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第34話

 それから三日の休暇を設けた。

 もちろん望むやつには訓練を受けさせたし、ギルドで仕事をするってやつは裏の連中に見張らせながら自由にさせた。

 司と田中は積極的に訓練に参加し、ガーディアン女子や破壊者君なんかはパーティを組んで仕事に出かけた。

 図書館に籠って色々調べて、私に質問に来る奴も増えたし、私はマスタークラフターのジョブ持ちと共に異世界人達の装備を整えていった。

 先生は訓練に参加したうえでギルドの仕事を受けて、なおかつ夜になったら聖女として魔力訓練を続けるというハードスケジュールをこなしていたが出発直前の日はさすがに休ませた。

 ちょっと嫌がってたので睡眠薬をお茶にだばーっと入れたらぐっすり眠ってたよ。


 一方で私は訓練にギルドへの送迎や仕事の手伝い、装備制作にリリへの報告と寝る暇もなく、覚醒ポーションという……端的に言うならエナジードリンクのもっとやばい奴をがぶ飲みして三日間徹夜だった。

 リリもその辺の報告書のまとめとかで忙しそうだったので手伝ったけど、ハルファ聖教も帝国もいい感じにおさえられているようだ。

 今後の事を考えると予断を許さないのは変わらないが、にらみを利かせているという事実と、それに対して裏で動こうとしたり策を弄したりとあがいているのでしばらくは無茶はしてこないだろう。

 そうして迎えた出発当日。


「さて、黒龍王は司と先生を乗せて飛んでもらえるか?」


「うむ、構わぬがおぬしはどうする? それにそこの主もだ」


「こいつを使う」


 インベントリから取り出したのは車だ。

 ちょっと光速に近い速度を出せて、空も飛べて、海の中も進めるとんでもない物体だが魔道具ではない。

 ……いや、世間的には魔道具扱いなんだけど、ゲーム内で移動用アイテムとして利用されていたドライブってやつの一つだ。

 中には重武装の戦車や戦闘機、移動速度が数十倍になるバイクや一緒に戦ってくれる馬なんかもいたが、今回は速度と頑丈性……移動中のダメージ軽減効果やバッドステータス無効の効果がついているこいつが適任だろう。


「なんすかそれ! すげぇ魔道具ってのはわかるんですが」


 マスタークラフターが喰いついた。

 まぁ、こいつからしたらそういう感想になるだろうな。


「レガシードライブR-277型3号機、むかーし手に入れたんだが使い勝手がいいんだ。目立つからあまり使ってこなかったが、車中泊もできる」


「ほへぇ……面白い機構っすね!」


 一目見ただけで機構を理解するとか、こいつのジョブも凄いな。

 時間があればじっくりと研究してみたかったが、そうもいかないだろう。


「田中は私とこいつで移動な。全員狙われるよりも分散していた方がいい」


「俺っすか? そりゃ構わないんですが、なんでこの配置に? もしかして俺に気が……」


「ふざけたこと言ってると引きずっていくぞ? 単純に司は先生と一緒にいた方がいいってだけで、お前は司と組ませても先生と組ませても戦力にならんって話だ」


「すんませんした!」


 まぁ本来の実力をどこまで隠しているかわからないから、私の見立てでと言う但し書きがつくんだけどな。

 正直一時的にとはいえ黒龍王の動きを封じたり、遠隔で魔道具を発動させたりってのを見ていると田中は支援メインの攻撃職と考えるべきだ。

 ただやっぱり支援の方がメインになるから攻撃を受けると脆いので先生と組ませるには盾として力不足。

 司と組ませるには火力だけバカ高い殲滅以外生き残る選択肢の無いチームになってしまう。

 なので回復力トップの先生と、戦闘センストップの司、盾も攻撃もできる黒龍王の組み合わせが一番安定している。

 一方で田中は単体ではそれほど強くないし、組み合わせとして二人組にするのは少し怖いので一応なんでもできる私がついていくことにした。


「あとこいつらを置いていく。魔道具でペットと言われる類のものだが、私や黒龍王ほどじゃないけど強いからな」


 インベントリから取り出したのは多数の人形。

 これもゲーム時代には名の通りペットとして連れ歩けるだけの存在だったんだけど、こっちの世界に来たら一緒に戦えるくらいの強さを持っていた。

 中には特定分野に限って私を超えるようなのもいたからレベルが低いうちは重宝していたが、如何せん融通が利かなくてな……。

 結局インベントリの肥やしになっていたけれど、こいつらの訓練やお目付け役にはちょうどいい。


 ……戦力としては十分なんだけど、魔王相手だと露払いにもならないくらいなんだよな。

 勇者や聖女と言ったバグはともかく、ユニークジョブを含めた人類という枠組みの中では最強格と言ってもいいだけの実力がある。

 そんな最強格を平然と超えていくのが魔王を中心とした魔族だ。

 あいつらは……なんて言えばいいのかな。

 レベルとか生まれながらの強さとは無関係に強い。

 ある意味で田中と同じ区分かな、使える物はなんでも利用して、生き残るためには手段を択ばない。


 ジョブの強弱であーだこーだ言ってる人類よりもよっぽど人間らしい思考をしているって言うのは、まぁ皮肉だが……今回の旅は戦力的な余裕もあるし、少しその辺探ってみるか。

 歴史的に魔族の出没から魔王の台頭に至るまでの記録は全部消されているからな。

 あからさまに人為的に、そこだけがくりぬかれたように情報が無い。

 そういう歴史の空白を埋めるのもまた面白いんだよ。


「とりあえずペットたちはお前達個々人に二体つける。ぶっちゃけると今の司よりも強いけど、融通効かないから気をつけろよ? うっかり誰それを殺してこいとか、冗談でも口にしたらこいつらはやるからな」


 ネコ型のペットを可愛がってたガーディアン女子がピタリと手を止めた。

 他にも犬型ペットと戯れていた破壊者君が飛びのく。

 マスタークラフター君だけが面白そうに解析していたが……なるほど、こいつもこっち側かな?

 私も解析しようとして、結局根幹部分はわからないままだったし。


「ほれそこの、マスタークラフター。私が解析した限りの情報が載っている。ドライブとペット、人為的に作れるならそれは一大産業になるからな。アーティファクトなんて言われていた魔道具を人為的に作れるようになる。失われた技術の復活は世界のためにもなるんだ。レベル上げをしながらこいつらを研究するといい。結局のところ人類の力はレベルに左右されるからな」


 そう、レベル1と言うのは普通の地球人と変わらないステータスだ。

 100㎏の物を持ち上げるのに苦労するし、50m本気で走れば息切れする。

 数kmのマラソンですらぶっ倒れる程度の体力だ。

 それはどれだけトレーニングをしても大きな変化はない。

 例外的に勇者みたいなのは女神の恩寵と同じ原理でステータスを伸ばせる。

 端的に言うとレベルアップって倒した敵の魂を模っている魔力を奪って自分の力に変える事だ。

 それをトレーニングで、足りない部分に待機中の魔力を吸収することで力を与える事ができるというのが一般的だがレベルによって吸収できる上限が変わってくる。


 ジョブがレアになればなるほど、その吸収率も上限も高くなるが、逆に言えばそれだけレベルアップに必要な魔力が必要だ。

 じゃあ他人が魔力を譲渡すればいいじゃないかとなるが、それは難しい。

 水に油を完全に溶け込ませることができないように、他人の魔力と言うのは染まらずいずれ排出される。

 それを術式を通して一時的に馴染ませるのが支援魔術だが、今の所その延長線でレベルアップ魔術の研究は続いていても成果が出ていない。


「じゃあ私達は行くが、あまり迂闊な行動はとらないようにな。リリ、私が鍛えた近衛と預けたペットたちがいるとはいえ油断するなよ。今回の敵は魔王以外にも宗教国家と帝国がいるんだ。いざという時は手段を選ぶな」


「承知しております。預けられた力、間違うことなくつかってみせましょう」


「それと預けていた道具は後でしっかり配ってやれ。こっちの文字と、あいつらの文字両方で名前が書いてあるからな」


「はい、戦闘用魔導武具、確かにお預かりした通り配らせていただきます」


 リリには見た目から不気味だったり、あまり戦闘力は高くないが斥候としてはとんでもなく優秀なペットをダース単位で預けてある。

 ゲームじゃコレクション程度の意味しかなかったのに、それがこんな風に扱われるってのは感慨深いもんだ。

 何はともあれ、行くとするか。


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