「はい、今日の訓練は普段と違う形式でやるぞ。といっても初訓練の奴もいるからそこまで厳しい物じゃないから安心しろ?」
図書館組とサボり組が合流して訓練をするのは初めてだ。
先生はほぼ徹夜だったので眠そうにしているが、今回はそこまで危険な事はしない。
「普段の準備運動も無しですか?」
「あれを準備運動扱いできるのはお前くらいだからな?」
司は相変わらずずれているが……まぁ会話が成り立つだけマシと思っておこう。
なんだよこの国で一番厳しいと言われている近衛の訓練の3倍を準備運動扱いって……明日は5倍にしてやろう。
「お前たちに武器を支給する。といっても、そこのガーディアン女子をはじめとしたメインの武器が決まってる奴は試作品を渡してあるから、それ以外の連中だな」
ユニークジョブで最初に苦労するのはジョブ特性を知ることだが、次の問題は武器だ。
しばらく訓練で簡単な組手とか、武器の扱いを覚えさせるために色々やってみたが面白い結果になった。
例えばガーディアン女子は盾の扱いだけなら既にこの国で一番だが、剣術とか拳での戦いになるとそこら辺の子供より下手くそである。
魔術も使えるが、守りに特化した魔術は一瞬で展開できるうえに非の打ち所がないのだが、それ以外は発動までの時間が長すぎて使い物にならない。
ただ、それでも攻撃手段にはなるので本人は必死に勉強している。
一方で破壊者君だが、こいつは完全な物理アタッカーだ。
魔術の適性がゴミすぎて発動まで時間がかかるどころか演算に失敗して暴発させる。
だが物理攻撃全般にジョブの効果が乗るため、どんな武器を使わせても同格から少し格上くらいなら一撃で殺せる。
例えば弓でも当たった場所が爆散したりするし、剣で切ったとしても対象が爆散する。
文字通りの破壊という事象が付きまとうジョブだ。
スナイパーのジョブを得た奴なんかは弓でもそこそこの効果を発揮したけど、魔術式を弾丸の代わりにした魔法銃を使わせたら命中精度は爆上がりした。
要するに相性の良し悪しがあるのだが、本人の好みが反映されるかは微妙なところである。
強いて言うなら武器を問わずに戦えるというのが強みな奴が多いな。
占星術師ちゃんなんかは魔術の効果を増幅するなら杖でも本でも何でもよかった。
そういう奴ら向けに色々作ったのだが……。
「ほい、破壊者君はこれ」
「なんだこの箱?」
「魔道具だよ。使いたい武器を想像して魔力を流してみな」
「お? おぉ! すげぇ!」
破壊者君が魔道具に魔力を流すとガントレットになった。
ふむふむ、やはり器質的にはステゴロが好みか。
「悪くないが鎧を想像したらどうだ?」
「なんでだ?」
「君は全身凶器だろ。だから体当たりでも蹴りでも頭突きでも同じ効果が出る。だったら全身鎧の方が強いと思うぞ。目立つのが嫌なら普段はそのガントレットにしておくといい」
「なるほどな!よっしゃ!」
そう言ってガントレットから全身鎧に……いや、鎧じゃねえなあれ。
どこぞの仮面のライダーじゃねえか!
「普段はこういうのもありか?」
ベルトに変形させた魔道具を見せてくる……なるほど、特撮ファンだったか。
「目立たないしいいと思うぞ。以前異世界人が話していたヒーローだっけか? それをモチーフにするなら完成版はベルト型にして、鎧に変形しつつ武器は別途作り出せるようにしてやるけど」
「話が分かるじゃねえか! せっかくだから鎧になる時光るようにしてくれよ! あと鎧の形も複数欲しい!」
「わかったわかった、だから揺さぶるな、酔う。とりあえず想像した鎧の形状を複数記録できるようにして、即座に切り替えられるようにしてやるよ」
「最高だぜあんた! 最初は気にくわなかったが、これからは何でも言ってくれ! 俺にできる事なら手伝うからよ!」
……まぁ、認めてもらえたならいいが。
あの手の奴は放置しておくと面倒だからな。
「で、占星術師ちゃんはこれ」
「……これって魔法銃ですか?」
「うん、君の場合魔術の威力を増幅させるならなんでもいいってわかったから魔法銃そのものを杖の代わりにした。魔術が間に合わなくてもそいつに回復魔術弾を装填して撃てば即座に治癒魔術が発動するし、攻撃手段が乏しいならそれを補えるようにね」
渡したのはハンドガンを模した魔法銃。
弾を切り替えやすいようにリボルバー形式のを3丁渡した。
攻撃用防御用回復用で使い分けもできるが、この子の場合杖二本持たせたらその分魔術の行使速度や正確性も上がってたから多い方がいいだろう。
そしてスナイパー君にはもちろん狙撃銃と、弾をばらまけるようにサブマシンガンを模したものを魔法銃と、魔法を利用して鉛玉を打ち出す銃の2種類をそれぞれ用意した。
北国の白い狙撃手に倣ったものだが、本人も気に入った様子だった。
そして最後に……。
「司、お前はひたすら頑丈性を求めた武器だ。マジでただ頑丈なだけ。切れ味は普通、錆びない折れない曲がらない砕けない。形状をいっさいかえないという一点だけに集中した武器だから思う存分振り回せ」
「ありがとうございます」
こいつは本当にポキポキ折るからな。
普段使ってるロングソードと短刀を基にして作った壊れない武器。
魔王とやり合ってもしばらくは大丈夫なくらい頑丈に作ってあるが、精度を上げたらどんな物体になるやら……。
壊れないって事だけを考えて作られた武器が某国では神器扱いされてるから、そのうちこいつの武器もそういう扱い受けるんじゃないかな?
まぁ本当に壊れなければだけど。
「てなわけで、今日の訓練はそれらの武器を実戦で試してもらう。いつまでも運動だけじゃレベルは上がらない。森に入って狩りをしてもらう」
異世界人が最初に慣れるべきことは殺しである。
どうあがいても避けられない道だからなぁ……残酷かもしれないけど、やってもらうしかないんだよな。
「まずお前らは生き物を殺す事になる。だがそいつらは害獣だ。魔獣は人を喰うし、意味もなく襲ってくる。過去、殺しを嫌がって殺された異世界人は何人もいた。そうならないように護衛も付けるし、チームで動いてもいい。ただし司は単独行動だ」
「なぜ僕だけが?」
「お前強すぎるから他の連中の訓練にならない。ついでに突拍子もない事やりそうだから私直々に見張る」
「なるほど、ではよろしくお願いします」
「じゃ、近場の森まで行くぞ」
転移魔法、本来なら個人で使用する事は無いのだが今回は昔作った魔道具で森の入り口まで転移する。
魔術扱いじゃないのは、たまに不可思議な干渉を受けて目的以外の場所に飛ばされることがあるからなんだよな……今回は問題なかったけど。
なんにせよ、ここまで歩いて疲れられても面倒だし、野営の訓練はもう少し後だな。
「よし、10分後に各自出発。それまで武器の性能を試すもよし、仲間を求めるもよし、ただし4人以内に収める事。あとは自由だが森の奥にはいくなよ? それとやばいと思ったらこれから配る笛を吹け。各自一つ渡すが、今回は試験じゃなく訓練だから上も下も無いからな。足の引っ張り合いとかするんじゃないぞ」
私の言葉を正確に理解してくれたのか、みんな和気あいあいとした様子で攻撃を披露したり、装備を見て何かを考えたり、仲間集めを始めた。
……それにしても、先生は人気者だな。
引っ張りだこになっているがガーディアン女子が盾になってる……一応魔王討伐隊候補に入れておくか。