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第6話 ドガーン!!ガッシャーん!!!ばきゅん!!!シュン!!!

その瞬間、手に握れる位だった剣、急に重くなり、一瞬で身長と同じくらいの剣へと姿を変えた。

何が起きていたか理解する間もなく、目の前には一筋の光が迷うことなく真っ直ぐとこちらに向かっている。


俺は生まれてこの方初めてこんなにも身近に死を感じ、その死に必死に抵抗するように胸の前に剣を持って行く。


「何か…いい感じにこのビームから救ってくれ!!!」


大声で情けなくもそう叫んだ瞬間。


ビシュン!!!


という鋭い音が耳を貫通していく。


恐る恐る視線を戻していくと、目の前に迫っていたビームは消えて、後ろで爆発音が聞こえる。

急いで後ろを振り返ると、そこにあったはずのビルはぐしゃぐしゃに倒壊していた。


コンマ何秒で起こったこの事態があまりにも理解できず、自分の状況を把握するのに時間がかかってしまった。

無傷の自分。等身大になっている剣。後ろの爆発音。

もしや、本当にビームを切ったのか?


ってか、


「ビームって切れるのか?」


何とも情けない第一声。


なるほど。確かにバーチャル世界。

何でもありという訳だ。

そして、手に受けた衝撃にこれが実際に起きていることだということだと実感する。


砂埃が舞い散り、相手の顔が見えた時にはなぜか自分以上に驚愕していた。

その顔をしたいのはこっちなんだけどと思いながら肩に着いた埃を掃っていると、真っ青な顔をしたナツが走って寄ってくる。


「翔和っ!大丈夫!?」

「あぁ、何とか大丈夫。マジで死ぬかと思ったわ。」


極力心配をかけないように空っぽの笑顔で返す。

取りあえず俺が無傷なことに安心したのだろう、ほっとした表情を見せた。

すると、目の前から突然大きな声が聞こえてくる。


「わ、悪い!まさかあんなに力が出ると思わなくて、本当にごめん。」


わたわたという効果音が似合いすぎる位、相手は動揺していた。

あの時驚愕していたのは、俺がビームを切ったことではなく、自分がこんなに大きな力になることが想像できなかったからだったのか。

今まで自分のことに精いっぱいで相手のことをそこまで気にかけている余裕がなかったが、相手だって同じ血の通った人間なのだということを認識できて少し嬉しかった。


「いや、大丈夫だよ。」


こんな殺伐とした場にはふさわしくない位、和やかな空気が俺と相手の間に少しだけ流れる。

しかし、もう一人の方はすごい眼光でこっちを見ている。

もしかして、相手が俺を殺しそこなったことにめちゃくちゃ憤怒しているのだろうか。

そっちの方を見るのが怖くなり、ついプイっと顔を背けてしまった。

和やかタイプ終了だ。


「あの、ここでこんなこと言うのもおかしいかも知れないけど、俺、本当は殺しなんてしたくないんだ。」

「それって、俺たちに降参してって言ってるってことだよね。」

「…出来たら、それが嬉しいなとは思ってる。」

「悪いけど、それは選択肢に入れない方が良いよ。

俺たちは宝物を壊すつもりはない。壊す位なら死ぬ。

君たちが降参するつもりがないって言うなら、同じ条件だよ。どっちかが死ぬかしかない。」


相手の提案に、一切の余儀もなくバッサリと切り捨てる。

2人の主張を聞いても、どちらかが間違えているとは思えなかった。

ナツの言っていることはこのゲームを参加したという上では何一つ間違えていない。

だけど、相手の言っていることも、人間としてそう思ってしまうのは間違いだとは思わない。

相手を殺したくない気持ちも、それを分かってゲームに参加した気持ちも、

間違っていて、間違いじゃないからこそ、正しさなんて存在しなかった。


「俺も、このペンライトを壊すつもりはない。

な、マサ。お前のリボンも、俺が誘って初めてバズフラワーのライブ行った時の奴だし、

そう簡単には壊せねーよな!」

「う、うん…。」


どうにも先ほどからマサと呼ばれている方は歯切れが悪い。

彼には言えない秘密を隠しているような、彼が言うから自分もYESと答える様な、そんな風に映ってしまう。

そんな相棒をよそに、彼は小さく頭を下げた。


「こんな提案して、悪かった。同じ条件で参加してるんだ。

甘いことは言ってられないよな。」

「そう。お互いに、恨み言はなしの、良い勝負にしようね。

行くよ、プポちゃん。」


ご主人の合図を待ってましたとでもいうように、プポちゃんはのそのそと動き出した。


相手も再度サイリウムを振りかざしている。

しかし今回は最初からプポちゃんは目を瞑っていて、

ブンブンと縦横無尽に拳を振っている。

正直その波動だけでこちらも飛んでいきそうな位の勢い。

先程俺に向けて放ったビームも、踊っているように動き回るプポちゃんに

照準を合わせられずにいるようだ。


プポちゃんも見えていなかったのだろう。

思いっきり彼めがけて腕が振り下ろされようとしていた。


「さようなら。」

「凜!!!!!」


思わず俺すらも目を瞑ってしまった瞬間。

想像していたはずの音は耳に届かなかった。


目を開いて一番最初に入ってきたのはナツの歯を食いしばって悔しそうにしている顔。

その目を辿っていくと、何故かリボンで手足を縛られているプポちゃんがいた。


え、なにこれ新しいジャンル?


まるで海の上でマグロと戦っている漁師の様に歯を食いしばりながらそのリボンで必死に相手の動きを制御している。


「お前、そのリボン…。」

「あぁ、そっか。そうだったんだ。」



大事なことは強くイメージすること。

目の前で凜に被害が出るかもしれないと思った瞬間、

勝手にリボンが動いて化け物をふん縛っていた。


頭より先に体が動く。

いつだって石橋を叩いて渡らないと不安で仕方ない自分からしたら、

容易く信じられることではなかった。


だけど、凜を護りたいという気持ちが先行したのだと気付くと、ストンと腑に落ちた。


「あ、ありがとうマサ!助かったぜ!」


そう言いながらもどこか疲労した様子を見せる彼を見て、

今は少しでもいいから安全な場所を確保したいと思った。

今度は先ほどよりも強くイメージする。

誰にも破られないような、自分部屋で1人うずくまっていた時の様な場所を作りたい。

そうイメージすると、シュルシュル蜘蛛の糸の様な音を立てて、この空間を包んでいく。

卵の中の様な、繭の様な丸い形になり俺たちを閉じ込めた。


外からどしんどしんと音がして化け物が近づいてきていることが分かり一瞬身構えするが、音だけでまるで振動がない。

どうやらこの空間は大分頑丈らしい。


「マサも使い方が分かったんだな!

良かった、使えたってことは、ちゃんとこのリボンに大切な思い出だったんだな。

正直俺、ライブとか無理やり連れて行ってるんじゃないかって不安だったんだ。

だから、これを持ってきてくれた時すっげー嬉しかったんだよ!」


ここが安全だと知りホッとしたのか、いつもの笑顔を見せて近づいてくる。

見飽きる位記憶に残っているはずのその顔に、自分も胸をなでおろした。


しかし、この空間だっていつまでもつかわからない。

その前に、ちゃんと伝えたいことがあるんだ。

僕は自分の目に偽りがないという事を伝えるべく、いつも世界が見えないようにと隠していた前髪を横に分け、凜の肩にそっと手を置いた。


「ごめん、凜。本当は違うんだよ。このリボンはね、初めてバズフラのライブに行ったから持ってきたんじゃないんだ。」

「え、そうなのか?でもそれ、一緒にライブ行った時に買ってたリボンだよな?」

「そう。初めてライブに行った日。だけど僕にとって大事な思い出は、あの日、君と僕が初めて遊んだ日だったからなんだ。ごめん、本当は僕、バズフラのこと凜が思ってる程応援してるって訳じゃないんだ。」

「は?どういうことだよ、それ。」


怒っている様子でもなく、ただただ困惑している。

それもそうだ。ずっと同士だと思っていた人間から、急にこんなことを言われては「じゃあ今までのは何だったんだ。」ということになる。

こんな局面で言うべきことなのだろうか。今後の戦いにおいて支障をきたすのではないか。

そうも考えたが、もしかしたら次の瞬間死んでしまうようなこの世界で、自分が騙し続けてきたことだけは贖罪したいと勝手ながらに思ってしまったのだ。


「僕、高校でずっと浮いてて、それで、凜はずっとクラスのカーストトップで。一生交わることなんてないんだろうなって。なんだったら、勝手に嫌なヤツなんだろうなって決めつけてさ。

いつも遠目ながらに嫌悪してた。

でもね、ある日僕がアニメのグッズを落とした時があったでしょ?」

「あぁ。俺らが初めて会話した時のことだよな?」

「そう。わざわざ拾ってくれた時、内心すっごく焦って。

キモオタだって馬鹿にされる。もう浮いてるだけじゃなくいじめにあうかもって。

こんなの今思えば被害妄想なのに、すごく怖くて。

それなのに、凜は『お前オタクなのか?実は俺もオタクなんだ。っていっても、地下アイドルのだけどな!』なんて笑いながら話しかけてくれて。ドキドキしたけど、すごく嬉しくて。

我ながら現金だなってわかってるんだけどさ。」


少しだけ傷ついた様子を見せる彼の目を見て、自分が放っている言葉がどれだけ相手を傷つけてしまっているか想像することを放棄したくなった。

一瞬、目を背けそうになった所を、彼は力なく笑う。


「そうだったのか。俺、確かにクラスではうるさい方だもんな。ごめん。」

「ううん。僕が自分の殻に閉じこもって、何も分かろうとしなかったからだよ。だけど、それがきっかけで沢山話すようにもなってさ。周りからは何で凜とあいつが?みたいな目で見られることだってあっただろうし、それなのに一緒に帰ったり、気さくに話しかけてくれて。今こうやって2人で命を賭けて戦ってる。凜が、僕なんかを選んでくれて不思議だったけど。」

「それはお前が良い奴だからだよ。」


心臓に素手で触りに行くような、そっと核心に触れる会話のキャッチボール。

どちらかが落としても、触りすぎても、このボールは壊れてしまう。

だから決して嘘をつかないように、一言一言丁寧に相手に投げる。


「バズフラが嫌いな訳じゃないんだよ。今まで一緒に見て来たからわかるけど、すごく素敵なグループだと思うし。

でも、今まで二次元ばっかり追い抱えて来たから、いまいち三次元のアイドルにハマり切れなくて。」

「それなのに、俺に付き合ってくれてたのは何で?いじめられるって思ったか?」

「…この共通点がなくなったら、この関係はどうなるんだろうって思うと怖かったから。

凜との時間は本当に楽しかったから、同士っていうレッテルを剥がしたら、もう僕には何も残らなくなるから。だから、ずっと仲間面しちゃってさ。どうしようにもない僕のエゴだ。本当にごめん。」


太陽に雲がかかったように、その表情は今まで見てきたどの表情よりも寂しそうに見えた。

これが僕の本心だと分かっているからこそ、この言葉に疑いようがなく辛いのだろう。

それでも彼は、いつだって笑顔を見せた。


「そっか。こっちこそごめんな。俺、てっきりハマってくれたとばかり思ってて、それが嬉しくて。全然お前の気持ちわかってなかったな。自分のことばっかで。

それ所か、こんな命がけのゲームにまで参加させてさ。取り返しもつかないことばっかだ。」


肩を小さく震わせて、段々と下を向いて小さくなっていく。

彼の顔にかかったその雲を布団たたきで一生懸命振り払うように、今までより一層肩を掴む手を力強くギュッとする。


「ううん。これは僕が望んだことなんだよ。

本気で誰かを応援する凜がすごく眩しかったから。

おこがましくも、その光に自分も近づきたいと思った。

ゲームに参加するって声をかけてくれた時、自分を選んでくれて本当に嬉しかったんだよ。

それはバズフラのクラファンを達成させるために必要なお金だったから、同士である僕を誘ったのかもしれない。それでも本当に…人生の誇りだった。」


この言葉が届いたのだろうか。

彼は少しずつ顔を上げて、目を合わせてくれた。


「凜。僕は君と、一緒の未来を見たい。」


必死に振り回していた布団たたきが、いつの間にか雲をどかせていた。

光を取り戻した彼の瞳は、やっぱりこちらが目を瞑ってしまう程眩しい。


「あぁ、勿論だマサ。一緒に勝とう。あっ、そうだ!ここから出たらさ、今度お前の好きなアニメも教えてよ。」

「えっ、でも僕が見るのって結構マイナーなやつで、全く知らないかも。」

「それでもいいんだよ。もしかしたら、俺もハマり切れないかも知れないけどさ、お前が見てる世界を知りたい。」

「分かった。一緒に鑑賞会しよう。」

「それとさ、1つちゃんと伝えておきたいことがあるんだ。」

「何?」

「確かに賞金の使い道がクラファンだから、同士の方が良いって思ったのもあるよ。だけど、例え何千何万人のすげーファンがいたとしても、俺は間違いなくお前を誘ってたよ。それは、雅也が自分の命を預けるにふさわしい最高の親友だと思ったから。」


その言葉を聞いた瞬間、自分の心の殻が破れていく。

一番の魔法は、いつだって凜の言葉だった。

肩に置いていた手を彼の目の前へと差し出す。

初めて会った時は彼から差し伸べられたその手を、今度は自分から差し出すことにちょっとした恥ずかしさもあったが、彼は笑顔で握り返す。


「勝つぞ、マサ。」

「行くよ、凜。」


目の前では何とかリボンを破ったプポちゃんが必死に繭を殴っているが、何かに弾かれているようで全く効いていない。

一緒になって覚えたての剣でそれっぽく振り回してみるも、同じくガキンっという鈍い音を立てて弾かれる。

もう1人は防御に特化しているのだろうか。

あのリボンは相手の動きを封じる為ではなく、自分たちの身を護るためのシールドも作る。

ナツの言っていた通り、バーチャル世界での可能性は無限大だ。


このままずっと防御をされても、勝負は何も進まない。


何か他の方法を考えた方が良いだろうか。


ちょっと八つ当たりするように大きくブンっ!!と振り回した瞬間、突然目の前を光が覆った。

咄嗟に身を守るように腕で目を隠すと、耳元からシュルシュルっという音が聞こえてくる。


少しして恐る恐る目を開くと、彼らの繭が姿を消していた。

俺たちが壊した訳ではなく、相手の意志で解除したのだろう。


何やら、先程とは一見顔つきが変わっているように見えた。

距離を取るべく、熊と出会った時の様に視線を逸らさず後ろ足で近くにいたナツの方へと進んでいく。


「なぁ、ナツ。さっきよりも何かいい感じになってないか?」

「どうやらあの中で何かあったのは間違いないだろうね。」


相変わらず大して動じる様子もないが、少なからずこちらの状況が悪いことに腹正しさを感じてはいるだろう。

その怒りを少しでも払しょくできるよう、策を考える。


「例えばなんだけどさ、ペンライトって普通ボタン電池とか何かしらの電池で動いてるじゃん?それが切れるタイミングとかは狙えないのか?」

「俺もこの世界については未知な部分が多い。だからあくまで予測だけど、あのペンライトの原動力が電池とは限らない。メンタル面に問題がなかったら、いつまでも持ち続ける可能性もあるよ。」

「じゃあ、推しが炎上するかも~とかいって、精神的ダメージ与えたりしたら効果ある?」

「咄嗟に出た苦し紛れの仮説に過ぎないし、どんな一言が相手の起爆剤にもなるかも分からない。あまりお勧めは出来ないな。」


どの提案も即刻却下だ。

ちゃんと筋の通った理由を述べてくれるだけ、ブラック企業よりもお優しいことだろう。


あの顔は、覚悟が決まった顔だろう。

その迷いの逃げ道を全て塞ぐように、彼は真顔でこう言った。


「相手が折れない以上、殺すしか俺たちに残った道はないんだよ。」


甘い考えはいったん捨てろ。何が命取りになるかもわからないのだから。

日常を忘れろ。二度と手に入らないのかもしれないのだから。


彼の眼差しには、厳しさも、冷酷さも、非情さも映し出されていた。

唾をゴクッと飲み込むと、目の前で大きな音がしする。


リボンから解放されて再度暴れまわろうとしているプポちゃんに対し、先程よりも容赦なくビームが放たれていたのだ。もう一人は完全にリボンの使い方を理解できたのだろう。

援護するように足へめがけてリボンをまとわりつかせようとした。


「くそっ、させるか!!」


流石に自分1人だけ何の力にもなれていないのが悔しすぎて、必死にリボンが足へと到着する前に走り出す。

いつもだったら50mを8秒台で走っているのに、この空間だからだろうか、

ビュンっという普段自分の体から発せられることのない音を立てながら、必死に剣を振り回しリボンを断ち切る。


しかし、次から次へと繰り出されるビームとリボンの連続攻撃。

プポちゃんも両手で建物を引っこ抜いては投げつけて攻撃をしているが、2人の連係プレイになかなか思うように攻撃が出来ない。

先程引っこ抜いたのは花屋だったのだろうか。

色とりどりの花たちがこの世界にはふさわしくない程鮮やかに散っている。

状況的には6:4くらいでこちらの方が押されている。


飛躍力も上がっているのか、1回のジャンプでいつもの数十倍は上がっていけるが、もしも自分の中のイメージがブレて、そのまま落ちてしまったらどうしようという心配と恐怖心が蛇のようにまとわりつく。


あっちはモノを使った遠距離攻撃で、こっちは物理的な短距離攻撃。

その時点で大分分が悪い。


いつまでもこの体制が続けば、明らかにこっちが敗北する。


どうする、考えろ。


すると突然、


「プポちゃん!!戻って!」


リボンに必死で気を留めていられなかったが、ナツが急に大声を出した。

その言葉に聞いた瞬間、シュンっと後ろから音がし、振り返るとプポちゃんは元のサイズに戻っていた。


何の相談なく選手退場され、少なからずこの場にいたナツ以外の人間が困惑する。


「よくわかんないけど、チャンスだなマサ。」

「うん。」

「どうする?降参するか?」


形勢逆転だとでも言いたげに、

サイリウムとリボンがこちらへ向けられた。

銃口を突き付けられた気分だ。


人質の様に、一歩も動けなくなる。

しかしナツはまるで気にする様子もなく元のサイズになり地面に落ちたプポちゃんへ駆け寄り、再度抱きしめる。

良く見えないが、その手には何かが握られていた。


「ごめんね、プポちゃん。今まで生身で戦わせちゃって。もう少しだけ、一緒に頑張ってくれる?」


確かにそう呟いたのが聞こえた。

すると、次の瞬間、またぐんぐんと先ほどの姿へと形を変えていった。

しかし、先程と1点だけ違う所がある。


なんと、その手にはけん玉が握られていたのだ。

プポちゃんは優しく俺とナツを頭の上に乗せ、

先程よりも縦横無尽、好き勝手けん玉を振り回す。

鬼に金棒。プポちゃんにけん玉。


正直色んな意味で怖い。


1回振り回すだけで、ドォンガッシャ―!!!という聞いたこともないような壮絶な音と一緒に建物が崩れ落ちていく。

高層ビルは上半分だけが破壊され、地面を掠った部分はモーセの十戒の様に辺りの建物を避けて割れている。


「さっき花が散っていったのを見てさ、この空間は建物の中身が空洞じゃなく、ちゃんとそれぞれ機能していることが分かったんだよ。こんな今時の場所なのに、近くに古びたおもちゃ屋さんがあったから、武器になりそうなものを探したんだ。プポちゃんが大きくなったなら、これも一緒に大きくなるかなって。」

「あの一瞬でよくそこまで思いつくな。」

「2人が時間を稼いでくれたからだよ。ありがとう。」


その穏やかな表情とは似つかわしくない音が、耳音をかすめていく。

ドガーン!!ガッシャーん!!!ばきゅん!!!シュン!!!


色々な音が一気に溢れかえる。


流石に攻撃をしている場合じゃないと悟った2人は、落ちてくる瓦礫や屋根をビーム打ち抜いたり、リボンを使って投げ飛ばしたりしている。

先程作った眉を作ろうにも、その時間を稼げないのだろう。


「これ、ヤバいよ、凜!!」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」

「凜…?」


明らかに1人の顔色が悪い。彼の声が全く聞こえていない様だ。

サイリウムを先ほどの様に光らせても、プポちゃんは目を瞑る。

そのままけん玉を振り回し続けるだろう。

ビームを直接撃とうにも、明らかに先程よりも威力が落ちていて恐らく届くことすら出来ない。


もういつ倒れてもおかしくないような位疲弊していた。


それでもプポちゃんは止まらない。

もう彼らに勝ち目はないとしても。


「凜!!大丈夫!?凜っ!」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。」

「っ!!!」


うつろな目で弱々しいビームを撃ち続ける彼の援護をしようにも、

もうそのビームでは瓦礫1つ壊すだけの威力はなくなっていた。

その分、前髪の彼に負担がいき、パートナーを心配する様子にも焦りと困惑が見える。


ひたすらに、ずっと、病室で大切な人の名前を必死に呼び続けるように、

「凜!!凜!!!」と叫んでいる。

その声はまるで聞こえていない。

ずっと力強く握っていたからだろうか。お互いの手には血豆が出来ていた。


プポちゃんが、トドメダ、とでも言いたげに大きくけん玉をあげ、

そのまま勢いよく振り下ろした。


その瞬間。


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