夜が明けて、選考の日が来た。
今回は転移魔法は使わず、徒歩か馬車での移動になる。
当然護衛は付けるが、どちらを選ぶかは各々に任せた。
何故なら今回は私は一切の資金援助を行わず、司と田中と先生の道具も彼等の望む金額の範囲で収めて料金を貰った。
世の中平等なんて存在しないっていうけど不幸と貧乏は誰にでも平等に訪れるんだよなぁ……。
「さて、君らは昨日散々必要なものを買い漁っただろう。水、食料、テントに虫よけ、必要なものはあらかた揃えただろうか。中には金が足りなくてギルドで仕事をした奴もいるだろうし、下調べをしっかりしたやつもいるだろう。だがこれは試験であって試験でない。本番だ」
私の言葉に一部の生徒が背筋を伸ばして緊張に満ちた表情を見せる。
そうだ、それで正解だ。
むしろ気を抜いていたり侮っている方が痛い目を見る。
「ここから馬車で半日、徒歩で一日の距離に昨日行った森がある。そこに辿り着き、森の中で選考終了まで生き延びてもらう。もちろん途中で棄権したい場合は命の保証をしたうえで王宮に戻れるようにする。今ここでやめたいという奴も王宮に引き返してもらって構わない」
ざわざわと相談が始まった。
こちらの意図がいまいち読み切れていない様子だ。
司なんかはなにを今更みたいな表情してやがるな……なんか腹立つ。
「さて注意だが、森の中で君達が怪我をしても私達は手助けをしない。魔獣に囲まれようが、とんでもない強敵に偶然出くわそうが私達は一切手を出さない。もちろん敵として私が手を出す事もしないがな」
あからさまに胸をなでおろす奴らがいたが……ダメだな、こいつらは最初から選考落ちだ。
確かめる必要は無いが、レベルを上げるにはちょうどいいから連れて行く。
この程度のお荷物は大した障害じゃない。
「甘く見るなよ、怪我の度合いも無視して助けないと言っているんだ。致命傷であっても棄権しないなら見殺しにすると言っているんだ。魔獣の群れに囲まれてこれから配る棄権用の発煙筒を使う暇がなくても助けない。手足が捥げたとしても手出しはしないってことだ」
流石に死にかけたら助けるけど、その場合は強制的に王宮へ送還だけどな。
ただ実戦で、死の恐怖とかを感じ取ってもらいたいってのが本音だ。
「あぁ、それとこの試験だが……ルールは単純、私を満足させろ。たとえ法に触れるような行為であってもこちらは知らぬ存ぜぬを貫く。男は狼だというが、女性陣は気を付けるべきだなぁ?」
冒険者あるある、女性冒険者の貞操は有ってないようなものだ。
パーティを組んでいると勢いで仲間に押し倒されてという事は珍しい話じゃないし、レベルが低くて仲間に助けてもらってますなんて奴は喜んで股を開いて共存関係を作っていく。
そうでなくても水浴びやら用足しの際に男女交代でなんてことはせず、ジョブ適性に合わせて見張りを置くから素っ裸だの用足しを異性に見られるのは普通の事だ。
それが嫌で冒険者をやめていく女性もいるが、残った奴らは強くなることが多い。
レベルだけじゃなく精神的にも強くなる。
一方で男はというと、実は女冒険者より悲惨な目に合う事が多い。
金目のもの全て奪われて餌にされる、囮にされる、喉を焼かれて違法奴隷商に売られるなんてのはまだいい。
酷い時は黒魔術と言われる、要するに世間一般では禁止されているような魔術の実験体にされる事だってある。
そうなったらもう人として生きる事はもちろん、魂まで汚染されたら来世まで引きずる呪いにかかるだろう。
まぁ黒魔術に関しては女性の被害もあるけど、英雄願望の強い向こう見ずなガキは大体餌食になるな。
「冒険者ってのは危険が付きまとうし、羞恥心は邪魔なだけだ。だから仲間はよく選べよ? あぁ、女だけで固まるのはやめておいた方がいい。悪い奴らに目をつけられることもあるからな」
じゃあ同性だけでという考えもあるが、それはそれで普通に危ない。
女だけのパーティはカモなんて言う奴らもいる。
男だけのパーティは女気に触れる機会が少ない分、少し色気に当てられただけで崩壊に近づきかねない。
どっちもどっちで危ないんだよな。
だから羞恥心は最初に捨てるべきものなんだが……子供にそれを強いるのは酷だよな。
「あの……教師としては見過ごせないのですが」
「先生も他人事じゃないぞ? 他の男に何されようがこっちは棄権するまでなにもしないし、仮に棄権したとしても命の危険がないなら事が済むまでくらいは待ってもいい」
「そんな……!」
「そういう世界なんだよ。だから夜の見張りを立てるし、用を足すにも囲んで見張る。水浴びだって交代で異性が近くにいても全裸でってのが普通だ」
「酷い……」
「やだよぉ……」
「絶対無理!」
女子からの意見は同意できるんだが……男子共はなにを恥じらっているんだ?
そういう年頃なのはわかるが、男はそこまで恥じらう事も無いだろ。
私だって処女だが、素っ裸を見たのも見られたのも星の数ほど。
なんなら目の前でガッチガチになったの見せつけられたこともあったが、魔術で脅したらすごい勢いで逃げてたな。
まぁ最初はただのパーティだったのに、そういう関係になる事も珍しくないから冒険者の離職率って三割くらいは結婚とかなんだけどな。
あとの五割が死亡や行方不明で二割が順風満帆のまま引退。
「さっきから言ってるが今から帰るってやつは王宮に戻っていいぞ。私と司は勇者パーティとして魔王討伐に出向くからどうあがいても異性がいる環境だしな」
先生の事は伏せておく.。
目配せしたら小さく頷いてくれた。
まぁ、さっきはあんなふうに言ったが先生の事は命も貞操も守るけどな。
ここで変に傷を負って後々大惨事になるのを避けるにはそういうのも必要なケアだ。
「なぁ、さっきなんでもありって言ってたが……ライバルを減らすのもありなんだよな」
おっと、破壊者君いい所に気づいた。
君は選考落ちしているけど着眼点は素晴らしい。
「あぁ、仮に君が仲間を全員殺して一員になったとしても私は咎める事をしないし、法で裁くことも無い」
それができるならやってみろ、というだけの話だがね。
森という環境は彼にとって優位に働くかもしれないが、逆に言えば環境に左右されがちなジョブは基本的に試験するまでもなく選考落ちしている。
本人の性格も考慮しているけれど、今残っている対象って田中以外だと5人くらいしかいないんだよな。
マジで実戦を知ってもらうためだけの訓練だし、これ。