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第59話

「で、マッチポンプ用意したはいいけどなんで教えてくれなかった?」


「あまりに台本通りだと疑われる可能性がありましたから。それに咄嗟に守護壁と名付けたのも良かったですよ。こういうのはアドリブからしか生まれません」


 正直、安直すぎたなと思っているのに追い打ちとはいい度胸だなおい。


「それに、悪い事ばかりでもなかったはずです」


「まぁ……」


 レーナが正座しながら開き直るが、その理由は私のステータスにある。

 究明者、私のジョブであり解き明かした事象は全て私自身が行使できるようになるという物。

 それが進化したのだ。

 ジョブの進化は未だに謎が多く、ユニークジョブに至っては進化する可能性があるというだけで実態は不明なままだった。

 ついでに一般的なジョブでも戦士から狂戦士に進化したり、守護戦士に進化したりと法則が不明だったり、ジョブ扱いではないはずのノービスが進化したなんて話まである。

 真偽は不明だが、過去の記録では実際にその手の内容が散見されるから事実なんだろうけど……。


「で、どのようなジョブになりました? 私は破壊神を名乗ったことで殲滅者のジョブが殲滅王になりました」


「究明王。今までよりも物事の理解が深まるみたいだ。それと解き明かした事象を行使する際に発生していたラグや無駄が減るようだな」


「俺は探究者が探究王になった。大体はユキと同じだな」


 ふぅむ……神を名乗ったのに王か。

 本当にどういうことなのかわからんが……。


「ジョブが進化したのは久しぶりですが、王の名を冠するジョブは聞いたことがありませんね」


「レーナはユニークジョブじゃなかったのか」


「えぇ、最初は獣戦士でしたが、獣魔戦士になり、そこから進化してユニークジョブの殲滅者になりました」


「……そういう事例もあるのか」


 ユニークジョブってのは基本的に後天的になることは無いとされていた。

 検証のしようがないから私もノータッチだったが、ジョブの究明を続けていると必ず行きつくのが進化傾向なんだよな。

 まさかこんな所に研究対象がいるとは思わなかったが……。


「あ、私もジョブが変わりました。実はノービスだったんですが、神聖女王というジョブに」


 ……リリ、お前もか。


「あと近衛騎士団が全員神聖騎士というジョブになりました」


 あいつらもノービスだったな……それが一斉に進化したのは理由があると思う。

 ランダムではないし、可能性としては精霊と同じ信仰心か?

 だとして、私達は王で、リリ達は神聖と名がついているのは不思議だが……。


「どう思う、私は信仰心、あるいは畏怖が関係していると思うんだが」


「情報不足だな。その線が濃厚だが、何をもって神の名を冠するジョブになるのかはわからん」


「もしかしたらなんですが……」


 私とアルファの会話に、リリが再び手を挙げた。


「私の祖先、ユキ様のお弟子様達の子孫が神のダンジョンを攻略したという記録があるのですが……何か関係あるのでしょうか」


 神のダンジョンか……神殿、城、宝物殿、塔、闘技場の五つからなるものだけど、私は行った事がない。

 それらのダンジョンが生まれた経緯からして、魔王も行った事がないはずだし側近のレーナも同様だろう。


「もしかしたら神のダンジョンで得られる経験値は少し違うのかもしれないな」


「それこそ神性を帯びた物ってことか? それを脈々と次いできた一族が信仰心を受ける事で神の名を持つジョブになると」


「可能性の問題だ。ただ、検証してみる価値はあるんじゃないかね」


「確かにその通りだが、予断を許さない状況だろう。しばらくは動けないのではないか?」


 アルファの言う通り、今私達がこの場を離れるわけにはいかない。

 だが時間がないのも事実。


『面白い。やはり器とは特別な存在よな』


 突如そんな声が聞こえてきた。


『さて、挨拶は不要だろう。君らが神と呼ぶ存在による神託さ。まぁ今回は僕が代表であって、他の連中は高みの見物中なわけだが』


「神か……とりあえず面貸せ、殴る」


「むしろ引きずりおろしてやる」


 ギリっと拳を握ると同時に、とんでもない重圧感に襲われた。

 建物が軋む音、それ以上に自分の骨や筋肉が悲鳴を上げている。

 倒れ伏してしまいたい、心がおられるような感覚が続くがあらがう。


「こんっの!」


「ふんっ!」


「鬱陶しいですね」


「………………」


 私とアルファが気合を入れて弾いたそれを、レーナと司が涼しい顔で受け流して平然と立っている。

 リリ達をはじめとする他の勇者パーティの連中は、魔術師ギルドも魔族も、異世界人も軒並み地面に突っ伏していた。

 黒龍王すら地面にへばりつき、田中は泡を吹いている。


「四人も候補がいるか。楽しみだな」


 重圧感の跡に現れたのは少年の姿をした何か。

 背丈や声は男児のそれだが、光っててどんな面してるのかわからない。


「眩しくて見えないが殴っていいか? いいよな」


「偉大な相手は輝いて見える物って君達の世界でも言われてなかったっけ?」


「眩しい方の理由は聞いてないってのがアンサーとして大正解なんだよ!」


 振り上げた拳をそのまま叩きつけようとしたところで、嫌な予感がして飛びのいた。

 あのまま殴っていたら腕どころか、私という個体が消滅していたんじゃないかというレベルの不穏な気配。

 ならばと魔術を行使するが……魔力はまだ残っているのに何も起こらない。

 陣を描こうとしても放出した魔力は霧散し、式を立てようとすればノイズにかき消される。


「うんうん、いい反応だし判断も適格だ。だけど、君達じゃ僕には手を出せない。そこで気絶しているお嬢さんと、その親衛隊なら指先くらいは触れられるかもしれないけどね」


「……やはり、神の名を持つことが重要ってことか」


「大正解。そしてそのための方法を君達は理解した。いやはや、こんなに時間がかかるとは思ってなかったよ。絶望して世界が二つ三つ壊れるくらいどうでもいいかなって思うほどにね」


「はっ、最初からお前ら上位種はそんなん気にしてないだろ」


「いやいや、君だってゲームのデータが飛んだら少しは悲しむだろう? 物によっては泣くかもしれないし、怒りのあまり叫びまわるかもしれない」


「おあいにく様、ゲームは無課金。データが飛んだらやり直す、それが私のスタイルだ」


「ちなみに俺はデータが飛んでもいいようにバックアップを複数用意しておくタイプだ」


「バックアップ……なるほど、それは悪くない手段だ。ではここのタイミングでデータのバックアップを用意しよう。これで君達が神のジョブに至れなくても安心、世界崩壊はトライ&エラーの末に食い止められるはずだ。数百階や数千回の失敗で諦めないでくれよ? せっかく渇望していた新神の誕生に至れるかもしれないんだ。諦めたら、バックアップデータも処分するからね」


 表情が見えないにもかかわらず、醜悪な笑みを作ったのだけは伝わってきた。

 ……世界のバックアップ、なんて事考えるんだよ。

 アルファが神なんて碌なもんじゃないと言ってたが、まさしくその通りだったな。

 というかこの世界に魔王が生まれた原因も、今こうして地球とこの世界が滅びかけているのも徹頭徹尾奴らが原因じゃねえか!

 ……やっぱり殴りたいな。


「おい、アルファ……作戦会議だ」


「……もちろんだ。だが時間はかけられない」


「微力ながらお手伝いさせていただきます」


「できる事をするというのが僕の根幹でしたけどね。今回ばかりは少し腹が立っているので自分の意思で参加させていただきます、積極的に」


 私の言葉にアルファだけでなく、レーナと司も手を挙げた。

 特に司は理解が早いというか、魔族誕生の経緯から今に至るまでを全部計算した結果、過去類を見ないくらいにぶちぎれているのだろう。

 握っている拳がミシミシと音を立てて、血を滴らせている。

 レーナも同様に嚙み締めた歯が食い込んでいるのか、口の端から血を流していた。


「目的その1、世界を救う。そのためには司たちを元の世界に戻してから次元の穴を塞ぐ」


「意義はない。というより今回の目的そのものだな」


「のけ者にされるようで気分はよくないですが、クラスメイトの事を考えれば妥当ですね……気分はよくありませんが」


 二回言ったぞこいつ。

 マジで怒ってるんだな。


「目的その2、神を殴る。上下関係とか知るか、ダメージを与えてやる」


「そのためにも神のダンジョンを攻略する。そこで情報が得られれば上々といったところだな」


「ダンジョンの位置は割り出してあるので転移魔術でいつでも行けます」


「とりあえず僕は田中君と先生に同行してほしいですね。それと案内してくれる方がいると助かります」


 さもないと何をしてしまうかわからない、と言った様子の司に久しぶりに鳥肌が立った。

 最近まともになりつつあったから忘れてたけど、こいつこういう時は妥協しないからな……。


「では手分けをしようと思っていましたが、全員で同じ場所を攻めますか?」


「いや、現状から考えて手分けした方がいいかもしれんな。情報だけでも持ち帰ることができたら良し、次のグループが更に情報を持ち帰り、ダンジョンの攻略を万全の物としておく。どうだ?」


「わかりました。では司様は闘技場をお願いします」


 レーナの言葉に司がうなずいた。


「次に私は城へ行ってみたいと思います。これでも魔王様の居城は私が指示して改築と清掃を行っていましたので」


「……道理で迷子になるわけだ」


 いや、それでいいのかアルファ。

 お前の城なのに勝手に改築されてるぞ。


「いいか、ユキ。レーナには逆らうなって言うのが俺達の共通認識なんだ。ヒエラルキーでは俺を頂点に置いているが、一番やばいのこいつなんだ」


 あ、うん、尻に敷かれてるってのは物理的な意味でもそうなんだな。

 少なくとも魔王はレーナに頭が上がらないと。


「次に魔王様とユキ様は宝物殿か神殿をお願いします」


「塔はいいのか?」


「はい、どうやら塔に挑むには条件を満たす必要があるようです。何組か挑んだという情報がありますが、いずれも王族や貴族、英雄の末裔と呼ばれる者達ですね」


 条件か……まぁ紐づけされていると仮定して、他の神のダンジョン攻略だろうな。


「お察しの通り、皆祖先が神のダンジョンに挑んだ経験者です。恐らく血縁だけでもいいのでしょう」


 なるほど、なら私達の中でチャンスがあるのはリリだけという事か。

 と、なれば私達はと……。


「アルファ」


「ユキ」


 互いに視線を交差させる。

 そして拳を握り……。


「「じゃんけんポン!」」


 チョキを出した。

 対面の魔王は手を開いている。

 パーだ。


「しゃおらぁ! 私は宝物殿だ!」


「くそっ! 次こそ宝物殿に行ってやる!」


 どっちが宝物殿に行くか、間違いなく揉めるだろうと思って牽制し合っていたのだが、たどり着いた答えは互いに同じ。

 じゃんけんで決める事だった。

 いや、だってさ、宝物殿だよ?

 宝物っていってるんだからそりゃ珍しい物とかいっぱいありそうじゃん?

 そんなん見逃す手はないっての。

 ……まぁ神のダンジョンは今まで無視してたわけだが、いざ挑むなら興味が強い所からってのも基本だからな。

 面白い物が見つかれば今後更に楽しい事になりそうだし。


「あ、衛星砲の関係機器はリリ様に預けるので国防は大丈夫だと思います。契約と同じ方法でリリ様以外動かせないようにしますし、魔族領とこの国は狙えないようにしておきますから」


 ……レーナ、万能メイドだな。

 つーか衛星砲連射できるんだ。

 あれ防ぐのに普通の魔術師何人分の魔力が必要なんだろうな……私もゴリゴリ削られたし。


「ちなみに先程の一発は最低出力です。ほとんど途中で霧散して余波だけが届きました」


「出力は最低のまま固定しておけよ、絶対だからな!」


 次元の穴以前に衛星砲の一撃で世界滅びかねないわ!


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