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第24話

 その後恩寵痛でダウンした一同と、動きにくそうにしていた司を連れて帰宅した私達。

 闇ギルドにはお礼の報酬を渡しつつ、全員のレベルを確認して回った。

 結果的に司がトップで23レベル、次点で大物を狩った先生パーティがレベル20、最下位でもレベル18に到達した。


 この数値はユニークジョブなら破格の性能を発揮できるラインであり、冒険者ギルドではそれなりの優遇措置を受けられるようになる。

 あそこの基準だとレベル10を超えたら討伐依頼が受けられるようになり、15を超えると単独討伐依頼に赴くことができるようになる。

 それまでは安全な場所での薬草採取や、街中で受けられる簡単な仕事が多い。

 ただそれだけではレベルアップの機会を失うので、定期的に講習として提携ギルドと共に討伐に参加するのだが、この時貰える金額ははした金である。


 まぁむしろお金貰えるだけラッキーではあるんだけどね。

 一方レベルが30を超えるとギルドからの指名依頼が発生するようになり、教官や新人講習でレベリングなんかを頼まれるようになる。

 これも労力に見合わない報酬だが、ギルドの覚えが良くなるので出世しやすく、また引退後にギルド職員として働く権利が貰える。

 ようするに縁故入社でない限りはギルドに勤めている人はレベル30代以上のベテランである。

 可愛い子が受付してたからちょっかいだしました、返り討ちに合いましたは風物詩にもなっているな。


「さて諸君、レベルアップおめでとう。あえて教えていなかったが、あの森はこの辺りで最大の危険地帯だった。仲間と共に強敵を倒したことで恩寵痛に悩まされたと思うが、今後は感じなくなっていくだろう。今日はゆっくり休んでほしい……といいたいところだが、君達の試作武器についての報告書を書いてもらう。今後の事を考えるとそういう書類仕事に慣れておいて損は無いからな」


 仮に送還魔法の開発が間に合わなかった場合、彼等には最低でも爵位が与えられることになる。

 今回の討伐でそのくらいの実力があると判断しての事であり、一方で領地は本人が望まない限り与えず貴族年金を貰えるだけの立場となる。

 そしてここでまた役に立つのがギルドカードで、銀行口座の役割も持っているのだ。

 生きている判定の間はずっとお金が振り込まれる仕組みだが、偽装した場合死刑になる。

 問答無用での死刑だから国内では一番重い罪だな。


「それと半月後に勇者パーティ選別試験を行う。明日は休日とするが、これは自由行動という意味だ。護衛兼案内役を連れて街に出るもよし、ひたすら体を休めるもよし、調べ物をしても自主的に訓練をしても勉強をしてもいい。ただし娼館にだけは行くなよ、安全な店はお前らが持ってる金じゃ足りないし、一般店は病気の危険性が高い。そして明後日からは森に潜り続けてもらう。10日間の予定だが食べ物やテントなどは各自で用意する事。というわけで解散だ」


 げんなりとした表情でこちらを見つめてくる一同だが、目の色というか目つきが違う人間が二人いた。

 司と田中だ。

 どちらも野心に満ちているというか……いや、それは田中の方が強いか。

 司の方は何かを試したそうにしているようすだな。

 ……なんか怪しい企みをしてそうな気配もあったがそっちは無視でいい。

 というか予定通りである。


 この機会に脱走をと企てる連中がいるのは先日先生に話した通り。

 あえてサボり組が訓練に参加するであろう初日を狙って、一番きつい事やらせたからな。


「ユキさん、今から一手お手合わせ願えないでしょうか」


「……司は本当に頭のネジ吹っ飛んでるんだな」


「そうですか?」


「恩恵痛の中で動けるだけでもおかしいからな? それに軽く流しただけとはいえ散々運動したのにまだ動き足りないのか?」


「動き足りないというよりは力の扱い方を間違えそうで怖いですね」


 驚いた、このサイコパスから怖いなんて言葉が出てくるとは思わなかった……。

 もしかしたら勇者のジョブが影響してそれだけステータスが伸びたのか?

 軽く鑑定してみるが……あ、うん、以前の20倍くらいだな。

 そりゃおっかないわ。


 一般的なレベル23と比べても桁が違う。

 せっかくだから他の奴らも見て行けば、破壊者君の攻撃力が司と並ぶくらいで、先生の魔法関係の数値が司を追い越すくらいだった。

 ガーディアン女子の防御力は残念ながら司ほどではないし、レベル差もそこまで大きいわけではないので選考からは外れるかな。


 面白い伸び方をしたのは田中だ。

 ちょいちょいこいつに注目することになっているが、トーカーというジョブは本当に底知れない。

 そしてなにより、ステータスの伸び方は大したことないが魔法関係の伸び方だけを見れば先生に匹敵する。

 ただ残念な事に元の数値が低かった分、実際の数字は司にも先生にも届いていない。

 とはいえ、こいつがサポート系の魔術が使える可能性は大いにある。


「田中、ちょっとこい」


「はい? 俺ですかねぇ」


「この魔術を司に使ってみろ」


 魔術式を書き写した紙を手渡すと一通り目を通した後で司に向かって魔術を放った。

 攻撃系ではなく、能力値を上げるものだ。

 ゲーム用語で言うならバフだな。

 今回はスピードアップの魔術だが……見た限りレジスト、つまりはじかれた様子はない。


「司、そこで反復横跳びしてみろ」


「こうですか?」


「さっきまでと比べて動きやすいとかあるか?」


「そうですね、自分で想像しているよりも素早く動けます。ただこれ、慣れないと自分の足に躓きそうですね」


「そうか。なら実戦で慣れろってことで……田中、お前の能力は支援にも向いているようだ。司にこれらの魔術を使い、司は普段の状態と強化された状態の両方を使いこなせるようになれ。手合わせは嫌というほどしてやるが、明日に回せ。代わりに二人の荷物はこちらで準備してやる。わかったら今度こそ解散だ。私は高い酒を飲んで寝たいからな」


 そう告げて自室に向かう。

 流石に少し疲れた……が、今夜も先生は治癒魔術と魔法について教わりたいというだろう。

 熱心だなぁとは思うけど、人間は死にやすいし寿命も短いから仕方ないか。

 ……本当に、長命種になってもいい事は無いもんだな。


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