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第31話

「さて、言い訳を聞こうか……なぁ? 田中?」


「あ、あはははは」


 笑ってごまかそうとしてやがるなこいつ。

 だがそうはさせん。


「黒龍王、殺意マシマシ魔力全込めの咆哮をこいつだけに集中砲火」


「やめてください死んでしまいます何でも話します」


「よし、嘘ついたらわかってるな?」


 コクコクと首を縦に振る田中を見て留飲を下ろす。

 ここまで脅せばまぁ大丈夫だろう。


「で、どこから仕込んでた?」


「えーと、実を言うと最初からっすね」


「それはこっちに召喚されてからか? それとも私と会ってからか?」


「召喚されてからっす。反抗的な態度を見せて出方を見守るのは言うまでもなくやってもらえたんですけどねぇ」


 ちらりと破壊者君を見る。

 うんうん、それはわかるよ。

 何なら先生も反抗的な面はあったし、それも仕方のない事だ。


「俺等の世界だと異世界召喚で懐温めたいだけの糞王族や貴族ってのがジャンルであったので警戒してまして。ユキさんが来た時はあっさりこっちの手の内見抜かれたから不味いなぁと思ったんですが、こっそり訓練してばれないようにしてたんすよ」


「続けて?」


「そんで裏でやりとりしてたんすけど、何かしかけてくるならここかなってのが選抜試験だったんで……ほら、こう言っちゃなんですがユニークジョブって相当珍しいし、強いとなれば間引きとかしたくなるかもしれないじゃないっすか。そんで死んだ仲間に報いるためにも云々って言ってくる可能性があったので一矢報いてやろうかなぁくらいな気持ちで……」


「なるほど、確かにお前たちの考え方や気持ちをないがしろにしてたな。すまない」


 全員に向けて頭を下げる。

 これは完全に私の落ち度だ。

 ただ、一方で許容できない事もある。


「それで、どうやって裏で連絡なんか取ってた? 少なくとも王宮内の会話は筒抜けだし、森でもお前らは離れたところにいたはずなのに司のところに駆けつけるまでが早かった」


「あー、えーと……」


 チラリ、と黒龍王を見る。


「サイキッカーのスキルで糸を使って会話してました! 窓の外通して!」


 糸? 糸電話的な奴か?

 たしかにそこまでアナログだとこっちも感知は難しいが、そんな道具があればすぐにわかるはずだ。

 ……いや、糸としか言っていないなこいつ。


「骨伝導か」


「よく知ってますね。それです、女子が髪の毛集めて作った糸で、スキルで動かしてもらって声を振動に変えて」


「なるほどな。司を見つけたのも同じ要領で?」


「そっちは占星術師のスキルっすね。星占いというだけあって仲間の位置を感知するスキルと、感知している範囲内であれば遠隔で魔術を使えるらしいっす」


 ってことは……うわ、戦場が一変する魔術師だなそりゃ。

 黒龍王の咆哮に耐えたからくりはわかったし、遠距離から支援魔術で強化する事が合図だったわけだ。

 どうりでこっちの探査能力から逃れられるわけだな。


「大体わかった。ともあれ、こちらは本当に君達を害するつもりは無い。利用もしない……とは言い切れないんだが、本心から君達を元の世界に戻して、魔王も討伐して、万々歳といきたいとは思っている。魔術契約を結んでも構わない」


「そこはもう疑ってないっすよ。やろうと思えば転移魔法の発煙筒だって転移先を火口とか海底にもできたのにしてなかったので」


「よくそんなもん使ったな……」


「あー、実を言うとその魔道具の存在知ってたんで……ほら、うちのクラスメイトにマスタークラフターっているじゃないっすか。あいつ道具ならなんでもその詳細を見る事ができるんっす。物品限定っすけど鑑定の上位互換っすね」


「それで転移先を調べたのか……マジでユニークジョブ怖いな」


 まぁ私自身やべージョブ持っているんだけど、それはそれとしておこう。

 というか本当に隠し通したのがやばいとしか言いようがない。

 そしてなにより、そういう風に扇動した田中が一番やばい。


「結果はどうだ?」


「ぱっと見そちらの偉大なドラゴン様を使って司君を排除しようとしてるように見えました……」


 なるほど、だから攻撃が私を巻き込むよう誘導されていたのか。

 実際こいつらなら低レベルでも数と質が揃っているから私か、黒龍王相手なら逃げるくらいはできるだろうしな。

 だが田中よ、お前は今地雷を踏んだ。


「我をあのような小物と同列視だと?」


 ドラゴンと龍の間にはとんでもない差が存在する。

 月とスッポンどころか、ミジンコと太陽くらいの差。

 龍のくしゃみでドラゴンが死ぬ、なんて言われるくらい恐れられ、同時に神聖視されている存在でもあるのだ。


「落ち着け黒龍王、こいつは異世界人だから区別がつかないんだ。今回だけは見逃してやってくれ」


「だが我をドラゴンと呼んだものは例外なく……」


「私と魔王と過去の勇者達」


「ぬぅ……」


 なんだかんだで彼はその辺甘い。

 例外なくぶち殺していると言いたいのだろうが、例外あるし想定外も多い。

 というか割とドラゴン扱いとかは多いからな。

 一般人には見分けつかんのもあるけど。


「勇者を殺すならレベルが低いうちにやってるっての。というかマジでそんな意味ないし、それなりに調べたうえでその結論だったのか?」


「いやぁ……暴走したのが何人かいましてねぇ」


「うん、お前やっぱり戦闘時以外は魔封じな。制御できない扇動とか厄介超えて脅威だ」


「うす……ちなみにどういう意図で龍王様を?」


「そりゃお前、マジの死を実感させなきゃいざという時足がすくんで動けませんとかよくあるからな」


 というかあった。

 過去の勇者の中には養殖でレベルだけ上がったが、殺されそうになる恐怖を知らないまま魔王に挑んで動けないまま死んだ奴もいた。

 その時は再度勇者召喚をするまでいくつか国が滅んだな。


「良くも悪くも慣れは必要なんだよ。今後そういう場合も出てくるし、お前らも仲間を見捨てる覚悟って言うのが必要だった。今回は逆手にとられて一致団結されたけどな」


「はははっ」


 なにわろてんねん。


「ともあれだ、お前を勇者パーティの一員として任命するがいいな」


「あ、それなんですがちょいといいですかい?」


「ん?」


「少人数で、司君と先生、ユキさんと俺の四人ですよね。で、最大で二人入れるって話だったんでもう一枠猶予があると思うんすよ」


「まぁ、多少役割が被るくらいなら問題ないが」


 私オールラウンダーだからどのポジションでも動けるし、アタッカーが多ければそれdだけ敵を倒しやすい。

 タンクが多ければスイッチとわれる入れ替えで回復の時間を稼ぎやすい。

 ヒーラーが多ければ支援と治癒の両立が楽になる。

 問題は無いっちゃ無い。


「そこで頼みなんですが……龍王様、一緒に来てくれませんかね」


「ふんっ、我をドラゴン扱いした小僧が何を言う」


「いやいや、まぁ聞いてくださいよ。俺等の世界ってドラゴンも龍も架空の生物でしてね? そもそも俺等の住んでる国じゃ龍は誰もが憧れる存在だったんですよ。青龍っていうのが語られてて、別の大陸から来た神話なのに国の宗教にねじ込まれる程度には」


「ほう?」


 こいつ……すげぇ度胸してるな。

 嘘は言ってないが、真実も言っていない。

 曖昧であやふやな情報だけを口にしつつ、敵対者絶対殺すマンの黒龍王を口説こうとしている。

 というか私に断りなく黒龍王をパーティに入れようとしているのか……そういや昨今の勇者パーティは人間で固まってること多かったな。

 種族間の軋轢とか気にしての事だったけど、ハルファ教が調子に乗り始めたのもそれが原因だし。


「で、そりゃもう凄い修練で辿り着く龍もあれば最初から滅茶苦茶強い龍もいるんですよ。でも魔法とかそういうのは西の国の方が盛んでしてねぇ。そっちじゃドラゴンを国旗に描いたりしてたんです。結果、魔法を扱う創作をファンタジーと呼ぶようになったのですが、その際に人間じゃ絶対に勝てない上位種として翻訳の際に龍をドラゴンと訳した人がいて俺達の認識もずれてしまったんですよ」


「けしからんことだが、人間とは儚く弱い。その西の国はさぞ強豪であったのだろう」


「そりゃもう、戦争を裏で牛耳るような国もあれば、世界の治安を維持していると自称する国まで色々ありました」


「察するに、そ奴らに負けたな?」


「俺達の先祖が戦で……」


「なるほど、合点がいった。して、誤解を解き我を褒めたたえた程度で同行するとでも?」


「いえいえ、そんな神にも等しいとされていた龍の王様であるあなたにそんな事は頼めませんよ。ただ俺が言いたいのは、そんな強い龍王様が魔王討伐に参加したとなれば未来永劫語り継がれる逸話……いや、神話になるのではないかなと思いましてねぇ」


 こいつ……結局褒め殺し作戦じゃねえか!

 というかそんなちょろい奴じゃないぞ、黒龍王。


「街を歩けばあなたの神話を歌う吟遊詩人! あなたに仕える者達が増え、目障りな宗教国家に大打撃! そしてなにより……見てみたくありませんか? あなたと魔王の戦いが描かれたピカピカのステンドグラス」


「ほ、ほほう……悪くない」


 あ、ちょろかった。

 龍もドラゴンもカラスも光物好きなんだよな……。

 こいつらが宝物集める理由って単純に趣味でコレクションしているだけだし。

 もちろんコレクション盗まれたらぶちぎれるのが普通だから、盗人は街ごと焼き払われる。


「俺達の仲間にマスタークラフターってジョブの奴がいまして、そいつとユキさんに任せたら世界に二つとない作品が出来上がるのではないでしょうかねぇ」


「おい」


「いいだろう、貴様の甘言に乗ってやる」


「こら」


 私を巻き込む前提でするな!

 いや、まぁ確かに黒龍王いれば楽な旅にはなるだろうけど……自分で言うのもなんだけどさ、私一応この大陸では伝説扱いされてる人物よ?

 知名度だけで言えば黒龍王と魔王と勇者の次くらいには凄い存在よ?


「では貴様と契約をしてやろう」


 あー、だめだ。

 もう話がトントン拍子で進んでいる以上私にできる事は無いわ。

 せいぜいがこの後の面倒ごとをいかに減らすか考えるだけしかできないな……。


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