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第33話

「あー、田中と黒龍王から一通りの説明は聞いたと思うが改めて私とリリから言わせてもらう。疑わせるような真似をして申し訳なかった」


「私達はあなた方を利用するつもりはありません。国に、先祖に、神に、あなた達が信じる全てに誓い事実です。ですがこちらの対処が間違っていたのもまた事実。ここに深くお詫び申し上げます」


 異世界人一同が揃ったところで二人で頭を下げる。

 続けてその場にいた兵士たちも、普段はお堅く異世界人であろうと勇者であろうと平民に頭を下げるような行為は咎めるような近衛達も武器をその場に置いて膝をついて頭を下げた。


「頭を上げてください」


 一歩前に出たのは先生だった。

 ……あまり良くない流れだな。

 思春期ってのは反骨精神と反抗心の塊だ。

 自分より上の人間が謝罪を受け入れるような真似をしたら自分も従わないといけない、そういう刷り込みからまた反発につながる可能性がある。


「謝るべきは私です。みんな、本当にごめんなさい。私はユキさんから毎晩回復魔術や魔力の使い方を教わっていました。その時点で腹の探り合いはやめて、信用できる人だとわかっていました。けれどそれを公言しなかった」


「いやいや、待った先生。そりゃ私の思惑もあって黙っててもらったところが大きい」


「だとしてもです。優先するべきは生徒であるべきだったのにそれを怠りました。だからみんな、本当にごめんなさい」


 先生が頭を下げる。

 一瞬リリと目配せして、もう一度私達も頭を下げた。


「んー、まぁ雫ちゃんが黙ってたのは理由があるってわかるし、それに田中の言ってたことも筋が通ってるから私は許す!」


 ガーディアン女子……こいつある種の信奉者というか、狂信者の域に達している気がするが、今回は良しとしよう。


「いいんでねえの? ユキさんだって俺等の趣味に一定の理解したうえで武器と隠れたわけだし、田中と先生の話聞く限り俺達が生き残れるように頑張ってくれたんだろ?」


 破壊者君……馬鹿だと思ってたが理解してくれたらしい。

 こういう単純な奴ほど人の嘘に敏感だったりするんだよな。

 ただの馬鹿なら騙されて終わりだが、人の話に耳を傾けられる奴は馬鹿ではなく単純な思考をしているだけだから。


「そうあれかし、と言われればそうするだけでしょう」


 司は黙ってろ、この異常者。


「まぁ俺達も事前に色々調べてたしなぁ?」

「ギルドで歴史や街の情報集めても善政だったしね」

「なんならハルファ聖教とか帝国の方がやばいよな」

「あっちが召喚しようとしてたんだろ? この国でよかったぜ……」

「なー、使い捨てにされるところだったわ」


 口々に異世界人たちが許しの言葉や、それに準ずる意見を口にしてくれる。


「けど納得いかないのも事実だよなぁ?」


 が、当然こういう声も出てくる。

 人間3人集まれば派閥ができるというが、それが31人だ。

 全員が同じ意見なのはかえって気味が悪い。


「私達にできる事ならなんでもしよう。流石にリリの貞操は差し出せないが、私でよければ相手をするのもやぶさかではない」


「ちょっ、ユキ様!?」


「ユキさんそれは……その、教育上ちょっと……」


「ちょっと黙っててくれ。こちらの世界の都合で誘拐した事に変わりはない。その上で生き残るためとはいえ厳しく接してきた。身体も財産も差し出して許しを請うのが最低条件だろ」


 まぁ、たぶんそうはならんだろうなと言うのが私の認識だけどな。

 知ってる限り男子高校生は性欲の塊だが、一方でプライドも高い。

 同級生からの軽蔑の視線ってのはそれだけで堪えるだろうし、ギルドに通っていたというならば仲間の重要性なんて痛いほど理解しているはずだ。

 絶対に裏切らない、裏切れない同級生からも軽蔑されたとなれば今後の行動に差し支えるだろうし、それを言い出す勇気のある奴はいないと思う。


「……なにもそこまでは」

「あ、でも強いて言うなら魔道具ください! この前貰った自動防御の魔道具面白かったし、それ以外にも色々知りたい!」

「そういう事なら僕は魔術大全全巻欲しい!」

「私はお菓子のレシピ! この前食べたおやつが凄く美味しくてさ」

「なら俺は変身ベルトの監修をしたいぞ!」

「おっぱい揉ませてください!」


 ほらな? みんな当たり障りのない……待て、普通に性欲丸出しの奴いたぞ。

 誰だ! 田中だ! 殴る!


「田中ぁ……」


「冗談です!」


「はぁ……いや、揉んで楽しい身体でもあるまいに。それともなにか? ギルドで話してた下世話なあれは本音だったか?」


「あー、いや、ユキさん気付いてないと思うんすけどね。その性格含めて容姿もスタイルも魅力的でして。あわよくば記念にひと揉みくらいはと」


「夜の相手は要求しないのか?」


「それは恐れ多いんで! それにほら、流石にそれは人前じゃできないですし……」


 あ、なるほど見せしめか。


「わかった、好きにしろ」


 両手を頭の後ろで組んで、小さいながらも一応はあるそれを突き出す。

 が、問題はここからだ。

 先生をはじめガーディアン女子とか、そういう連中の冷たい視線。

 男子たちの抜け駆けしやがってとという嫉妬の視線。

 それらに耐えて、私の胸を揉めるものなら揉んでみろ!


「い、いきますぜ?」


「来いよ」


 じりじりと近づいてくる田中。

 わずかに近づくだけで男女問わず視線に殺意がこもっていく。

 たまに熱っぽい視線をこっちに向ける奴もいるが、そいつは無視するとしよう。

 ……最悪の場合魔法で幻覚でも見せて楽しい一晩だったとでも思わせればいい。


「さ、触りますぜ?」


「来いって」


「本当に触ってしまいますよ!?」


「いや、だからそれが詫びになるならやれっての」


「……ふぅ、とまぁ皆見てわかる通りこんだけ真剣なんだ。信じてやってくれよね、めっちゃ僕のこと睨んでたけどこうでもしなきゃ本当に変なお願いしそうなのもいたし」


 パッと振り返った田中、その指先が私の胸に触れる事は無かった。

 口ではいい感じに丸め込んでいるし、周囲も納得の表情を見せているが……こいつただ単純にへたれたな?

 いや、助かったんだけどさ。

 なんとも情けないなぁというか……ギルドやら旅路やらだとセクハラくらいは平然としてくるから、胸揉まれるくらいなら別にいいかと思ってたんだが、こうもピュアな態度を見せられるとつい悪戯心がな?


「おい、田中」


「へい?」


「ほれ、おっぱい」


 ぽふっ、と田中の頭を胸で抱え込んでやる。


「小さくて悪いが、お前が言い出したことだからな? それを反故にするのは詫びになってない。ただ身体を求めるっていうならそりゃ魔王をどうにかした後にしてくれ。万が一があったら困るからな」


 胸の中で顔を真っ赤にして暴れている田中を抑え込みながら、羨ましそうにそれを見ている男子に忠告。

 過去にあったんだよ、勇者パーティにいたけど妊娠して離脱した女とか、夜の店に遊びに行って病気移されて離脱した男とか。

 勇者はその辺加護があるのか、使命を果たすまでは病気とは無縁で恩寵痛くらいしか体調不良に至らないんだよな。

 あれは酷い時熱出るから。

 過去何人もの勇者が恩寵痛で苦しみながら戦い、そのまま負けたってのは結構ある。

 そんだけ同行してきたからこそ、どんな時に気を抜いてはいけないかとか、注意すべきタイミングって言うのは理解しているんだよ。


「あ、あの……田中君が……」


「ん? おぉ」


 のぼせたように真っ赤な顔で倒れ込んだ田中。

 この程度で照れて失神するとかうぶな坊やだな。


「まぁとにかくだ、身体を要求するなら諸々終わってからにしてくれ」


「めっ、ですよ!」


 先生が釘を刺したが……なんだ?

 私に向けられていた視線が一気に先生に……あ、胸のサイズか。

 エルフだし仕方ないな。

 リリにそんな視線を向ける不埒者は……あぁいたわ。

 見た目もスタイルもそれなりにいいからな。

 癖に刺さったならそうもなるか。


「あー、一応言っておくがリリの身体を要求したやつは翌朝には牢獄で起きる事になると思うから気をつけろよ?」


 これは本気の忠告、いくらユニークジョブで使い方がわかっているとはいえ、圧倒的なレベル差と数の暴力には勝てない。

 特に近衛は私が直々に育てて、今じゃノービスなのに集団で挑めば5分司の足止めができるくらいにはなったからな。

 黒龍王相手でも1分くらいは時間稼ぎできるだろ。

 この世界の上澄みに入門だな。


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