「これがダンジョン……」
「を中心に栄えた都市な。ここのダンジョンは低レベルだけど魔獣から得られる鱗や皮は武器や防具に、肉なんかは食材にと重宝されて大抵の物資がダンジョンで手に入るからこそ栄えた場所なんだ」
数日の野営を経て中立地帯の中でも最も栄えている都市に辿り着けた。
とはいえ、今回の目的はダンジョンではなく食材なんかの物資を得る事であり、ついでに闇ギルドとは違う犯罪者を集めて作った裏ギルドの調査がメインだな。
あとは新しいダンジョンとか魔族の情報が無いかどうか。
「宿は二部屋、司と田中、私と先生で分けるが異論は?」
「ありません」
「ないっす」
「はい!」
三者三葉、返事を返してきたのでその通りに宿で手続きを済ませる。
「我は?」
「馬小屋と変化で小さくなって司達と同じ部屋、好きな方を選ばせてやるよ」
「む……そちらの先生とやらと寝るという選択肢は?」
「ロリコンかおっぱい魔人かによって殴り飛ばすか蹴り飛ばすかのどっちかになるが」
「むさくるしい男共と寝るのは勘弁だ」
「……ならなぜ先生を選んだ?」
「旧知の仲よりも今一時の出会いを優先するのは当たり前だろう」
……このトカゲ野郎、無駄に口が回るな。
けど反論できないわけじゃない。
こいつ、こんなだけど昔は若い女の生贄を求めて、そいつら侍らせてた時期があった。
と言うか龍と言う種族は光物が好きで、女好きな一面があったりと結構俗っぽい。
まぁ、先生が許可したら良しとしよう。
「では……ふんっ!」
黒龍王が姿を変えて小さくなる。
見た目はデフォルメした黒龍王で、魔力の内包量なんかも変化はないが見た目だけが変わっている。
龍族にだけ使える特殊魔法、身体変化だ。
龍族が人間の姿に化けて勇者に同行したのが原点と言われている魔法だが、その後一族で改良を加えて小さな姿になったり、他の種族の姿になったりと色々できる便利な魔法である。
聞くところによると吸血鬼の知り合いにも手伝ってもらったというが、その原理がわからないので私も使えない魔法だ。
似たような事はできるけど、それはオリジナルなのでこいつらが使っている物よりも汎用性がない。
「おぉ、黒龍王様すっげぇ! 変身できるんですね!」
「うむ、我くらいになれば当然よ。人の姿にもなれるが、それはそれで目立つのでな」
「そうなんすか?」
「あー、黒龍王が人に化けると絶世の美人になるんだよ。つーか龍族全員が人類という枠組みから見て美人なんだ。一番醜いって言われてる邪龍王ですらその容姿だけで国を傾けられる」
「美人……女性っすか?」
「龍に性別という概念はないぞ、契約者よ。だが知っていれば模倣することもできる故、我ら龍の血を継ぐ人の子もおる」
実際性別の概念はないんだが、選り好みはするんだよな。
さっき田中と司の部屋は嫌だって言った通り、こいつら基本的に女の姿にもなれるのに男より女好きが多い。
昔別の龍族に聞いたところでは「男は堅い、女の肉の方が柔らかくて寝心地もいい」とのことだった。
だから性欲よりは睡眠の質に関する問題なんだろうな。
「はー、浪漫のある話っすね」
「ふさわしいと認められるようになったらお主の子を産んでやってもいいぞ」
なにやら教育によろしくない流れになってきたが……興味津々なのは田中と先生だけだな。
司はマジでなんなんだ?
思春期なんて発情期の別名だろうに、色気とかそういうの全部無視して窓から街中を観察している。
先生は顔真っ赤にして口をパクパクさせているが……説教しようとしているけど、何から切り出したらいいかわからないって感じか。
それにしても、この辺りも物騒になったみたいだな。
先生と私、そして黒龍王を見て値踏みをしているのが何人かいる。
宿に併設されてる酒場だから仕方ないとはいえ、この時間から酒を飲んでいるようなのはダンジョンで稼いで休日を設けているか、さもなくばダンジョンに入ることもできないような奴だ。
後者の場合は裏ギルドと繋がっている可能性が高い。
所属している可能性もあるし、奴らの獲物の可能性もある。
犯罪者の逃げ込み先となっているが、そんな中でも鼻つまみ者にされるやつはいるんだよ。
例えばこの街のルールを犯したとかな。
まぁ、私が抜け出しても黒龍王がいるから問題ないだろ。
「おっさん、カラスは何羽飛んでいる?」
「……この街じゃカラスは飛ばねえな」
「そうか、なら飛ばない奴らに脂ののった肉を出してくれ」
「見ない顔だが、昔の関りか?」
「そんなところだ。釣りはいらんから馬鹿が部屋に来ないようにしてくれ。それと……」
そっと、白いカラスが会いに来た、と耳元でささやいてやった。
ま、いわゆる符丁ってやつだな。
特定のキーワード含んだ会話で渡りをつける方法だが、白いカラスってのは創設者メンバーとその子孫に与えられる特別な称号だ。
私含めて当時の連中は何かしらの理由で罪人扱いされてたが、一部は救国の英雄になったりしているから歴史なんてあてにならないな。
……私はほら、ちょっと国ひとつ吹き飛ばした後だったから。
奴隷にされかけた時にね、ちょっとね。