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第38話

「ということでこれからダンジョンに潜るぞ。目的地はこの街のはずれにある不人気ダンジョンだ」


 翌朝、司達と会議をすることにした。

 夜は司以外疲れ果ててぐったりしていたからな……黒龍王の背中は私も乗った事あるが、はっきり言って乗り心地最悪だ。

 安全バーもシートベルトもないジェットコースターと言えば伝わるか?

 ありゃ絶叫マシン通り越して自殺マシンだ。


「えっと、不人気ダンジョンですか?」


「あぁ、ダンジョンってのは三つの階層に分けられていてな。まず低階層、潜ってから10階層くらいの所までを指すがこれはどこのダンジョンでも同じで、出てくるのは雑魚ばかり、たまに中階層ダンジョンクラスの魔獣が出てくるがそれもレベル30前後の一般的な冒険者なら犠牲は出ても対処はできる範疇だ」


 この辺は移動中に説明がてら教えておいた方がいいだろうな。

 冒険者でレベル30は中堅と言われているが、この街だとダンジョンがあるし、子供の頃から潜るやつもいるから低くみられることも多い。

 お国柄ってやつだな、ここは国じゃないけど。


「基本的にこの街の中心にあるのは食料ダンジョンと言われる類で、敵から得られるのは大半が食料になる。深度が深くなって11階層以上になってくると薬草とかを落とす魔獣も出てくるが、大多数は低階層で得た食糧の一部を売って金に換え、残りを自分で消費しているな」


「なるほど……畑とかはないけどダンジョンで取れるからなんですね」


「そういうことだ。野菜はさすがにドロップしないが、果実とか肉は結構ドロップする。あぁ、ダンジョンについて補足しておくが森での実践演習みたいに殺した相手の死体は残らない。代わりに核となった素材がドロップするんだ。肉とか果実とか、魔石とかそういうのがな」


 といってもこれはそういう説があるぞというだけだ。

 ダンジョンに関してはまだまだ不明な点が多い。

 やはりダンジョンは生物であるという説が私の中では比率がでかいんだが、そういうのを細かく説明する必要もないだろう。


「ちなみに中階層でドロップする薬草類はそのまま食えるから野菜代わりだな。サラダにしても美味いらしい」


「へぇ……」


「高級品だけどな。というかそもそもダンジョン産の食糧自体が高級品だがこの街じゃ一般的に食われてる。」


 魔素を多く含んだ……なんて言えばいいんだ?

 こう、家庭で使っている電気そのものが魔素で、それを動力として使った場合電力になった物が魔力なんだが、その魔素を多く含んでいるものを口にするとレベルが上がりやすくなるとか、ステータス強化に繋がるとかいろいろ言われている。

 そっちも未検証だし、個体差がありそうだから着手してないけど一つだけ言えるのは、この街の住民は他の国にいる同レベルの冒険者よりも強いということくらいだ。

 エルフが長命で魔力の保有量が高いのとかも魔素の影響とか言われているな。


「話を戻して、三つ目は深層って言われている。中階層と深層に関しては数字じゃ測れないから挑んだ冒険者の話を聞いてまとめた結果だし、ダンジョンの奥は魔素……魔力の素が原因でころころ環境やら魔獣の生態系が変わってくるからあてにならない」


「魔素ですか……」


「後で詳しく説明するからそれは置いといてくれ」


 先生が興味深そうにこっちを見てきたので話を遮って、ちらりと視線を移せば司と田中はダンジョンに夢中のようだ。

 ただ田中はこちらの発する言葉一つ一つに興味を示しているから抜け目ないというかなんというか……。


「うーむ、ダンジョンか。我は同行できんな」


 そこでぽつりと黒龍王が呟いた。

 それに対して視線が集中する。


「龍種ってのは基本的に魔力を垂れ流しているんだ。こいつらは放出している魔力の量と質で強さを誇示するから隠す事はしないしできない。だからダンジョンに連れて行ったら低階層ですら深層並のやべー所になる」


 端的に言うならブレーカーに向かって大出力の電気を流し込むようなもんだ。

 機械がぶっ壊れるどころか火事になるわ。


「それに今回挑むのは不人気ダンジョンだ。間引きがまともに行われていたとしても魔獣の数は多い。間違いなく巣穴を突いたようなことになるからな」


「……と、言いますと?」


「スタンピードって言うんだが、ダンジョンの中の魔獣が許容量を超えると外に出てくるんだよ。これが発生するとダンジョンの難易度も上がる。一般的には深層で縄張り争いに負けた強者が中階層に、中階層から逃げた奴が低階層に流れ込んできた結果追い出された連中って話だ」


「それは……」


「その先頭に立って殲滅するのもレベリングとしてはありなんだが、今回は別の目的だ。というかそれをやるならもっと人里離れた場所でやる」


 実はこのスタンピード、この世界でもよくあるレベリングのひとつだったりする。

 強大な魔力を持った奴らがダンジョンを刺激して、逃げ出してきたのか魔力の匂いに釣られたのかわからんがそういう奴らを相手に戦い続ける。

 対軍を目的とした戦闘として訓練になるし、レベリングも兼ね備えて参加者の意識改革もできる。

 とてもお得だが、ダンジョンをひとつ潰すつもりで挑まないといけない。

 ドロップアイテム以外にもダンジョンの傾向によっては鉱石や薬草、珍しいキノコや木材の採取もできるためある種の資源をひとつ潰すわけだ。

 よくあると言っても潰していいようなダンジョンが沢山ある国でしかやらないし、他の国でもやるなら徹底的にという事でスタンピードで数を減らしてから質を相手に物量作戦と進んでいくことになる。


「一応スタンピード後もダンジョンの正常化は可能で深層の魔獣を間引いていけば元通りなんだが、それでも時間がかかる」


「ダンジョンはつぶせないんですか?」


「司……物騒な事を言ってるが、それは鉱山を潰すようなもんだ。一応方法は確認されているが、よほど危険なダンジョン以外は存続が基本だと思っておけ」


「なるほど、ではその方法は」


 こいつ……引き下がる気ないな?


「ダンジョンの奥にあるコア、一般的には水晶玉みたいな形をしているが魔石だ。こいつを壊すか外に持ち出せば自然とダンジョンが消える。ただ壊した場合はダンジョンブレイクって言う、まぁ言葉通りの崩落に巻き込まれるから命がけで決死隊がやるようなもんだけどな」


 というか決死隊用意して失敗するのが普通。

 ダンジョンは資源であると同時に地雷原だ。

 どこで爆発するかわかったもんじゃないし、何が起きてもおかしくない。

 深層に辿り着いて安定した間引きができてようやく使えると言ったところだ。


「……なるほど、ちなみにその魔石を他の、例えば洞窟に放置すればダンジョンができるんですか?」


「研究されたけど、答えはできなかった。もともと魔石って言うのは魔力を豊富に含んだ石であって、魔獣の体内に存在しているのはそれが魔力源だからだ」


 まぁバッテリーだな。

 ダンジョンは自分で魔獣を生み出し、死んだ魔獣も人間も取り込んで魔力を蓄える永久機関に近い状態だ。

 だから魔獣を無傷で倒し続ければ不活性化させることもできるが、ダンジョンの生成に関してはいまだ不明点が多く、何かしらの魔法か魔術が使われている説が濃厚だったりする。

 問題は何百年も何千年も記録が残っているようなダンジョンがあったり、突然ダンジョンが発生する事からメカニズムが不明ってのが大きいわけだが。


「では今回挑む不人気ダンジョンはどんなところですか」


「スタンピードを3回起こして、本来なら深層にいるような魔獣が低階層を平然とうろついているような場所だ。深層だとドラゴンが飛び交ってるらしい」


「それって冒険者レベル換算だとどのくらいですかねぇ」


「だいたい80前後が10パーティで挑むレベルだな。ただこの街の連中は強いから50レベル前後1パーティでも十分だと思うが安全にとなるとそのくらいは求められる。ちなみにドロップ品は高級品が多くて環境は厳しいが採掘できる品々も珍しいものが多いから潰されてない」


 不人気の理由は難易度だけで、それに目を瞑れば美味しいダンジョンなのだ。

 ちなみにレベルはジョブごとに最大レベルが違ってくるので80と言ったが、ユニークジョブの司達のお仲間なら今のレベルでも十分通用するだろう。

 深層の間引きくらいはという意味であって、ダンジョンのコアを持ち出せるかどうかは別とするけど。

 ユニークジョブってレベル上限がわかりにくいんだよな……効率的なレベリングもジョブごとに違ってくるからなぁ。

 先生は仲間の回復と支援って仕事があるが、大半が肉の壁になって抑え込んでいるうちに倒してもらってレベルを上げるところからがスタートだし。


「それ……私達だけで大丈夫なんでしょうか……」


「問題ない。というよりまず先生も司も田中もレベルを上げないとどうにもならないし、魔族がいるなら情報を集めるいい機会だ。ちょっと難易度が高いだけで大した問題じゃない」


「そう、なんでしょうか……」


「安全にって言うならそりゃこの街の人気ダンジョンに行けばいいさ。ただ低階層じゃ弱すぎるし中階層の奥の方じゃないとまともにレベリングができない。そこまでの往復にかかる食料や水の調達、後は精神的負荷を考えるとお勧めは最初から難易度高い所でひたすら戦闘だね。スタンピード以外、例えば戦ってて逃げたとしてもダンジョン内の魔獣は外まで追いかけてきたりしないから」


「それはなぜでしょう」


「知らん、研究しようとしたけどマジで何もわからなかった」


 色々なダンジョンで魔獣を無理やり連れだしたことはある。

 霧散したりとかそういう事は無かったけど、脱兎のごとくダンジョンに逃げかえってたな。

 低レベルの調査員、という名目で派遣された犯罪者も餌として置いておいたんだが目もくれなかった。


「ちなみに精神的負荷というのは?」


「司、お前はもうちょい考えた方がいい。その場その場で与えられた役割をこなすだけじゃ化け物呼びされ続ける事になるぞ」


「……精進します」


 苦々しげな表情、こいつやべーやつと思ってたけどただの天才肌が歪んだ可能性もあると思うんだよな。

 できるからやった、そしたら誰よりもいい結果を残した、気がつけば孤高の存在になっていて世間から向けられる視線の奥にある嫉妬やらばかりを感じ取って歪んだとか。

 ……いかんな、ジョブの影響もあるけど研究者としての悪い癖が出ている。

 その辺解決するのは外野の私じゃなく本人だ。


 どうしてもという時に手を引っぱってやるなり、道を教えてやるなりするべきだ。

 まぁそれも一時しのぎにしかならんから、最後は本人と時間が解決するのを待つしかないんだがな。

 この世の中に存在する大抵の苦悩は時間が解決してくれる。

 唯一解決できないならそれは老化と死だけだろうってな。


「あのー、私もわからないんですけどダンジョン特有の物ですか?」


「ある意味ではそうだなぁ。旅をする上での精神的負荷ともいえるけど……ほれ、選抜の時に話しただろ。男女混浴は当たり前って」


「えぇ、トイレとかも異性が見張りについているくらいは普通と」


「そうそれ、旅の途中ならその程度で済むんだがダンジョンは限られた空間だ。たまに地下なのに平原が広がってたりするが、そんな例外はさておきだ」


 先生が生唾を飲み込み、司は何かに気付いた様子だがそのまま口を噤んでいる。

 うん、これは余計な事を言わない方が身のためなんだよ。

 なぁ男子共。


「水浴びできる環境が無いから不衛生だし、その辺で用をたすから知らない連中にもみられる。なんならそこら辺の安全地帯に行けばおっぱじめてる冒険者もいるし、お誘いなんかしょっちゅうだ」


「ピッ」


 先生が悲鳴を上げて顔を真っ赤にする。

 まぁ、生娘っぽいしそうなるよなぁ。

 私としては慣れた物というか、ダンジョンなんて散々潜ってきたし身の守り方も覚えた。

 魔道具の空間拡張型テント防犯式を使えば通行を許した相手じゃなければ入れないし、風呂もトイレも設置してあるが使うつもりは無い。

 魔王との戦争で、そんな目立つもの使えるわけじゃないし早めに悪環境に慣らしておきたいんだよな。


「あいつら女相手なら見境ないからな。自分で言うのもなんだが、私はそれなりに美人だ。エルフという種族が遺伝子的にそうなっているのもあるが、顔立ちは整っている。先生は可愛いのに胸がでかいから男はほっとかないだろう。なぁ田中」


「なんでこっちに振るんですかねぇ!?」


「いや、お前ちょいちょい先生の胸揺れるの見てただろ。そのたびにこっちの胸が揺れないの見て残念そうにしてたの忘れないからな? エルフは恨みを一生忘れない」


「ひぇっ」


 身を抱えて縮こまる田中は放置しつつ、顔を真っ赤にしている先生には正気に戻ってもらおう。

 というか司よ、こういう時は気配を消さずに手伝ってほしいんだが?

 ……触らぬ神に祟りなしってのはその通りなんだがさぁ。


「さ、着いたぞ」


 まぁ呆けてられるほど余裕は無くなると思うけどな。



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