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第五十二話 同じ手口


 妖狐が一歩進むたびに、周囲に金色の呪力が溢れ出る。

 その様は神々しくもあり、本当に妖狐が妖魔かどうか怪しく思えるほどだ。


「どうした? 次はお前の番だぞ?」


 妖狐は再びコレクターに言葉を投げかける。

 ほとんど死刑宣告に近いその言葉に、私と影薪は息を飲む。


「これで終わりだと思うなよ!」


 コレクターが叫ぶと、コレクターの背後の空間がひび割れ始めた。


「またバカの一つ覚えみたいに何かを呼び出すのか?」

「舐めるなよ! お前が何をしているのか分からないが、コイツはさっきの奴よりもっと洗練されているのだ! 来い、ライトゴーレム!」


 コレクターの背後から出現したのは、禍々しい怪物だった。

 さっきの怪物と同じく、黒い布で目元を覆われているゴーレムだ。

 ゴーレムという名前からてっきり石や岩のような見た目を想像したのだが、実際は大きく異なっていた。

 幾重にも重なった人や妖魔の手足がその体を構成しており、非常にグロテスクな見た目をしている。

 大きさだけは名前の通り、背丈は妖狐の二倍はありそう。

 体の太さなんて二倍どころではない。

 とても洗練されているとは思えないけれど……。


「なんだこれは? ふざけているのか? こんなおもちゃで俺を殺せるとでも?」

「言っていろ、裏切り者の元妖魔の王。捻りつぶせ! ライトゴーレム!」


 コレクターが叫んだと同時に、視界に収まっていたはずのライトゴーレムが姿を消した。

 一瞬のあいだに妖狐の背後に移動していた。


「スピードは中々だな」


 妖狐はライトゴーレムの地面を粉砕するほどのパンチをひらりと躱し、ライトゴーレムとコレクターのあいだに着地する。


「一体どういう仕掛けだ? どう見てもそこまでの移動ができる見た目ではないが」


 確かにどういう仕掛けだろう?

 何か呪力の助けを借りている気配もない。

 ライトゴーレムの移動時には、一切呪力の放出はなかった。


「まあいい。秘密は少しずつ暴くとしよう。ほら、来い。そんなんでは俺に触れることすら叶わないぞ?」


 妖狐は手招きしてライトゴーレムを挑発する。

 するとライトゴーレムは挑発に乗り、高速移動を始める。

 今回は妖狐の背後に出現するわけではなく、妖狐の周囲を高速で動き始めた。

 目で追うのがやっとの速度。

 そして妖狐の死角に入るタイミングで攻撃を仕掛ける。

 妖狐はいとも簡単にそれらを躱し続ける。


「芸がないな。さっきのもだが、一体あたりにつき一つの機能しか持たせられないのか?」


 妖狐はそう言って簡単にライトゴーレムの波状攻撃から逃れて距離をとる。


「黙れ! この機能美こそが俺の求めたものだ!」


 コレクターの言葉を聞いていると、どこぞの研究者のような物言いに聞こえてくる。

 そしてそれを叶えるためなら、どんな犠牲も気にしないタイプ。

 実際、あのゴーレムの生成に使われている手足は妖魔のものの比率が高い。

 同族までも犠牲にし続けてきたのが分かる。


「なぜそこまで固執する?」


 妖狐がたずねる。

 不思議なのだろう。

 ずっと何かを追い続けるコレクターの気持ちが、妖狐には分からない。

 もともと全てを持っていた彼からしてみると、何かへの渇望など理解しがたいのだ。


「貴様には分からないだろうな。俺は烙印妖魔。普通の妖魔とは違う」


 烙印妖魔?

 聞いたことのない名称だった。


「烙印妖魔か……。まだそんな蔑称が使われているのか?」

「妖狐、蔑称って?」


 私は妖狐に意味をたずねる。


「烙印妖魔とは妖魔として何かが欠落した者への蔑称だ。コイツの場合はそれが手足だっただけだ」


 妖狐はさらりと説明してくれた。

 生まれつき何かしらのハンデがあるのが烙印妖魔。

 コレクターの場合は、手足がない状態で生まれたのがそれに該当する。


「そうだ! 俺は生まれながらに周囲の妖魔たちにバカにされ続けてきた。だがその怒りと執念が俺の呪力を飛躍的に上昇させた。そして呪法というのは面白いものだ。その人がもっとも欲しいと思うものを具現化してくれる。俺の場合はそれが仲間であり自分の主張だったのだ!」


 ハンデを負った者が辿り着いた境地が今のコレクター。

 同族からもバカにされ、蔑まされた結果生み出された怪物。


「だからなんなのだ馬鹿馬鹿しい」


 妖狐はコレクターの話を容赦なく切り捨てる。


「過程がどうあれ、結果として今はそれなりの力を持ったのだろう? 妖魔共の手足をちぎって怪物を生み出し、復讐も叶ったのだろう? だったらお前はそこまでの存在だ。復讐に走った結果がいまの現実だ。ここでお前の道のりは終わる。俺が終わらせる。貴様に対する感情はないし、妖魔の王という役目も果たしたことはないが、元妖魔の王として貴様に引導を渡してやる」


 妖狐が宣言した。

 ここでコレクターの命を終わらせると宣言したのだ。

 元王の言葉に、コレクターは体を震えさせていた。


「黙れ! やれライトゴーレム!」


 ゴーレムが号令に反応するが、動きが止まった。

 高速移動ができず、ゴーレム自身が戸惑っているようだった。

 何かを見失ったかのように、首を回して探し物をしているように見える。


「お前の探している物はすべて壊させてもらった」


 妖狐がそう言って手元を見せる。

 手には本当に小さな電球が握られていた。

 ほとんど指の関節一つ分程度の大きさ。

 そして気づけば、この空間の至る所に電球の割れたあとが散乱していた。


「最初はなかったが、そのゴーレムが召喚されたと同時に空間にこの電球を呼び出す仕掛けだな? よくよく考えたものだ。その怪物にあの速度で動くだけの”知能”はない。あり得ないんだ。作り物があの速度で動けたとしても、あの速度の判断をできるはずがない。鍵はこの電球」


 妖狐はため息を漏らして手に持った電球を砕く。


「いつの間に……。それにどうやって気づいた? 光るのは一瞬だけ。肉眼で気づけるわけがない!」

「そのゴーレムは動くときに何も呪力を発していない。だがその電球が光るその一瞬、ほんのわずかながら呪力が漏れ出ていた。なぜ気づけたかといえば、ここに来る前の団地の時計仕掛けだ。あの時の長針の動きは団地の屋上の光によって制御されていた。その仕組みと全く同じ。俺はあの光を一時的に乗っ取ってここにいる。一度自分の支配に入れてしまえば、同じ仕掛けはすぐにわかるぞ?」


 コレクターは唖然とした様子で力なく笑い出す。

 ほとんど打つ手なしといった感じだろうか?


「俺がどんな呪法を使っているかも分からないだろう? どうやってあれだけあった電球全てを壊したのかや、お前の怪物の手足を引きちぎったのもだ。これが格の差だ。お前如きに手の内など理解できまい」


 妖狐は再び歩みだす。

 最初から一貫して同じ速度、同じ歩幅。

 まるで障害など何もなかったかのように平然と……。


「しかし同じトリックで俺に挑むとはな。仕掛けの種類は一つ一つ変えるべきだった。お前に欠けていたのは手足ではなくその頭だ。手足のハンデなど、貴様はとっくに乗り越えていたんだ」


 妖狐はコレクターの前で立ち止まった。



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