「あー、外出組の諸君。今日は街を見てもらうついでに買い物なんかもしてもらう。ただし今後も訓練に励んでもらうため、娯楽用品を買っても夜更かしのし過ぎには注意する事。それから怪しい商品は私に一声かけてから購入を検討する事。あと生活用品だが王宮で支給されているのは最高級品だから街で適当なの買うのはやめておいた方がいいぞ」
「質問でーす。今後お給金あがったりしますか?」
「いい質問だ田中。もちろんその可能性はある。昨日は絶対に送還の魔法を作り上げるといったが、それが難しいのはリリも私も承知している。故に今後君達が独り立ちしたいと申し出た場合はそれを了承するつもりであり、必要なら爵位や金銭、その他望むものがあれば内容によっては応じる姿勢である」
ちなみに数日話し合ってようやく出た結論だが、これらの決裁書類に了承印を押す事になったリリは徹夜続きで死にかけていた。
後で材料買って美容とストレス軽減のポーション作ってやろう。
「ちなみに監視役として国の隠密部隊も同行するが間違っても攻撃しないようにな。特に司」
「信頼されてないみたいですね」
「いやめっちゃ信じてるよ? お前なら妙な気配がしたのでとか言って殴りかかるんじゃないかなって」
「ばれましたか」
「腕試しは今後レベル上げの授業でやるからそれまで我慢しろ。つーかお前は成長しすぎなんだよ。並の訓練用武器じゃ持たないから真剣でやってるのにクッキー感覚で砕くな!」
「あはは、すみません」
司の成長速度は著しいのだが、ステータスの伸びがいいというレベルではない。
他の奴だったらドーピングとか禁呪とか疑ったけど、こいつに関してはそこの心配はいらないだろう。
ただなぁ……この伸び方は勇者からか、司だからかの判断がつかない。
前者ならまだいいが、後者の場合参考にならない。
今後勇者に出会うとも限らないからできる限り情報を集めておきたいというのに、召喚されたのがこんないかれたやつだとはなぁ……。
「それと各自ギルドに登録してもらうが、王家と私の推薦であるという事を教えておく」
「それはどういう……」
「問題があれば王家と私が動くってことだ。厄介ごとに巻き込まれたなら後ろ盾があると考えればいいが、お前らが何かやらかしたら私達が全力で殺しに行く」
「殺しって……」
「文字通り殺しだよ先生。良識のある奴ならそんな事はしないが、あんたらのいた世界と違ってこっちは物騒なんだ。日夜暗躍する馬鹿のせいで秩序を保つためには見せしめも必要。後ろ盾がデカければデカいほどその内容も苛烈になる」
国が絡んでいると他国にいようが関係なく殺しに行く。
そういうのを担う部署もあるくらいだが……私が育てたユニークジョブ保持者達なら私が直々に出向く必要があるだろう。
ちょっと腕が立つ程度の奴じゃ返り討ちに合うだろうし、そうなった場合矢面に立たされるのはリリだ。
なにより冒険者ギルドは荒くれ者が多いし、魔術師ギルドは研究バカが行きすぎてやばい領域にまで手を出している奴もいる。
その点剣士ギルドや盗賊ギルドなんかは意外とわきまえているが、街中での喧嘩騒ぎは9割こいつらが関わっているんだよな……。
「ちなみにギルドの登録費と年会費は私のポケットマネーだ。サボってた奴らが心入れ替えて訓練に参加しはじめたらそいつらも同じようにギルド登録に不便はさせない」
「あなたのメリットは?」
「いい質問だガーディアン女子。まずギルドの仕事を受ければ金が手に入る。モンスターを倒せば女神の恩寵……お前らで言うところのレベルアップになる。手っ取り早い強化方法だ。人間は種族的には弱いんだがレベルが上がりやすい。そうやってレベルを上げれば訓練の内容が厳しくなってもついていけるようになる」
その言葉を聞いて全員が司に視線を向ける。
わかるぞ、そいつはどうかしていると言いたいんだろ。
私も同じ気持ちだ。
「司は最初からどっかおかしいんだよ。勇者ってジョブの補正か、それとも本人の資質か。少なくともレベル1が手加減しているとはいえ私相手に組手ができて、近衛の訓練を軽々こなすのは異常としか言いようがない」
「でもさ、それってあたしたちを戦力にしようとしてるってことじゃん?」
「半分正解だな。さっき言った通り今後独り立ちするならレベルは最重要だ。金だけ持ってるレベル1とかカモでしかない」
「じゃあ残り半分はそっちの思惑?」
「まぁ……利害の一致ってところか? この国としては勇者と聖女を守りたいが、別に守る義務はない。一方で帝国と聖教国は勇者も聖女もなんとしてでも手に入れたい。そのために一番簡単な方法は人質だな」
「……あたしらが人質にされて、雫ちゃんや司を連れて行くってこと?」
「そうならないように万全の防備を固めているが……正直30人を同時に守りながらリリやその周辺もってなるとな。私も手伝っているんだが結構な無理をしている。だから可能なら自己防衛くらいはできるようになってもらいたい」
「でもそれならギルドの仕事受ける時が一番危ないんじゃない?」
意外と頭いいなこのギャル。
たしかに王宮と、訓練所と、ギルドの仕事先複数となると守りは手薄になるしこちらも手間が増える。
「だから仕事を始める前にお前らを鍛えている。ぶっちゃけ訓練受けてた奴らは魔法系ジョブの奴でも並の戦士くらいなら片手で捻れるくらいには強くなってるからな」
「マジで? あたし攻撃とか超苦手なんだけど」
「ガーディアンってジョブは文字通り盾になる事が仕事だからな。攻撃は最低限だろうけど、その分守りと毒や麻痺への耐性がずば抜けて高い。いっそ剣捨てて盾でぶん殴ったり押しつぶしたりしてもいいかもしれんな」
「あー、防御を攻撃に転じさせるって感じ?」
「本当に意外と頭いいなお前。まぁ正解だ。守りながら突進すればお前の本領発揮ってところだろうな。一緒に前に出て戦える奴と、魔法系ジョブと、回復役が揃えば大体のクエストは難なくこなせるだろ」
まぁ問題があるとすれば、こいつと性格面で相性のいい奴が少なそうなことくらいか。
ガーディアン女子は人当たりはいいが、実のところかなり臆病な性格をしている。
そして依存しやすい傾向にあり、今は先生に依存している。
いい相手がいれば問題ないんだが、クラスの連中には一定の距離を置いているっぽい。
あくまで観察した限りの見解だが……どうしたもんかね。