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第16話

 それから三日、まず先生の方は魔力運用そのものは問題なくなった。

 だがまだ治癒魔術としては弱く、回復に時間がかかる。

 なにより出血に驚くことが多く反応が遅れがちなのが問題だ。

 徐々に克服しているとはいえ、咄嗟の判断力はまだまだといえる。

 逆に言えば三日でマシになったのだから適応力には優れているのかもしれない。

 考えてみれば教師って役職は生徒がころころ変わるし、夏休みデビューなんて言葉もあった通りひと月休みを与えただけではっちゃけるのも出てくるからな。

 そりゃ否が応でも慣れというのは身についているだろう。

 あとはこれが悪い方向で作用しないように育てるだけだ。


 一方司はといえば、相変わらず卑怯上等で姑息な手段も厭わず、かといって武器の修練には人一倍熱心だ。

 既に剣術と武術だけなら近衛兵団長も凌ぐだろう。

 流石に百戦錬磨と唄われた騎士団長には勝てないだろうけど、本気の殺し合いとなれば話は変わってくる。

 勝てるとまではいわないが一矢報いるくらいはできる程度の実力を持っている。

 レベルは上がれば肉体の強度や精神の強さが鍛えられるが、それでも日頃から鍛錬を積んでいないと意味がない。

 近衛兵を戦場に出してもその場の空気に飲まれるだろうけれど、司ならレベル1のまま平然と敵陣に切り込める。


 ある意味ではチートだな。

 サイコパスだけあって精神的ステータスは数値化する意味がない。

 そんで近衛共だが……幸い基礎ができていたからかバランスは良くなった。

 ただその先の、具体的に言うと殴り合いになると小奇麗な貴族流武術しか使おうとしないから徹底的にぶちのめした。

 あいつらに必要なのは見栄えと威力だけの武術よりも、確実に相手を無力化する戦い方だ。

 蹴ったり殴ったり絞めたり投げたり、その際にどこを狙うかとかそういうのは身をもって教えたが、受け身がカスだったので全員気絶するまで投げて回復してを繰り返した。


 実戦に勝る鍛錬無し、三日間だけど多少マシになった。

 まだまだ守るには弱いが、この調子なら旅に出る前にそこそこの防衛力にはなるだろう。

 魔術の訓練は滞りなく、魔術師が使える魔術を披露して、魔法使いが発展応用、魔導士が読みといて魔術に落とし込むというのをひたすら繰り返した。

 転移してきた奴らには基礎を教えつつ、魔術をいくつか教えてやった。

 転移者特有の能力なのか、すぐに使いこなしてみせたが応用までは至らなかったな。

 嬉しい誤算としてはユニークジョブで賢者だった奴、そいつは全ての魔術系ジョブの上位互換だった。


 魔術師よりも素早く魔術を発動し、魔法使いよりも安定した魔法を使い、魔導士よりも正確に術式を読み解く。

 勇者送還の魔法に関してはこいつを中心に組み立てる事になったが、まだレベルが1なのでいずれレベリングに出る必要がある。

 研究メインでやらせるとはいえ戦闘も必要だからな。

 とりあえず勇者召喚の魔法陣に関してはまだ見せていないが、今後の成長次第でという約束をしている。


 いや、絶対に見せるけどな?

 未熟な状態で、魔術や魔法の危険性を知らないままうっかりがあったらやばいから。

 そして最大の問題は、ここにきて一度も訓練に参加していない奴ら。

 書庫で調べ物をしている奴らはいい。

 まずは情報収取というのもわかる。

 一方で部屋に閉じこもっていたり、メイドにちょっかいだしてたり、ただひたすらだらけているだけだったり、遊んでいるだけの奴はどうするべきか……。


 一応監視は付けているがあいつらの生活費だってある。

 いざという時は前線に出す必要だってある。

 誘拐したのはお前らだろと言われたらぐうの音も出ないのだが、お前らが生き残るためにこちらが人員を割くのもまた違うよなぁ。


「というわけで飴と鞭が必要だと思うんだ」


「それは……まぁ、そうですが」


 というわけでリリに相談してみた。

 近衛の話は既に伝えてあるし、好きなように鍛えてくれというお達しも出ている。

 一方で転移者達の処遇に関してはリリも頭を抱えていた。


「どうするのがいいでしょうか」


「普通に金だな。それと外出許可。もちろん見張り兼護衛は付けるが、そろそろ城の外も見せておいた方がいい。必要ならギルドに登録させて、私が指名依頼をだして外の世界に慣れさせてもいい」


「街に出すのは構いませんが……ギルドは時期尚早では?」


「いずれの話だ。つーか賢者のジョブがいるだろ、あいつは他にちょっかいだされる前に魔術師ギルドに所属させるべきだ。国とギルドで二重に守っているとなれば他も手を出せない。なにより失ってはいけない人材だ。必要なら養殖で育てたうえで冒険者ギルドの仕事をさせてもいい」


 各種ギルドは基本的に仲がいい。

 というか私や昔の仲間が創立に携わっているから連携が取れるように体制を整えておいた。

 仮に仲たがいするようなことがあったとしたら地方の支部くらいだが、その手の問題が発生したら都市部にある本部……といっても万が一に備えて複数の本部があるから扱いは微妙なんだがそこに連絡が行く。

 そして最悪の場合、つまり本部同士で揉め事や問題が発生した場合は私の所に連絡が来るようになっているが、創立から400年特に大きな問題は……1度しか起こっていない。


 魔術師ギルドと剣士ギルドの小競り合いが戦争になりかけた時に喧嘩両成敗で剣士を魔術で、魔術師を剣でぶちのめしてギルド長に責任を取らせることで教訓とした。

 魔力の封印と腕の健を切って見せしめとしたけど、効果覿面だったな。

 以後ギルドの腐敗に関する情報は聞かなくなった。


「とりあえず訓練参加者には一律新人騎士見習いと同じ給金を分割して支払う。七日に一度訓練参加者は監視と護衛同伴で外出許可。ただ初日は私が同伴して街の様子を教える事にする。もし監視から逃げたり妙な事をしたら近衛の訓練に強制参加のうえ外出禁止と給金抜きと……あとは寝室を七日間懲罰房に変えるという事で」


「反発が起こりませんか?」


「むしろそれが狙いだ」


「……何を企んでいるのです?」


 リリのジト目、なかなかに可愛らしい。

 私が男だったら押し倒しているかもしれないが……あいにくそっちの気はないんだよな。


「転移者と一口に言っても皆個性がある。訓練に参加している奴の中にも思惑があってという奴がいるだろう。一方で怠けてる奴の中にも何か企んでいる奴はいるはずだ。人間三人集まれば派閥ができるというが、今回はその10倍。相手が魔王となれば一致団結とまではいかなくとも目的だけは揃えてほしいからな」


「そうですね、内部分裂は避けたいところです」


「で、人間ってのは単純なもので共通の敵ってのができると手を組むことが多い。昨日まで殺し合いしてた連中だって横やり入れてきた邪魔者いたらぶち殺すだろ」


「はい、故に戦争に対して横やりを入れて美味しい所だけ持って行こうとする国はありません」


「てなわけで、恨みを買う役割は私が担う。逆にまとめ役は先生……あー、雫さんに任せつつ、その手助けをリリにしてもらいたい」


「なるほど」


 前世で言うところの怖い警官と優しい警官だな。

 片方が脅して弱ったところに優しく付け込むやつ。

 古典的な手段だが、司以外は騙されてくれるだろう。


「あの、万が一ですよ? 不正を働こうとした人がいたらどうします」


「好都合だから見せしめにする」


「それだと反発者が逃げようとしません?」


「想定内だ。そのために逃げやすい訓練を用意する。昔の伝手でちょっと脅してもらうけど……まぁ大した事は無いだろうさ」


「……本気ですか?」


「本気も本気、というよりここで騙されてくれた方が世のためだ。どんな世界から来たとしても子供だろ。大人の悪知恵に対処できるようになっておいてもらわないと困る」


 特に日本人はなぁ……未成熟な子供は割と簡単に騙せるから怖い。

 オンラインゲームなんかでもその手の輩は結構いたし、RTMなんて手法で現金を手に入れるために女のふりをしている男だって山ほどいた。

 まぁその手の奴は叩いてもすぐに復活するから無視するに限るんだけどな。

 サークラ、ダメ絶対。


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