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第54話

「つまり……この世界が崩壊する可能性があるという事ですか?」


「わからない。崩壊する可能性は高いが、何かの手違いで司達のいた世界とこの世界が融合したりして一波乱怒る可能性も十分にあり得る」


 ぶっちゃけ、魔力はもちろんそれらによって変質した動植物も鉱石も、利用されないまま地中深くに埋まっている石油なんかも地球側からしたら喉から手が出るほど欲しいだろうからな。

 さすがの魔王も核ぶっぱされて無傷とはいかんだろうし、復活の原因になっている何かが吹き飛んだらどうにもならないだろう。

 今の所その手の連中に対処できるのは魔法による広範囲防御や殲滅魔法が使えるハイエルフと龍族、個々の実力が突出している魔族だけだろう。

 人間くらいならさっさと殲滅できるだろうな。


 ドワーフなんかは物珍しさから地球側の鍛冶技術に喰いついて鞍替えする可能性もある。

 まぁ、世界の融合が発生した場合の想定であって、十中八九両方の世界が滅んで終わりだろ。

 惑星同士の衝突の拡大版みたいなもんだから、生き残れる奴はほとんどいないんじゃないかね。

 仮に生存可能領域が残っていたとしても、その土地の奪い合いで魔族が圧勝して人間も亜人も滅びるだろうけど。


「優先順位としては勇者達異世界人の送還、次元の穴を塞ぐこと、今後二度と勇者召喚が行われないようにする事、そんでその事実を各国に突き付けて納得させることだな」


「世界崩壊の危機……あまりに突飛な話で理解が追い付かないのですが、それでもやらなければならない事は分かりました。早急に軍を……いえ、この場合は精鋭を送り込むべきですね。ハルファ教の動きも気になりますし、帝国の出方もわかりません、ともすればこの国も魔族領と同じ扱いを受ける可能性が高い。ならば秘密裏に動いた方がいいでしょう」


「そうだな。できる事なら手伝いたいんだが、私も魔王も勇者召喚の魔法の解析と、次元の穴の問題かい稀有に動く必要がある。一応奥の手があるんだが……起きろ、黒龍王」


 小型化していた黒龍王の尾を掴んでシェイク。

 昔ながらの起こし方だが、これが一番手っ取り早い。


「……その起こし方はやめろと言ったはずだが」


「今はそれどころじゃない。龍の呼び声を使ってほしい」


「世界を相手に喧嘩を売るのか? 龍以外にも吸血種やらも集まることになるが」


 龍の呼び声、それは過去龍種と友好を結んだ相手を呼びつける魔法だ。

 あくまでお願いという形式だが、大抵はその呼び出しに逆らわずやってくる。

 龍という、魔王を除けば最強種の呼び出しだ。

 切羽詰まった場面でしか使われない方法だけって、集まりは悪くない。


「最悪の場合そうなるかもしれんが、今は人手が欲しい。頼めるか」


 少しかが得た後、黒龍王は窓から飛び出し空高く舞い上がった。

 そして元の大きさに戻ると同時に、世界の果てまで届くと言われる龍種固有の魔法を使い世界中の関係者を呼びつけてくれた。


「どのくらいで集まると思う」


「龍種は気まぐれで時間間隔も鈍い。長命種も同様だが三日もあれば集まるだろう」


「今冒険に出ている異世界の方々もそのくらいで戻ってくると思います。問題があるとすれば……」


 そんだけの戦力を揃えて、ハルファ聖教国も帝国も指をくわえて見ているわけがないってことだな。


「近隣の国家からこの国の人間や行商人を集めてくれ。最悪の事態に備えても犠牲はつきものだが、それでも被害は最小限にしたいからな」


「わかりました」


 今必要なのは金属、鉄でも銀でも金でも銅でも、ミスリルやオリハルコンのような超希少金属でも欲しい。

 それらは全て魔道具に使えるからだ。

 というか魔道具以外にも武器防具として使える以上、集められるうちに集めておきたい。

 同時に必要になるのが燃料となる木材なわけで、魔法による炎って鍛冶に向いてないんだよ。

 普通の炎と比べると魔力含んでいるから金属が変質して加工が難しくなる。

 着火程度なら問題ないが、炎で熱し続けるとなると話が違ってくる。


 あとは当然食料品だな。

 大国二つと争う事になるなら備蓄食料はどれだけあっても足りない。

 水だっていつもみたいに川に行ってとかできなくなるから、地下水源を探す必要がある。


「手伝ってもらうぞアルファ、レーナ」


「構いませんが……魔王様は犬の姿のままでもよろしいのですか?」


「構わんよ。というより魔族に表立って動かれると困るから裏方を頼みたい」


「はぁ……では指示をお願いします。無理のない範囲で」


 すっと自分の顔を撫でたレーナは、次の瞬間には別人になっていた。

 もともとの容姿は魔王と同じ病的なまでの青白い肌と、額からはえた一本角が特徴だった。

 だが今は血色のいい肌艶を保ち、角は消えて、目じりの柔らかい女性に……いや、先生によく似てるな。

 並べて姉妹ですって言われたら大半が騙されるだろう。


「もうちょい、つり目にして鼻を高くした方がいいな。先生をモデルにしたんだろうけど似すぎている」


「なるほど。というか驚かないのですね」


 近くで見ていた先生とリリが口をパクパクと動かして何かを言おうとしているが、そこは年季の差よ。


「ドッペルゲンガー、人間社会に紛れてる魔族の中じゃ有名だろ? 本物を見たことは無かったけど、魔王と似ているのもあって想像はできていたからな」


 そもそも魔王アルファの使った変身は魔法ではなかった。

 固有技能と呼ぶべきか、サキュバスが男の性を食事代わりにできるように、ドッペルゲンガーは自らの姿を変えることができる。

 顔立ちの変化はその入門で、古い個体だと全身を変化させることも可能だという話を聞いていた。

 魔王が犬になった時はさすがに驚いたけどな……前知識があって、予想ができるならそこまででもない。


「えと、ドッペルゲンガーって魔族の中でも弱いと聞いたのですが……」


「そりゃ違うぞ。弱い魔族ってのは存在しない。あいつら基本的にどこを取っても人間や亜人より上の、人型の龍種みたいなもんだからな」


 というか弱く見せかけることができるだけ下手したら龍や神獣なんて連中より厄介かもしれん。

 娼館で働いているサキュバスだってその気になれば一人で国を落とす事もできる存在だ。

 それが人と共存して、更に容認されているのはそれだけの実績を積んできたという事。

 たまに聞く話じゃ、曾祖父の代から世話になっているサキュバスの娼婦がいる貴族なんかも珍しくないとかなんとか……。


 下世話な話ひとつとっても、相手の性を吸って糧にすることができる種族がそれだけ人の性を吸い続けているって聞けばゾッとする。

 あいつらにとって食事と変わらない行為を、毎晩繰り返していたとして1年で3000人分以上のエネルギーを摂取している事になる。

 それが4世代にわたってとなると100年以上、下手したら伝わってないだけでもっと古い歴史もあるとすれば200か300か……計算するのも嫌になってくる。


「人型の龍種か、言い得て妙だが近しい物はあるな」


 黒龍王が呟く。


「我ら龍種ももとは狩りの獲物だった。だが、一方で力を誇示したものは死に、人との共存を選び崇められることで今日まで生き延びた者もいる。あるいは人の来ない秘境に身を潜め静かに、穏やかに暮らす者もいた。時折そういう所を訪れる変わり者もいたがな」


 おい、こっちを見るな。

 お前らの言う秘境って基本的に地脈と霊脈がぶつかり合って、普通の人間だと耐え切れないくらいの魔力のたまり場になってるからハイエルフにとっては居心地がいいんだよ。

 なんというか、魔力の濃い場所はリラックスできるというか、人が多い場所は魔力が薄くて息苦しいというか……。

 この一件が終わったら黒龍王の巣に連れて行ってもらってバカンスってのもありだな……。

 書類はまとめてあるから場所を選ばず研究はできる。


「で、私達はなにをすればいいんですか?」


「あぁ、レーナは地下水源を捜してほしい。リリ、王女権限で冒険者のランクをそこそこの所まで用意して彼女に行動の自由を。魔王はこの街の地下に避難所を作ってくれ。地下シェルターだ」


「む、人が関わらない仕事なら喜んで!」


 ……お前引きこもりで人見知りとか、ある意味で本当に魔王向きな存在だな。

 勇者ってコミュニケーションが必要になる事多いから、向いてなかっただろうな。

 というかよくそれでハーレム作れたなお前……いや、レーナが仕向けた可能性もあるか。


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