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第2話

 馬鹿だった。


 あの時のあの人の優しげな微笑みに簡単に騙されてほいほいと着いて来てしまったけれど、そんな上手い話なんかないってきっぱりと断ってお姉ちゃんと一緒に居ればよかった。


 こんなところなんかに着いて来るんじゃなかった。


 後悔したって遅いのは知ってる。


 でも、もし、もしも時間を巻き戻すことが出来るならば──


 お願い神様。お姉ちゃんともう一度だけ一緒に居させてください。もう他には何も望みませんから。


 だからどうかお願いします。




◇◇◇◇◇◇




 今日の夢はいつもと違った。最近の夢はいつも嬉しそうな笑みを浮かべてあたしに背を向けて去って行く夢だったのに、今日の夢はユリアが真っ暗な部屋でうずくまって泣いていた。


 人に言ったらたかが夢だと笑うだろう。


 だけどやっぱり王子様の結婚の話も聞かないし、ユリアは騙されたんじゃないんだろうか? そして誰かに騙されて泣いているのかもしれない。


 帰ってくればいいのに帰ってこれない事情でもあるの? もしかして誰かに閉じ込められているとか?


 そう考えただけで居ても立ってもいられなくなって気が付けば少ないへそくりをかき集めて馬車を乗り継いで城の前に立っていた。


 衝動的に動いてしまったせいでお店は何日も無断欠勤してしまった。女将さんはかなり怒ってるだろうし、もしかしたらクビになってるかもしれない。


 でも、いいんだ。あたしにはユリアの方が大事だから。


 城門の前でしばらく黙って見ていると城に用事のある人は入り口の衛兵に何か見せたり声を掛けたりしている。


 そりゃそうだ。お城ともなったら警備とかもあるだろうし、あたしみたいな貧乏人が来るようなところでもないし簡単に入れる訳がない。あたしもあそこに楽に入れるような身分かツテがあればいいけど孤児でロクに働けないような子供にそんな物はありはしない。


 だから、どこか上手く潜り込めるところがあればいいんだけど。


 崩れてる城壁とか登りやすいところはとお城をぐるりと一周してみたけどあたしのような小娘が忍び込めそうな場所はなかった。


 そりゃあたしみたいな子供が登れるような場所なんて簡単に見つかる訳がないよね。


 残念に思いながらこれからどうしようか悩んでいたらいいことを聞いた。


「今度城で人員の募集するらしいけどお前どうする?」

「働きたいのか? やめとけよ。上司はお貴族様だぞ気分を害したら俺ら庶民なんか簡単にクビになるぞ」

「あ、あの!」

「ん? お嬢ちゃんどうかしたか?」


 お城の求人? どういうこと?


 あたしみたいな小娘でも働けるんだろうか?


 気付いたら求人について話していた男の人たちに話を聞きに行っていた。


 男の人たちは最初は驚いてたみたいだったけど、あたしが本気だと分かると詳しく教えてくれて最終的には頑張れよと見送ってくれた。


 どうせ店を無断で休んだんだ。きっとクビに違いない。


 それにあそこは給料もよくなかったし、女将さんの怒鳴り声もひどいもんだったし客も飲んだくればっかで全然楽しくなかった。


 ならさっさとあそこを辞めて下働きの募集に賭けた方がいい。


 下働きの話をしていた人たちに詳しい話を聞いたし、何とかなるはずだ。


 一番近い試験の日は都合のいいことに来週らしくまだ日にちがあった。ロンシャウに戻ってお店を辞めて王都に戻って来ても試験には充分間に合うはずだ。


 試験の内容は筆記と簡単な礼儀作法ぐらいなんだとか。


 女将さんのお店で働くことになってから読み書き出来ないと使えないと言われてユリアと必死で頑張った。


 礼儀作法には明るくないけれど、お店で文句は言われたことはないから多分大丈夫だと思う。


 サボってしまったからそのまま放っておいてもいいような気はするが、けじめとしてちゃんと女将さんに辞めるって伝えなきゃ。


 それに借りている部屋も出ないといけない。


 荷物は少ないからいいけど、それなりに思い出もある。


 片付けをちゃんとして鍵も返さないといけない。


 行って戻って来るぐらいの多少の蓄えはまだある。だから大丈夫。


 試験に落ちた時のことは考えない。だって試験に落ちてユリアに会えなくなったりしたら嫌だもん。


 今からお店に行って辞めることを伝えてこよう。どうせ今から行ったところで怒られるだけだろうし、そのまま辞めたところで文句なんか言われるはずなんかないんだし。


 あたしみたいな奴が居なくなったら女将さんも喜ぶだろう。


 ユリアが居なくなってからいつももっと役に立つ人が欲しいって言ってたもん。


 だからユリアお願いだからお城にいてね。


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