「では改めてお伺いしますが、情報が錯綜しているというのはどういう事でしょう」
「そのままの意味で、ある人物は大量の魔道具や貴金属、とにかく宝の山しかなかったという。今では世界有数の商家であるアルフレート一族の初代が踏破した際に得た物を元手に始めたと聞いている」
「……我らもその支店を御用商人として受け入れております。他国の商人だというのに、その事に一切の疑問なく受け入れていました。言われて見れば奇妙ですね」
商人は信用第一、どれほど優れた商人であろうと他国に席を置くようなものを御用商人という立場につけるのはおかしい。
あいつらが売るのは高価な物品や食料や鉄のような素材だけじゃない。
情報だって扱うんだ。
それが筒抜けになる可能性を誰も家が得なかったというのは精神汚染の一環として見る事もできる。
もちろん御用商人として受け入れたどの世代かわからん王か女王が剛毅だっただけの可能性もあるが、そんなもしもよりもわかりやすい答えが目の前にある。
だとするとリリにも話を聞く必要がある。
「他はどうだ」
「神殿の踏破者ですが、例外なく司祭やそれに類するジョブを持っていました。魔法使いや魔術師の踏破記録はありません……というより挑戦記録すらありません」
これもおかしい。
踏破記録がないのはもちろんだが、挑戦したという記録がないというのもおかしい。
もともと後衛職であるジョブの持ち主が単独でダンジョンに潜るというのは長命種であっても避けるべき事態だ。
ではパーティなら?
なんでその記録が残っていない。
そもそも挑戦記録が残っているのもおかしい。
国が保有しているわけではない、ある意味では不戦協定が敷かれたかのような土地だ。
暗殺向きの場所だというのにそういう事件が発生したという情報はない。
だというのになぜ挑戦者に関する記録を取っている?
有望な人物の確保と言われればそれまでだが、情報を公開していることそのものがおかしいんだ。
神のダンジョンに挑むくらい自身があるやつなら王家とまではいかないが貴族が声をかけるには十分。
なのにそれを隠そうともしない。
「神殿ですが宗教関係者のなかでも実力関係なく、何かに導かれるようにして辿り着いた者が後に高位の地位についています。回復魔術も魔法もほとんど使えないようなものであってもです」
「塔の踏破情報、それに対して踏破者の情報があまりにも少なすぎませんか? 踏破したという情報だけで御祭り騒ぎだというのに、踏破者が誰かに声をかけられたという事実はありません」
「闘技場、鍛錬にぴったりだというのに兵士として国に仕える者が挑んだ記録は無かったと思います。貴族も兵士も、箔をつけるにも実力をつけるにも最適な場所だと思いますが……」
「それらは違和感から来る物だな。じゃあ逆に、今私達が当たり前だと考えている事は何かあるか?」
動揺している近衛達だが、ここで休憩を挟むのはもったいない。
おかしいという事に気付き始めたのなら、今こそ視野を広めるべきタイミングだと思うから。
「……ユキ様は宝物殿の場所をご存知ですよね」
「あぁ、過去何度も地図が書き換えられてきたが神のダンジョンだけは一定の場所にある。所在不明の城以外はな」
「では道順は?」
言われてハッとする。
私は行ったことがないはずの場所に、何のためらいもなく歩を進めている。
慣れ親しんだ道を歩くようにして、ちょっとそこまで買い物に行くような感覚で歩いている。
一定の場所とは言うがそれは地域だ。
例えるなら東京にあるぞという程度の情報で一件の店を探すような物なのに、私は何の疑問もなく宝物殿目指して一直線で進んでいる。
当たり前すぎて気付いていなかった。
知らないはずの場所を目指して、地図も無しにただまっすぐ歩いている。
道中どれだけの分かれ道あった?
どれだけ入り組んだ森や山があった?
それらを気にすることなく、ただ宝物殿を目指すという一心で足を進めていたがなんで疑問を抱かなかった?
「それだ、行った事の無い場所に私はこちらで間違いないと思いながら進んでいた。どっからどう考えてもおかしいよな。だってのになんの疑問も抱かなかった。お前達もこの話を聞けば、どんだけヤバいかわかるよな」
ついてきていた近衛兵達が反応は違えど全員同意するかのようなそぶりを見せる。
「その調子だ。思った事があればどんなにくだらない事でも話してくれ」
もしかするとこれ、私達が考えている以上に……というか、考えが及ばないほどにヤバい状況なのかもしれない。
今も昔も情報戦を制したものが勝利するのが戦争だ。
当然偽情報なんかもあるが、それを信じさせる事ができれば勝利も容易い。
……こうなったら、本当の意味で全てを疑ってかかった方がいいかもしれないな。