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第20話

 このまま順番に剣士ギルドや盗賊ギルド、ついでに暗殺ギルドみたいな裏稼業のギルドも回って全員登録を終えさせた。

 これで一通りの問題は片付いただろう。

 暗殺ギルドとかは基本的に闇ギルドって言われているが、その実態は危険なジョブに就いてしまったために普通の生活が送れなくなった奴らの受け皿だ。

 その中にはユニークジョブの使い手も多く、また同時に国から危険視されたため身を隠したという元宮仕えの人間も多数いる。

 実のところ表立ったギルドは頻繁に喧嘩や研究のせいで調度品が壊れるので簡素なものが多いが、闇ギルドは金持ちが多く内輪もめが厳禁となっているのでかなり豪華な造りになっている。


 というか普通にカジノとか娼館に偽装しているから金も情報もバンバン入って来るのがいい所だ。

 私の研究もそういった情報網を駆使しているが、今回は闇ギルドの掟を盾にしようと考えた。

 どのギルドにも規則はあるが、闇ギルドの規則は緩い反面、違反した場合は命で支払う事になる。

 例えば離反は企てた時点でアウト、仲間同士の殺し合いに発展した場合は裁判……とはいえこれはどっちのが有能かという話し合いであり双方無事釈放されることもあれば両方死ぬこともある。

 また無益な殺しをした場合も処刑で、言うほどやばい事はやっていない。

 そして何よりもギルド員は家族として扱うため、あらゆる情報網を使い家族を狙う連中を裏から殺していくという仕事がある。


 当然危険な任務だが、クリアすればギルドでの発言権が高まり、また相応の金や物品が貰える。

 裏社会で長く生きる秘訣は金と実力だからこそだな。

 これを基に身内で依頼を出す事もできるので、私が作ったり拾ったり奪ったりした魔剣なんかを報酬に勇者と聖女とユニークジョブに関する防衛網を引いた。

 気休め程度だけど、情報を得ることはできるから悪くない取引だろう。


 ……正直に言うとインベントリの奥で誇り被ってた物品ばかりだけど、中堅レベルの多い闇ギルドの人間にとっては都合のいいパワーアップアイテムにもなる。

 入手経路とか複雑だからあまり表に出せないし、かといって裏で売ったら面倒ごとになりそうだし、自分で使うには弱すぎるって代物だったんだよ……。


 そしてやってまいりました、冒険者ギルド。

 創設メンバーの一人が異世界人で、そいつの好みでウェスタン風になっている。

 酒場を併設していて、ボードに依頼が張り出される形式だ。

 ちなみに裏技だが、支払いを全部銅貨や銀貨といった価値の低い硬貨で大量に貰う事で麻袋を一つ無料で貰う事ができる。


「で、さっそくこれか……まぁ洗礼みたいなもんだけどさ」


 ギルドに到着して早々いかつい奴らに絡まれた。

 見たところトレーニングは十分、レベルも中堅といったところだが司に絡んでいった結果ぼっこぼこになぎ倒されていったので特に語ることなし。

 むしろその後に先生が占星術師ちゃんと一緒に治療して、田中が上手くまとめてくれた。


「いやー、強いでしょ彼。司っていうんだけど、俺等のボスみたいな存在なんだよ。それにあの二人の治癒魔術もすんごいだろ? でも一番おっかないのがあのエルフの姐さんなんだよ」


「マジかよ、爺さんが言ってたがエルフを敵に回すなってのはマジなのか?」


「マジもマジ、大マジよ。あの若作りババア、あれで500歳らしいけど400年前の事でも昨日の事みたいに話すからさぁ。恨み買ったら子々孫々まとわりつかれるんじゃねえかな」


「そりゃおっかねえな……ちなみによぉ、お前さんはあの中にコレいるのか?」


 小指を立てる冒険者、田中は相手の懐に飛び込むのが上手いなぁ。

 しかしババアといった事は忘れないからな?

 お前がこの世界に残ったら子々孫々までまとわりついてやる。


「実のところ気になってる奴はいるんだよ。けどさぁ……高嶺の花って言うの? もう俺なんかじゃ手が届かないくらいの相手なんだよぉ……」


「ほう? 当ててやろうか、あのちんまい治癒魔術使った嬢ちゃんだろ」


 おい先生? あんたこいつらと同い年に見られているけどいいのか?

 いや、実際に先生は小さいし可愛らしいけどさ……。


「あれは高根の花じゃなくて天上の華だよ兄弟。俺なんかじゃあの人の目にも入ってないさ」


「む、ならあっちのデカい盾持った姉ちゃんか?」


「あれは天上の華の守護者だ。あれでいてゴリラだから近づいたら握り潰されちまうよ」


 言われてるぞガーディアン女子。

 こっちの世界にもゴリラはいるから通じるが、後で通じない悪口一覧とか教えておいてやろう。

 ちなみにゴリラはこちらではアーマードゴリラって言う鉄の外殻を持つ魔獣だ。

 モンスターとか魔獣とか、とにかく呼び名が多くてややこしいんだがお国柄がよく出るもんなんだよな。


 横文字苦手な東方じゃ魔獣、こっちじゃモンスターが主流だが私は両方に慣れちまったからたまにごっちゃになる。

 通じるからいいけど、エルフやドワーフ、精霊や妖精、吸血鬼やドラゴンといった奴らの方言なんかまで加わったらえらいことになる。

 そして国によっては吸血鬼やドラゴンもモンスター扱いされるが、あいつらちゃんと知能あるから分類的にはエルフと同じ扱いなんだよな……まだ学会で発表されてないだけで。


「となると……まさかお前!」


「しーっ、奇麗な花には棘があるというが、棘通り越して猛毒の刃を持っているけどそれがまたぞくぞくするんだよ……想像してみな? あのお堅い仮面みたいな面を紅くして悶えている様。なだらかな体型だけどさらりと触り心地のよさそうな肌。服の下に隠された神秘のボディ……あれにそそられないのは男じゃないぜ?」


「……はっはっはっ、いいなお前! あの司って野郎は拳で漢を示したが、お前は女の趣味で漢を示すってわけか! 口だけ野郎かと思ったが最高だぜ! 今度仕事受ける時は手伝ってやるよ兄弟!」


「おう! そん時は頼むぜ兄弟! なにせ俺は弱いからな! お前らみたいな強くて気が合う奴がいるってなれば心強いぜ!」


 ……すげぇな、田中。

 口八丁であの冒険者どもを丸め込んだ。

 どころか吟遊詩人みたいに私の訓練や司との手合わせ、魔術の訓練について語り投げ銭貰ってるよ。

 まぁそれはそれとして……。


「おい、田中」


「あ、え、ユキさん?」


「私が顔を紅らめて悶えている様が見たいんだってなぁ? この服の下のなだらかな起伏がなんだって?」


「えっと、そ、それはぁ……」


「生娘にセクハラしてんじゃねえよ!」


 死なない程度に田中をぶん投げておく。

 天井に突き刺さる形になったが、腐りかけてた天板目がけたから大したダメージじゃないだろう。

 それにこれで田中の話術による効果は広まる。

 ……正直セクハラされたことは遺憾だが、エルフは三大欲求の中でも性欲が特に少ないからな。

 前世で受けたアレコレ程不愉快ではない。


 まぁそういう目で見られること自体気分は良くないけど、利用できるならするだけだな。

 あ、その後治癒魔術受けて田中も意識取り戻したし、無事全員各種ギルドに登録完了した。

 買い物も、みんなそれぞれ気に入ったアクセサリーとか買ったくらいだったな。

 武器も防具も私が用意する手はずだし、今持たせているのはその試作品で護身用。

 お菓子なんかは王宮で食うやつの方が美味いからあまり買うもの無かったんだよな……。


 てなわけで、みんなそれなりの金を持ったまま帰路に就いた。

 うん、司が詫びとして冒険者たちに酒をふるまったから無一文になったくらいで。

 まぁ、後々の事考えると禍根を残すのは良くないし、田中の入れ知恵もあったけど結果としては良好かもしれんな。

 冒険者ギルドは個人間の争いに手を貸す事は無いが、止める事もしないから司が大量殺人犯になりかねない所だったぜ……。

 もう少し気を付けた方がよかったな。


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