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第27話

「まずは基本となるパーティ構成について説明するが、大体の奴らは4人組だ。理由は単純で指揮がしやすく役割分担ができていれば十分な人数。そして分け前の問題が起こりにくいからだ」


「しつもーん、役割ってタンクとかヒーラーとかですか?」


「そうだ。たしか以前こっちに来た転生者がエンジェリックダウンってゲームをやってたらしいが、そのゲームでも同じような配分だったと聞いたな。お前ら知ってるか?」


「知らんすね」


「ゲームは詳しくなくて……」


「それなりに遊ぶけど知りませんね」


 エンジェリックダウン、私が遊んでいたゲームで、この世界に酷似した設定の作品だった。

 そしてそのゲームで培った知識と、全ジョブカンストまで上げたステータスの暴力、なにより引き継がれた装備やスキルのおかげで生きてこられたと言っても過言ではない。

 だが、それを知らないという事はパラレルな地球から来たのか?

 まぁいい、対して重要な話じゃないしな。


「タンク、壁役とアタッカー、攻撃役が二人、ヒーラーが回復役で一人だ。とはいえこれは上級者のパーティでよくある構成というだけで絶対ではない」


「えと、じゃあどうするんですか?」


 先生はこういう事に対して熱心に学ぶ傾向がある。

 今後の生存性を考えると悪い事じゃないし、こちらも必要な事は積極的に教えていくから互いに損はない。


「兼任したり、ポーションで回復したりだな。そもそも回復系の魔術に精通している奴の方が貴重だから中級の上位くらいにならないとヒーラーと組むことは無いと思っていい」


「じゃあ今の僕たちの実力はどのくらいでしょうか」


「中の中、普通ってところだ。確かにとびぬけた戦闘力を持っているが集団戦になった場合犠牲が出る。上の上になったとしても魔王相手に戦える冒険者はいない。理由は単純に普通の、どころかレアやハイレアと呼ばれるようなジョブ、ユニークジョブでさえ勇者に勝ることが不可能だからだ」


「という事は、僕個人で見れば冒険者としての実力は上方修正されると?」


「そうだな、お前単体なら中の上だ。だがどうあがいても単独で魔王に挑むのは自殺行為。だから勇者パーティという役割が存在しているし、過去の勇者達もどんな形であれ仲間を引き連れていった」


 まぁ大失敗した勇者もいたんだけどな。

 大軍連れて行ったら魔王の所に辿り着く前に軍が半壊、と思ったらネクロマンサーのスキルで死んだ奴らが生き返って敵になって方々の体で逃げかえったという話がある。

 その時は物量作戦で魔術師や魔法使いが総動員されてゾンビ兵を焼き払ってから勇者が選んだ少数精製のパーティで突破して魔王を撃破したけど……正直私は後方で魔法撃ってるだけで決戦の詳細は知らない。

 ただ当時の勇者パーティ曰く、勇者は魔王と相打ちになったというけど胡散臭い話だ。


「では選別というのはそのパーティメンバーをという事ですか? 僕が選ぶのではなく」


「司との相性の良し悪しも考慮に入れるが……お前別にそういうの気にしないだろ? ついでに二人決まっているから残り一枠、多くて二枠だな」


「なるほど、既に決まっているのはどなたでしょう」


「私と先生。聖女はヒーラーとしては必須だし、私は現地人として案内役も含まれているが戦闘力はお前が身をもって知ってるだろ」


 司との訓練は今のところ私の勝ち越しだ。

 ただ、純粋な実力というよりはレベル差による圧勝という所が多い。

 完成した勇者に対抗できるかと言われたら……まともな手段では無理だな。

 あと単純に司の力加減が下手くそで武器を壊すから勝手に自滅するというのもある。

 だから壊れない事だけを考えた魔道具を与えたんだけど……この調子だと壊すよなぁ。


「先生とユキさんなら安心です。でも残りの一人二人が納得するかどうか……それに他のクラスメイトもどうすればいいか悩むのでは?」


「それについては考えてあるから心配するな。メンバーに関しても最大限の手を尽くして納得してもらうしかないが協調性ってのは旅で一番重要だからな。そこも選考対象だ」


 という事で破壊者君はアウト。

 あいつは確かに強いんだけど、世の中物理攻撃が効かない相手もいる。

 一応魔道具を身に纏っての攻撃だから多少は効くけど性格に難ありってことで。

 ガーディアン女子はその辺いい感じなんだけど防御主体という所が少しなぁ……。


「まぁパーティ選考については今は気にするな。目下の課題として三人ともレベルアップによる急成長に頭が追い付いていない。それを慣らすための、ついでに司が支援魔術を受けた際に出る差異への慣れの訓練だ。あとは連携だな」


「あの、支援魔術は一応覚えたのですが失敗したらどうなりますか?」


「暴発を気にしているなら心配いらない。普通に魔力が霧散してなにも起こらないだけだから」


 先生がホッと胸をなでおろす。

 まぁ普通なら、なにも起こらないのが支援魔術の暴発なんだけど……聖女の魔力で暴発したらどんなことが起こるやら。

 心配させないように黙っておこう。


「てなわけで、早速やるぞ。さっき言った通りパーティの人数が足りない場合は兼任する。今回は先生がヒーラーで、田中はアタッカー、そして司がタンクとアタッカーを兼任する」


「つまり僕は敵を引き付けながらダメージを与えて、先生が回復して、田中君がさっきの……ハウリングボイスで大ダメージを与えると?」


「それだけじゃない。例えば田中はトーカーの能力で支援をしたり、相手を惑わしたりする。声に関する魔法がメインみたいだからな。先生は支援魔術で仲間を強化しつつ、回復。この時司の防御力を上げるのは忘れずにってのが肝だ。そして司は」


「先生や田中君への攻撃を身を挺して防ぐ、ですね」


「そうだ。わかったら三人とも武器を構えろ。相手は私だがいつもよりも厳しく行くからな」


 木で作った武器をいくつか取り出す。

 まずは王道の剣と盾、そして弓に杖が二本。


「さて、せっかくだから説明しておくとジョブにはスキルという物が存在する。魔術師の高速演算もこの一つだが、聖女の回復魔術強化なんかもそうだ。だがそれは常時発動型であり、こういうのも存在する。ワケミの術」


 盗賊の上位職に当たる忍者のスキル、ワケミの術は分身の術である。

 とある漫画的に言うなら影分身とかの方が近いか?

 土や水を媒体にすることで防御力の高いタンクや、無限再生タンクなんかも作れるがこいつら相手には時期尚早。

 三体の分身がそれぞれ武器を持つ。


 これなぁ……使い勝手悪いんだよ。

 一体分身出すだけで情報量がけた違いになる。

 例えるなら違うゲームを同時にやるような感じだ。

 三体となると私自身の身体も含めて通常の4倍の演算が必要になってくる。

 が、格下相手の訓練にはちょうどいいのも事実だ。

 演算をせずに数の暴力でという方法もあるが今回はパス。


「さ、いくぞ」


「……ユキさん、大人げないって言われないっすか?」


「500歳なんてハイエルフの寿命からしたら子供みたいなもんだから」


「あのぉ、普通1対3くらいじゃないですか?」


「先生、敵がいつどんな布陣で来るかもわからないのが実戦だよ」


「とりあえず切ればいいんじゃないですかね」


「司はその脳筋思考をやめろ」


 私のパーティは理想的なチーム構成の一つとされたものを基にしている。

 タンクが前面で敵を押さえつけておきながら攻撃をすることで敵の陣形を崩す。

 そこに弓と魔法による追撃でダメージを蓄積させていき、タンクを回復させ続ける事で継続的に有利を得るのが目的だ。


「そんじゃ、軽く100回くらい全滅させるんでよろしく」


「ひぃっ!」


「喜べよ先生、回復魔術の練習になるし、もしかしたら回復魔法だって使えるかもしれないからな。ただし田中と司、お前らは死ぬ寸前までボコる。もちろん先生にも攻撃する。お前らの世界の流儀に則って言うなら……六文銭の準備はいいか?」


「この人やっぱ大人げない!」


「来るよ」


「し、支援します! 司君、田中君、頑張ってください!」


「遅いわぁ!」


 先生の支援魔術が飛ぶ前にきりもみ回転で司が宙を舞う。

 シールドタックル、使い勝手がいいスキルなんだよね。

 そのまま田中を殴り飛ばして、先生の頭部にゴンッと一発。


「はい全滅。先生は支援魔術の発動に時間かけすぎ。田中は慌て過ぎだし司は先走りすぎ。回復したらすぐに次いくぞ」


「「ひぃー」」


 司以外の二人は悲鳴を上げていたが、その間もこちらを解析するように見ていた司が少し不気味だった。

 結局この日は夜まで訓練を続け、最終的に分身たちも攻撃や回復をしなければいけないくらいには三人の連携は深められた。

 ……実のところ、選考メンバーの最有力候補は田中なんだけどこれは内緒にしておこう。

 あいつの話術は便利だと思っていたが、想像以上に支援が上手く、攻撃もそつがない。

 体力面では貧弱の一言だが、パーティのまとめ役としても上等だろう。


 まぁ選考訓練はするんだけどな。

 レベル上げよりも、命の危険を感じる戦いをしてもらうために。

 そこで折れなければ田中、お前は勇者パーティの一員だ。


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