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第62話

 と、いうわけでやってまいりました。

 神のダンジョン、宝物殿!


「ここですか、壮観ですな」


「そうだなぁ……で、なんで近衛が私についてきてるんだ?」


 何故かついてきた近衛騎士団、私が鍛えまくった奴らだ。

 もとはノービスだったが、今じゃ神聖騎士とか言うジョブになっているらしい。

 聞く限り、そして私の進化したジョブである究明王の能力で調べる限りあらゆる戦闘に向いている万能型ユニークジョブ。

 勇者と似たような成長性を持っているみたいだ。

 複数いるからユニークという言葉を使っていいのかわからんけどさ……。


「陛下のご命令です。曰く『ユキ様を宝物殿なんてところに放り込んだらいつ帰ってくるかわからない。あなた達が引きずってでも帰ってきなさい』とのことで」


 ……なるほど?

 いや、まぁリリの言いたいことはわかる。

 だって初日に街観光楽しすぎて城に行くの忘れてて、そのまま兵士に引きずられていったわけだしな。

 だからと言って近衛騎士団をついて来させるとか……ドライブで空飛んで逃げようとしたらこいつら魔法で飛んで追いかけてきたりしたし、滅茶苦茶強くなってる。

 具体的に言うなら文字通りの一騎当千の兵士くらいなレベル。

 並のジョブ持ちも高レベルノービスも相手にならん。

 だが相手は神のダンジョン、そして神の名を持つジョブを持つリリですらその威圧感に気おされて気絶するほどだ。

 こいつらが役に立つのかと言われると……うん、足手纏いかな?


「ユキ様の考えていることは分かります。しかし我らとてそれを良しとすることはできず、せめて邪魔にならぬよう外で待機、規定時刻になったら迎えに行こうと考えております」


「あぁ、それならソロ攻略に注力できるわ」


 守る相手がいないってのは楽なもんだ。


「そこで聞いておきたいのですが、宝物殿とはどのようなダンジョンなのでしょう。浅学故、ご教授いただければ幸いと思いまして」


「あー、まぁ、うん、これから潜るダンジョンの情報を集めるってのは重要だ。新しくできたダンジョンだって最初から踏破目的ってのは少ない。ただ……」


「ただ?」


「宝物殿って一番情報少ないダンジョンなんだ。しかもその情報が全てバラバラ、そしてその全てが信用できる筋からの情報だ」


「……よくわからないのですが、ダンジョンとはそんなにコロコロと内容が変わるような場所なのですか?」


「いや、普通は階層が増える……つまりスタンピードが発生したら環境が変わるんだが、神のダンジョンはそもそもスタンピードを発生させたことがない。だというのに情報が錯綜しているからこちらとしても頭を抱えるしかないって状況でなぁ」


 一般的な、アルファの奴が作ったというダンジョンコアを基にしたそれらはスタンピードという一大事が発生して、その副産物として魔獣の生息域が変化。

 さらに魔獣が生活しやすいように各々新しいテリトリーを改造して、あたかも全く別の場所のように錯覚させられるだけだ。

 以前は氷河だったのに今では溶岩が流れるとか普通にあるわけだが、よくよく観察してみると地図の形状はほとんど一致するってのが普通である。

 一方で宝物殿の地図は役に立たないと有名であり、そして過去数多の英雄が踏破し、その情報を受け継いだ長命種が口伝で伝え、吟遊詩人を通して貴族が知り、それを紙起こしする者がいて本になる。

 だがその全てが、違う情報が載っているのだ。

 貴族や王族が売ら取りをしたうえで全く別の情報が流れるという事から虚言なども疑われるが、事実神のダンジョンは不明な部分の方が多い。

 というか既存のダンジョンからして謎の、もとい機密の塊みたいな場所だったからな……。


「ふぅむ、話を聞く限りでは誰かが嘘をついているという可能性が濃厚なのですが違うのですよね」


「あぁ、私が生きている500年の間に生まれた何人かの英雄。そいつらから実際に聞いたわけじゃないが、吟遊詩人から聞いた歌では毎回内容が違っていた。それが違ってたから気になって覚えてたんだがな」


「……では、なぜ神のダンジョンを調べなかったのですか? ユキ様にとっては神のダンジョンなどという物はこれ以上ない調査対象では?」


「それは……あれ?」


 言われて見ればその通りだ。

 私の行動方針は前世からずっと「気になったら調べる」ことだった。

 それこそちょっとした事でもスマホで調べていたし、今だって気になる事があれば最低でもあとですることリストの一覧に名前を連ねる。

 だけど、神のダンジョンは何も感じなかった。

 あって当然、そんな風に思っていた自分がいる。

 けれどそれは、まるで鏡の向こうで別のポーズをとっている誰かを見ているようで気味が悪いと今になって感じるようになった。


 いや、言われて初めて気が付いたからこそ不気味なんだ。

 そういう物と納得していた自分に違和感があり、そしてこれまでの行動すべてに疑問が生じ始める。

 例えば闘技場、あそこの情報は世間でよく語られており、相手の能力に応じた戦闘力の魔獣の幻影が現れて戦うという。

 複数人で挑んだ場合はそれに応じた難易度の魔獣が単体、あるいはパーティを組むようにして現れる。

 こんな物勇者育成に使わない方がどうかしているというのに、過去私がそこに勇者を連れて行ったことは無かった。

 勇者たちも興味がなさそうにしていた。

 だけどそれそのものがおかしいという事実に気付く。

 他にも入るのに条件があるというのに踏破情報が流れてくる塔、その情報源が今どうなっているのか。


 神殿なんかもっとわかりやすい。

 名前からしてハルファ聖教なんかが動いていないとおかしいというのに、挑んだという情報は一切ない。

 城は、そもそもどこにあるのかすらよくわかっていないと言われているのにレーナはどうして場所を知っている?

 全てが、私の生きてきた時間も、仲間の動向も、何もかもがそうあって当然のように操作されているような気配。

 背筋に冷たいものが走る。


「……ヤバいな。想像していた以上に相手は大物……つーか神様相手なんだからそのくらいは当たり前と考えておくべきだった」


「どう、しました?」


「これからは逐一、どんなに当たり前だと思っていた事でも報告してくれ。精神汚染とかその手の警戒も必要かもしれんから」


 汚染、咄嗟に出た言葉だけど、私やアルファのような研究者にとって意識を捻じ曲げられるってのは汚染以外の何物でもない。

 こうなってくると神の干渉ってのは想像以上であり、想定外中の想定外と見るべきだ。

 そして……レーナという存在が万能メイドなんて冗談じみた言葉では片付けられないほど異質だと思えてくる。


 あいつはいったい……いや、これこそ今考えるべき事じゃない。


 無理かもしれない、無茶かもしれない、無謀と言ってもいい。

 けれど次の集合までにあいつを問い詰められる程度の力は必要になってくる。

 イレギュラーと呼ばれるような連中は、何を起こすかわからないからイレギュラーなんだ。

 神は法則として存在していると仮定するなら……といってもこの仮定すら疑問が残るが、それを覆すような生きているイレギュラーはもはや味方と呼ぶには心許ない。

 強いて言うなら監視対象、必要なら敵として見た方がいい。

 まったく、ダンジョンに入ってすらいないのにヤバい情報がゴロゴロ出てきやがるぜ。


「というか、お前その考えに至るのに何か……違和感とか、そういう類の物はなかったか?」


「いえ、これと言って特に。あ、ですが今のジョブになるまでユキ様が神のダンジョンに挑んでいなかったことには何の疑問も抱いていませんでした」


「そうか……それが精神汚染、私達の思考を誘導している可能性だ。やっていて当然の事をやっていないというのは怠慢か、さもなくば神の影響と考えて動くべきだ。疑問や違和感があれば逐一報告してくれ。何もなくても感じたことそのまま口にしてくれ」


「わ、わかりました」


 緊張した面持ちの近衛一同、士気を下げるのはよくないとはいえ伝えておくべきだ。

 下手に秘密を作って仲間内で争うよりは健全だろう。

 まぁもっとも、この思考すら誘導されている可能性とか考え始めると意味がないのかもしれないけどな。

 なんにせよ神をぶん殴る理由が増えたってわけだ。


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