目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第61話

「えーと、大体理解できたんですが一つだけいいですか? 何故私もジョブが変化したのでしょう」


「仮説としてはこの国が守られたって事で、神に愛された国という肩書でもできたんじゃないか? んで、リリは神候補というか亜神という存在になった。ある意味では信仰心集めたようなもんだからな」


「……それ、結構不味い状態ですよね」


 そりゃそうだ。

 お隣に宗教国家があるのに、神に愛された国として有名になった場合どうなるかは目に見えている。

 まず媚を売ってくる。

 次にダメだとわかったら攻め込んでくる。

 リリなんてジョブからして神の名前ついているから暗殺の危険性だってこれまでの比じゃない。


「おはようからおはようまで、暗殺者との鬼ごっこだな」


「休む暇ないじゃないですか! やだー!」


 おぉ、気丈に振舞っていたし王女らしい言動だったリリがついに泣き言を。

 懐かしいなぁ……あの子も思春期はこんな感じだった。

 ある程度厳しい修行をつけてやると文句を言いながらこなして、たまに無茶な事を言って鼻っ柱へし折ったら泣きべそかきながらどうにかしようと頑張って、それでもダメな時はダメだから散々泣いて疲れて寝て、起きたところに好物を作ってやる。

 そんなサイクルがあったなぁ。

 結局最終的には私の出した課題全部こなして、一人前になって私の所を離れていったが……思えば魔女の噂が緩和されたのはその頃だったな。

 ただ、逆に魔女の教えは怖い物ってうわさも流れてたような……まさかな。


「うぅ……」


「お、他の連中も起きてきた。とりあえず異世界人に守ってもらえ。あいつらならできるだろうし、近衛もジョブが進化して強くなってるはずだ。早々死ぬことは無い……はずだ」


「断言してほしいんですけど! せめて守ってみせるくらいは言ってくださいよ!」


「あー、マモッテミセルヨー」


「棒読みじゃないですか!」


「だって私も司達もこれから神のダンジョンに挑むからな? 渡せるのはちょっと規格外の魔道具と、国境線に大穴作った兵器のスイッチだけだ」


「規格外って何ですか! それにあんな兵器のスイッチとか渡さないでください! 見て! 手がプルプルしてる!」


 いやぁ、アルファやレーナと言った魔族と技術共有して、魔術師ギルドの連中やマスタークラフター君巻き込んで徹夜のテンションで作った結果オーバースペックな魔道具ができたんだよな。

 あの衛星砲にも耐えられる、ほぼ永久機関の防御結界。

 なお結界の範囲はある程度自由に決められるし、形状変化もできるので鋭く尖らせて攻撃にも使える。

 性質の変化もできるのでリフレクターみたいな、攻撃反射も可能でその辺全部自動でやってくれたりする。

 本人の意思を反映するが、一方で道具らしく容赦のない防御と反撃がコンセプトとなっているので敵は死ぬ。


「国のためだ、王女になった時覚悟は決めたはずだろ」


「いい顔といい声で言っても騙されませんよ!」


「チッ……あの子はこれで行けたんだがな」


「ご先祖様ちょろすぎます! もうちょっと疑問を抱いて!」


「馬鹿言え、疑問を抱くような育て方はしていない。素直な子だったし、私が出した課題は全部こなした優等生だ。ただちょっと、ストレスがたまると私が作ってやった人形をぶん殴ってただけで」


「絶対反発してますからそれ! 魔女の教えの恐ろしさを広めただけあります!」


 ……え? マジであの子の仕業だったの?

 何気にショックだ……あ、反抗期の子を持つ親ってこんな気分なのかな。

 いや、過去形か。

 でもこういうのおり合いつけないと子供が非行に走ったりするからなぁ。

 多少強引でも、鼻っ柱へし折るのは必要な事だし……。


「でも事実、リリが何とかしないと世界より先にこの国滅びるぞ?」


「う……でも……」


「相手は殺す気で来るんだ。どんな手段を使うかもわからないし、弱者が強者の喉笛を食いちぎることは珍しくない。備えは必要だ」


 まず手渡したのはブレスレット。

 オーバースペックの魔道具だが、ビーズの一つ一つが稀少鉱石であり魔力の循環をしている小世界とも呼べる物体だ。

 それらを繋ぐ糸は例えるならば太陽の引力。

 これにより一つ一つでは意味のない鉱石から魔力を吸いだして結界を生成する。

 ある意味では糸の方が本体だな。

 石は燃料タンクであり、勝手に魔力を生成してくれる物体でもある。

 正直私も一つ欲しい所だけど、こうして客観的に見るとどんだけヤバいもの作ったかわかるし、私一人じゃ石一つも作れないだろうから我慢だ。


「そして、攻撃されても報復をしなければ相手は増長する。そのためには力も必要だ」


 衛生法のスイッチを渡す……いや、もう無理矢理握らせた。

 汚物を扱うかのような手つきのリリだが、大丈夫、リミッターがついてるからヤバい事にはならない。


「最悪の場合に備えて国民全員をちかに避難させる事もできるし、私はそれを伝えたら神のダンジョンに行く。あまりやりたくないが着替えてないのはそのためだ」


「……ます」


「あ? なんだって?」


「私も神のダンジョンに行きます!」


「……いや、その場合誰が国を守るんだよ」


「私が! 国の様子を見ながら! ダンジョンも攻略すればいいんです! 神聖女王のジョブで国の状態がわかります! 何ならここから国境線を見る事もできます! 遮蔽物とかダンジョンとか関係なく、全部見えてます! 最悪このスイッチ押しますし、影武者も立てます! 何か文句ありますか!」


「え、戦闘力」


「そりゃジョブが進化したばかりでレベルは戻りましたが、能力値は軒並み騎士団長を超えてます! 訓練を終えた後の司様くらいの数値有ります! 文句ありますか!」


 やべぇ、リリが切れた……。

 こういう時は……。


「司、任せたぞ」


「いえいえ、こういうのはご家族の問題ですし」


「おいおい、お前他人に頼ることの重要性を覚えたばかりだろ? だからこそお前に託したいんだ」


「いえいえいえいえ、覚えたばかりだからこそユキさんに頼ろうと思っているんですよ」


「おいおいおいおい、人の手綱を握ることも覚えような? だからリリを連れて行くといい」


「雫様についていきます!」


 よし、勝った!

 あからさまに表情を曇らせる司だが、悪いな。

 私が挑む宝物殿、足手纏いを連れていける状況じゃなさそうなんだ。

 ジョブの進化ってのはレベルのリセットもおまけでついてくる。

 おかげで長年かけて究明者のジョブをカンストさせたにもかかわらず、レベルは1に戻っている。

 ただ下積みというか、リセットされるのはレベルだけで戦力的なステータスはそのまま、新しいジョブの補正がプラスになる分強くなれる。


 というかその補正がリリの場合相当やばいみたいだけど、それでも魔王討伐するぞーって旅立つタイミングの司程度じゃ足手まといだ。

 一方で司が挑む闘技場はそいつの強さに合わせた魔獣が出現して、一対一か多数対一での戦闘になる。

 多数で挑んだ場合中央値くらいの敵が出てくるが、魔道具とかは無視して本人のステータスを参照しているものが出てくると言われているのでレベリングにも使える。

 反則級の魔道具を持ってルリリなら問題ないだろう。


「さて、じゃあこいつらが起きる前にもう一度女神の仕事でもしておきますか」


 こうして、二度目の投影を国内だけに発した私。

 気絶した黒龍王をそのまま魔力タンクとして使って、国民を納得させてから旅立ちの準備を整えた。

 まぁ普通に着替えて髪の毛纏めただけだけどな。

 化粧は邪魔にならんしそのままで、一方のリリはしっかり変装してもらった。


「じゃあ司、リリの事は任せたぞ」


「えぇ、多少大変になりそうですが、恨み言は帰ってから報告書とまとめてお渡ししますね」


「……まぁ、そのくらいは甘んじて受け入れるさ」


 笑顔が怖くなった司だが、今のこいつになら任せられる。

 だから私は私のやるべきことを、神のダンジョンを攻略して力を得るのが最優先だ。

 リセット? ふざけんな、一周目で世界を救ってやる!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?