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第58話

「さて、準備はできたが……」


 ぐっすり眠って2時間後。

 いや、ハイエルフとか亜人って睡眠時間短いんだよ。

 短命種は素で短いんだが、長命種は睡眠欲を含めた三大欲求が軒並み薄い。

 その分堪能する時はとことんだけど、普段は本当に睡眠時間いらないんじゃないかなってレベルで活動して、電池切れみたいにばたりと眠る。

 大体そんな生活してるから里じゃ緊急事態に一番の重要人物が寝てたりとか、王族の訪問があると聞かされてても寝てたりした。


「はい、現在聖教国と帝国は軍を編成して国境線に集結しています」


「予想通りというかなんというか……」


「相変わらず人間を手玉に取るのは容易いな」


「いや、完全にアドリブだったけどさ」


「そのアドリブで何とかなる程度の知恵しかない奴らが上に立つことが多い。だから人間は御しやすく、度し難い」


 なんかアルファが魔王らしい事言ってる……。

 司も後ろで頷くな。

 先生は苦笑いするのやめて? あなた歴史教師だから割と洒落にならないの。


「どうしますか?」


「そうだなぁ……プランAで行くか。それで引かなかったらBに移行」


「むむむ……」


「唸るなアルファ。上手くいけば一番被害が少ない方法だぞ」


「だがなぁ……」


「というか相手がいないんだ。人見知りする必要もないだろ。私が勇者と攻め込んだ時みたいに堂々と演説すればいい」


「あれは台本があったから……」


「そういうかと思いまして、こちらを用意しました」


 そっとレーナが紙束をアルファに差し出した。

 ……台本、用意してたんだ。

 というかいつの間に……レーナは後方指揮と実地と研究全部に関わってたはずなのに。


「ありがとうレーナ、これで心配は無くなった」


「お前ら……いや、いいわ。投影室に入る。リリ、外から状況報告頼む」


「お任せください」


 魔王と作った通信機、今回は必要性を考えて送信機と受信機を別にしたが、今後の展開次第では電話を作るし、そのプロトタイプになるであろう物。

 イヤホン型の受信機を耳にはめて、投影室に入る。

 そして地面の魔法陣に魔力を流し込みながら目を閉じて、そして黒龍王を肩に乗せていざという時のバッテリーにする。

 私の魔力はハイエルフにしても多い方だが、黒龍王や魔王に比べたらちょっと多いけど誤差の範疇と言った感じだ。

 その足りない分を補ってもらう際に黒龍王についてきてもらった。


「投影開始します。3、2、1、投影スタート」


 リリの言葉に目を開く。

 目の前には無数の映像が浮かび上がっていた。


「人類よ、私はスノウホワイト。調和の神にして争いを好まぬもの。私の話を聞くがいい」


 プランA、それは私と魔王が神のふりをして争いを収めるという物。

 帝国は知らんが、ハルファ聖教国にとって神ってのは絶対の存在だからな。

 ついでに奴らとは極力接触しないようにしてたから、私の顔は知られていない。

 化粧も衣装もばっちりで、リリ達ですら「化けたなぁ」と呟いたほどだ。


「魔族と人類の戦い、その馴れ初めを教えよう」


 まず作戦の第一段階として、世界各国に張り巡らせた魔族ネットワーク。

 まぁ端的に言ってしまえば、いろんなところに潜伏している魔族があちこちに投影の魔法陣を設置する事。

 私が作ったコピーの魔術を利用したもので、もともと禁書を読みに行くために気配とか消すの面倒くさくて作った物だった。

 外に出すと不味いから隠してた魔術の一つだけど、今回勇者パーティではめっちゃ活躍してくれたものだ。

 なんか知らんけど、魔王は魔族相手ならどれだけ離れていようと意思疎通ができるらしい。

 それを利用してこの投影技術を使った。


「敵軍、進行を停止を確認」


 リリの言葉に胸をなでおろしたくなる。

 空中に巨大な幻影が出てくれば足を止めるには十分な理由になるだろうけど、私の知っている限りの情報を開示していくたびに冷や汗が流れそうになる。


「ハルファ聖教国軍、混乱しています。帝国軍はあまり興味無さそうですが、先陣を切っていた聖教国軍が壁になっているため身動きがとれない様子」


 よし、魔族との戦いの始まりを聞かされて動揺したのか、それとも神を名乗る存在が現れて動揺したのかはわからない。

 けれどチャンスだ。


「改めて、私は調和の神だ。争いを好まぬ。今立ち去るというのであれば我らが手を下す事は無いだろう」


「帝国軍魔術師部隊が幻影に攻撃を始めました」


「そうか……争いを望むか、人の子よ」


 攻撃されるのは予定内だけど、あくまで幻影だからね。

 本体は地下と地上に存在する魔法陣だから私もノーダメージである。

 魔力はゴリゴリ持っていかれてるから黒龍王に補填してもらってるけどな!


「ふん、だから貴様は甘いというのだ調和の。我は戦の神アルビス。争いを望むのならば我が相手になろうぞ!」


 お、魔王の声だ。

 ……壁の防音を貫いているわけじゃなさそうだけど、どうやって聞こえているんだ?

 こっちは一方的に声と映像を届けるだけなんだが……いや、しかし魔王も鎧で正体を隠すとわからないもんだな。

 あいつの外見的特徴は文献に乗ってたりするけど、こうして鎧を身に纏ったら誰かわからなくなる。


「ふん、神にその程度の魔術が通用するわけなかろう」


 映像越しに魔王の幻影が攻撃されているのが見えるが、当然これもすり抜けている。

 いや、中には弾いてるのもあるな……なんか仕掛けやがったなこいつ。


「神の力、その一端を見せてやろう」


 あ、指クンッだ。

 人気漫画のワンシーンで待ちひとつ吹き飛ばした動きだ。


「帝国軍、並びに聖教国軍の眼前に火柱発生。それにより敵軍の8割が戦意喪失」


「なんだ、もう終わりか? まだこれからだ、人は争いを好まぬと調和のが言っていたが貴様らが好むのは一方的な殺戮なのか」


 お、おい、あまり煽るな……。


「……帝国軍の戦意復活を確認しました」


 言わんこっちゃない!


「殺戮を好むのならば我が領分ではない。闘争こそが人の在り方だというのに……嘆かわしい物だ」


 いや、引くのかよ!

 どうするんだこの先!

 私のポーカーフェイスも限界あるぞ!


「わたくしの出番ですか……こうならない事を望んでいたのですが……破壊の神、レオナと申します。あなた方が殺戮を望むというのであれば、私が対応いたしましょう」


 レーナ!?

 お前何やってんの!?

 これ打ち合わせに無かったよね!


「……レーナさんから頂いた台本の写しを見たところ、ユキ様には内緒にしていた内容が多数見受けられます」


 おいマジか!

 この状況で隠し事はダメだろ!


「台本を読み上げます。復唱してください」


 いや無茶ぶり!

 やるよやってやるよ!

 けど後で覚えてろレーナ!


「待ちなさいレオナ。彼等を一方的に殺すというのであれば、それは看過できません」


 ……鳥肌立つなこれ。

 私、演技は得意だけど後から羞恥心で死にたくなるタイプだから。


「ならばあなたが止めればいい。神の怒りを知りなさい」


 キラリと、空が光った。


「魔族による……衛星砲? とやらの攻撃です。手をかざして守る雰囲気を出してください」


「守護壁よ」


 それっぽい言葉を口にすると同時に、隠してあった魔法陣から魔法が展開された。

 ……ごっそり魔力持っていかれたんだが、これ私の魔力で動いてるのか?

 そろそろ私干からびるぞ。

 黒龍王には魔法陣の維持を頼んでいるけど、私が先に倒れるぞこれ!

 とかやってたら魔法陣から展開されたシールドが空からの光を……うん、これ多分ビーム兵器だけど、それを受け流して周囲に広げたわ。

 その気になれば魔族が人間支配するのも簡単とか言ってたけど、滅ぼす方がもっと簡単なんだろうな……衛星砲とか言ってたけど、人工衛星使った兵器とか持ち出されたら勝てねえもん!

 宇宙空間で生存できるの龍種くらいだわ!

 いや、龍種もこうしてみるといかれた性能してるな!


「衛星砲、展開された守護魔術により拡散。周囲一帯に被害甚大。死者0人、ただし国境線に巨大な穴が……うっ、胃が……」


 待て倒れるなリリ!

 お前の指示がないとこっちもきついんだよ!


「手を引きなさい、破壊の。そして人の子らよ。まだ進むというのであれば私はあなた方を調和の礎として、その命を貰い受けます」


「戦ならば我が出番だが、掲げる正義を間違えた者には加護など与えられぬと知れ」


「殺戮がお望みならばあなた方の国を焼きましょう」


「「「我ら新たなる神、ここに宣言する。人よ、魔族よ、亜人よ、汝ら一丸となりて未来に栄光を与えよ」」」


「人の子らよ、勇者召喚の魔法により次元に穴が開きました。このままでは10年とせず二つの世界が衝突します」


「良くて混沌とした争い、最悪の場合はどっちも壊れるだろうな」


「壊すのならばともかく、勝手に壊れるのは望みません」


「で、あるな。戦で滅びるならそれもまた風情という物だが、怠惰の末に滅びるのは好まん」


 ……君ら台本読んでるんだよね。

 私だけアドリブ押し付けるとか酷くない?


「調和をつかさどる者として、この世界に存在するすべての者に伝えます。子に、子孫に、家族に、恋人に、友人に、そのまた友人に、誰にも恥じない道を選びなさい」


 あ、もう限界。

 魔法陣への魔力供給を止めて、私の幻影を消す。


「調和の幻影消失。高笑いしながら戦の消失。愁い気な視線を送りながら破壊の消失しました」


 あー、終わった。

 とりあえずレーナどつくか。


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