに雇ってもらえたんだ。
そのことを話せばミーヌさんが「祝福の子か」と呟いた。
「妹は」
「ユリアだよ」
「……ユリアはどんな祝福を持っていたんですか?」
「色々だよ」
「色々?」
「うん。えっとね、あたしが知ってるのは動物と話したり、何もないところから水を出して操ったり、あとね、花を空から降らしてくれた! 他にももしかしたらあったかもしれないけど、調べるようなお金なんて家にはなかったから分かんないや」
王都ではそういうことを調べてくれる場所もあるみたいだけど、あたしたちが生まれたのは女将さんの店よりもっと遠くの田舎だったから旅費とか仕事のこととか考えたらとてもじゃないけど調べられない
「それはすごいですね」
「うん!」
あたしの自慢の妹なの。にっこり笑ってそう答えるとミーヌさんは不思議な顔をした。
「どうかしたの?」
「……いいえ、ラナは祝福の子ではないのですか?」
「あたし? 違うよ。あたしは何の力もないよ」
それであたしだけ捨てられそうになった。
あの時ユリアがあの人たちが捨てたんじゃなくてあたしたちがあの人たちを捨てたんだって言っててユリアについていけばずっと幸せに暮らしてゆけると思っていた。
ミーヌさんにそう伝えると何故か泣き出しそうな顔になってる。
「何で泣きそうなの?」
「あなたは辛くないのですか?」
思わず尋ねれば聞き返されてしまった。
「もう終わったことだよ。父さんたちに会えなくても何とも思わない。その辺で野倒れ死んじゃえとすら思う。でも、ユリアに会えないのは辛い」
「そうですか。では、もっと勉強を頑張って働けるようになってください」
「……はーい」
勉強はあんまり好きじゃないけど、ユリアに会うためなら頑張れる。だから机に向かったあたしのことをミーヌさんがどんな顔をして見ていたのか知らない。けど、多分同情とか憐れみの目だっただろう。そういう人は沢山見てきた。