「で、ぶっちゃけた話神とコンタクト取る方法あるか? 無ければ探すか作るしかないけど」
「どうやらその時間もなさそうでな」
少しヒートアップしたので、謁見の間みたいなところから移動して客間でお茶を飲みながら話す。
……この茶葉ヤバいな、酒精は無いのに魔力が濃すぎて酔いそうだ。
というか口を着けただけで司をはじめとする三人はぶっ倒れた。
レーナが器用に抱えてソファに寝かせたが、別の部屋に連れて行かないのは目がつくところに置いておきたいのだろう。
「詳しく聞かせてくれ。あいつらが寝ている今ならちょうどいい」
「……この世界の成り立ちはさっき言った通りだが、神々は別の目論見もある」
「目論見……碌な事じゃないんだろうなってのはわかる」
「ある意味では当たっているが……インターンと言ったら伝わりやすいか?」
もしかして、という思いが頭に浮かんだが流石に無いだろと否定しようとした。
「神は人材不足で、それを補うために人類の進化を促したいそうだ。女神の恩寵なんて呼ばれ方している通り、レベルアップは神がそうなるように仕向けた物だ。考えたことないか? レベルがカンストしてもステータスは上がるし、新しい知識も手に入る。じゃあレベルってなんの意味があるのかって」
「……人間卒業レベルってことか」
「上手い事を言うな。過去、魔族になる事を拒んだ高レベルの人間が転生したのを見たことがある。その時はドラゴンになっていた」
「それは……進化なのか?」
「そのドラゴンは人間の頃の記憶を持っていて、レベルを上げてまた死んで、今度は龍になった。一番若い白玉龍がそれだ」
「あいつかよ……道理で人間臭いところあると思ったわ」
知り合いだった。
人間の国、というか私が錬丹術学んでた国じゃ守護神として祀り上げられている存在だ。
黒龍王とは年季の差で負けるが、狡猾な戦い方と無駄に戦争の知識があったから妙だなとは思ったけど……そういう事もあるのか。
「人間の頃はドラゴンテイマーというジョブだったらしいが、まぁ順当な進化だったんだろうな」
「神の目的は分かったが、時間がないってのはどういうことだ」
「勇者召喚だ」
未だにぶっ倒れている司を指さした魔王。
ちなみに黒龍王は先生の胸に抱かれて熟睡中である。
朝飯食ってからずっと寝てる。
「神を召喚すること自体が無謀で、そもそもゲームを通しての交流を選んだのも世界への負荷を考えての事だ。その廉価版とはいえ、次元の壁を突き破るような魔法が過去何回も行われた。その穴は塞がっているのかどうか、考えたことは無いか?」
「……言われて見ればヤバい状態だな。今回召喚された人数がやけに多かったのも理由があるのかもしれないと思っていたが、次元の穴は拡大し続けているのか?」
「黒龍王から魂が精神を包む膜だという話は聞いていると思う。あれは俺の発案で、立証したものだからな。一方で世界も似たようなものと定義するなら、次元は肉体という膜なんだ。それが傷ついて治らないとなったら」
「壊死するな。そして隣接した世界にも穴が空いているなら……」
「良くて切除、この場合世界を構成している何かしらの力が消え去るな。例えば魔力、地球なら電力とかな」
「最悪の場合はどちらも共倒れか。治療が間に合えば問題ないが、そのための人手が足りない……ナイチンゲールはいないのかよ」
「神の作った天国という名の英雄博物館で羽を休めてるだろうさ」
「……なんかどんどん神が嫌いになってきた」
「安心しろ、俺は最初から大嫌いだ」
その最初ってどこだろうなぁ、たぶん前世で生まれた時からなんだろうなぁ。
こいつそういう目してるもん。
子供がクレヨンでぐりぐりと描いたような濁った瞳。
魔王になってからじゃなく、もっと根源的な所で強いトラウマがあると見た。
「穴をふさぐ方法について話がしたい。俺は見ての通り人外の姿、魔族だから動きにくくてな」
「そりゃ構わん、というかさっさと勇者とか聖女とか一緒に来たユニークジョブ保持者を送り返して穴塞いで二度と召喚魔法使えないようにしたいところだ。が、人に化ける方法はないのか? 口ぶりからしてここを離れられないわけじゃないんだろ?」
「無い事もないんだが……恥ずかしい話、ずっと引きこもりやってたから外に出て大丈夫か不安なんだ」
……思ったより情けない理由だった。
「お前サキュバスとか人狼から情報受け取ってるんだろ……」
「引きこもりにネット与えたところで外に出るようになるわけじゃないだろ!」
……ごもっとも。
というか私と同じタイプならその情報基に色々考えて、研究に走りそうだ。
思えば100年くらい没頭してて外界との接し方忘れてた時期もあったな。
感覚的には似たようなものなのか?
「OK、わかった。とりあえず人間に化けて少数から慣らしていくところから始めるとしよう。つーか私らと話せてるじゃないか」
「そりゃお前は顔見知りだし、黒龍王は長い付き合いだし、勇者や聖女はよく見てきたし、あの胡散臭いのはなんか話しやすそうで……」
田中……お前魔王にまで胡散臭いって言われてるぞ。
というかそんな胡散臭さの塊にコロッと手玉にとられた黒龍王の立場……いや、何も言わない方がいいな。
真面目に相手するだけバカを見る。
「レーナ、魔王に同伴してやれるか」
「それは望むところですが、そろそろ一人で外出できるようになってもいいのでは……?」
「頼むよレーナ! 俺の性格知ってるだろ! そりゃ当時は異世界転移だひゃっほいって調子に乗ったけどさ! おれの情けない所全部知ってるじゃん!」
「えぇ、その情けない所も含めて愛してますよ。けど克服できたらかっこいいなとも思います」
……なんというか、尻に敷かれてるな。
長命種あるあるなんだが、狭いコミュニティでの生活が多いからか離婚といった概念がない。
相手のいい部分も悪い部分もひっくるめて愛するようになる。
が、その上で悪い部分は指摘するし、苦手なものがあるなら克服するために協力を惜しまない。
男女どちらの順応性が高いかにもよるが、大抵の場合男が尻に敷かれることになる。
「相手は皇女だが小娘だ。それに戦闘力も低いし、私とそこで倒れてる奴ら、あと数人が見張りにつく程度だ。それ以外だと……犯罪者の集まりみたいなところしかないな」
「どっちもハードルが高いぞ……」
「頑張れ」
こればっかりは知らん。
人見知りが原因で世界滅ぼされたとか洒落にならんし、これを機に人間とのかかわりを増やして魔族への偏見とか、魔王の存在意義みたいなのを知ってもらいたいものだ。
あと勇者召喚の魔法の妨害策も考えなきゃだし、次元の穴の塞ぎ方……その前に司達を地球に送り返す方法もか。
研究は好きだけど、こうもやることが多いと少し現実逃避したくなるな……。
携帯型ハウス、魔道具の中でも高級品でどこでも亜空間にある家に移動できるものだけどそろそろ中掃除した方がいいかもなぁ。