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第29話

 さてさて、結局馬車に乗れた奴はいなかった。

 というか、みんな移動手段を考えていなかったんだよな。

 そのせいで有り金全部使って野営装備を整えていたのだが……面白い事に女性陣の脱落者がいなかった。

 始める前に棄権しても良かったと何度も念押ししても参加したのは……もしかしなくても司狙いか?

 ガーディアン女子なんかは先生目的っぽいけど……男共は微妙な表情だが全員参加。

 なんだよ、私は女扱いじゃないのかよこいつら……。


「今日はここで休むぞ」


 街道の端で止まり、生徒たちに向き直る。


「なんでだよ、まだ明るいぞ?」


「野営は基本的に日暮れ前に行う。夕方から始めても遅いぞ。日の出ているうちに薪やテントの準備が必要だからな。それに夕暮れ時は一番危ないんだ。野盗とか普通にそこら辺闊歩しているぞ」


 私の言葉に顔を歪ませた面々だが、そういう奴らに会ったらどうするべきか、負けたらどうなるかは教えてある。

 殺せ、できなければお前の全てが奪われるってね。

 日本から来た子供にはこれも酷な話だろうけど、強さが全ての世界だからなぁ……。


「じゃ、各自食事は自分で用意するように。パーティを今から組んでも構わないが……言うまでもなく仲の良いメンバーで集まったみたいだな」


 指摘する前に4人前後のパーティが複数出来上がっていた。

 余り物組もいるが、そいつらはソロで挑んでもいいし余り物同士で組んでもいい。

 完全にソロで挑むつもりの司はさっきからずっと誘いを断り続けている。

 まぁ、あいつのことは心配いらないだろ。


「さて、そんじゃあ準備できた奴らから見張り立てて寝ろ。パーティ組めなかった奴は好きにしろ」


「好きに、とは?」


「安全そうな場所を探して寝るなり、徹夜で見張りをするなり、他のパーティに混ぜてもらって交代で見張りをするなり。おすすめは安全な場所を探して寝る事だが、お前らの技術じゃそれは無理だろうから他の奴らに混ぜてもらうのが一番だな。徹夜は明日からの試験に支障が出る。まぁそれでも採点の際は考慮しないがな」


 というか最高の状態で戦える前提なのがおかしいわけで、最悪の状況を常に想定するのが冒険者の基本だ。

 徹夜明けにスタンピードに巻き込まれるくらいの事は結構あるしな。

 ランクが上がってくれば調査されてないダンジョンに突撃してこいなんてのもあるし。


「じゃ、おやすみ」


 そう言って私は少し離れたところにあった木に登って寝たふりをする。

 ここでの行動も当然審査対象だが……田中は上手く立ち回っているな。

 疑心暗鬼を起こして仲間内で固まってた連中を上手く結託させて、パーティを複数まとめ上げた。

 一方でそれを拒否した奴らは離れたところで警戒を続けている。

 ソロの奴らは……司以外は起きているみたいだな。

 司は剣を枕にすやすやだ。

 面白くなってきたじゃないか。


「そんじゃ、このまま森の奥まで行くわけだがお前ら準備はいいな?」


 翌朝、日が昇ると同時に全員を叩き起こす。

 できれば自力で起きてもらいたいんだがなぁ……。

 ちなみに昨晩は粗相をする奴はいなかった。

 一応見張っていたけど、やはりトイレは女子グループで見張りつけたりしてたな。

 ただ垂れ流したものをそのままにしていたから、森で同じ事したら魔獣に察知されて追い回されるのは必須だろう。

 男共なんかは手軽だからか一人で行ってたが、その油断も命とりだ。

 中には一緒に行くという手段で用足してた奴もいるが……まぁ生き残れるのはその類だろうな。


「知っての通りここは危険な魔獣が山ほどいる。そこでのサバイバルは今後役に立つが、本気で無理だと思ったら発煙筒を使え。転移魔法を付与した魔道具だから作動させたら王宮に戻れる仕組みになっている」


「発煙筒にした意味ってなんだ?」


 破壊者君は脳筋だからその辺わからないよなぁ。

 とか思ってたらみんな同じように首傾げてた。


「そんだけ危険な状況になった場所ってことが一目でわかる。冒険者もよく使う道具だからな。それなりに高額で使い捨てだから中級以上じゃないと持ってないが、発煙の意味を知っているだけでも変わってくると思え」


「なるほど……ちなみに転移までの時間はどれくらいですか?」


「1秒もかからない。ただし効果範囲委は狭く、道具を中心に1mも無いから気をつけろ。じゃあ行ってこい」


 さて、あとは仕掛けが上手く動いてくれるかどうかだな。


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