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第14話

「近衛、訓練、終わりました! 手合わせ、願います!」


 座学が一段落したところで息を切らした近衛兵が駆け寄ってきた。

 遠巻きに見ていたけど体力のギリギリまで身体を動かして精神を鍛える感じだったな。

 どっちかというと魔術系ジョブの人間にやらせたい訓練だが……まぁそれはおいおい考えるか。

 司は……流石に三倍となるとまだ続けてるな。


「じゃあ座学はこんなもんで終わりだ。今日は魔力放出の訓練を続ける事。基礎はいかなる状況でも重要だからな。明日からはもっと本格的な訓練をするから今夜はしっかり食って寝ろ」


「「「はい!」」」


 なかなか気合入ってるなぁ。

 これは私もうかうかしてられんかもな。

 ここにいる全員が金の卵であり、そして目標の勇者送還に貢献してくれるだろうから無下にするつもりも無いし。

 がっつりと厳しい訓練詰ませて、裏技で潜在魔力も底上げしてやるか。

 っと、今は近衛兵だな。


「そんじゃとりあえず全員集めて、まとめてかかってこい」


「は、はぁ。ですが……」


「昨日司にボコボコにされた癖に私に勝てると思ってるのか? それとも疲れているから少し休憩させてくれとでも? 敵がそれを許してくれるわけないだろ」


「はっ! 失礼しました! すぐに全員招集します!」


 そう言って走っていく近衛兵のあとをのんびり歩いてついていく。

 しかしどう育てたものか……殺すための戦い方ならいくらでも教えられるんだが、守るための戦い方なんてほとんど知らないんだよなぁ。

 防衛戦とかは経験あるけど、基本的に敵を殲滅するって方針でなんとかしてたし。

 ……あ、そういえば昔馴染みにその辺が得意な奴いたな。

 あいつのメモインベントリにぶち込んであるし……あった。

 えーとなになに? ……ふむふむ、こりゃまた、なんというか近衛は随分と形式が変わりそうだな。


「集まりました! お手合わせ願います!」


 お、ちょうどいい所に。


「早速質問だが、君らジョブはなに?」


「はっ、あらゆる状況に備えられるようノービスです!」


「そりゃ好都合だ。下手にジョブに就いてたら近衛を辞めるように説得しなきゃいけなかったからな」


「そ、それはいったい……」


「まあ順序だてて説明してやるが、ノービスって言うのは長所も短所も無いが器用貧乏だってのは知っているよな」


「はい」


「だが極限まで鍛えれば並大抵のレアジョブ程度ならあしらえるようになる。ただ問題があるとすれば器用貧乏な奴がどうやって女神の恩寵を受けるかだ。お前ら実戦経験少ないけどレベルはそれなり、いわゆる養殖だろ?」


 養殖、あるいはパワーレベリングと言われる手法だ。

 自分よりレベルの高い相手に勝てばかなりの経験値を得られる。

 そのためにそこそこの実力者に同行して、HPを削ってもらったうえで麻痺などの状態異常を与えて動けない所にとどめを刺す。

 それだけでレベルが上がっていく仕組みだが、この方法だとレベルが高いだけのでくの坊にしかならない。


 更に言うとノービスは……酷い言い方になってしまうが器用貧乏と呼ぶのもおこがましい下位互換である。

 全てに繋がるといえば聞こえはいいが、実際のところあらゆる分野で負ける。

 魔術師相手に接近戦をしかければ勝てるが、一般ジョブのシーフ相手には負ける。

 同じように一般ジョブの剣士に暗殺を試みれば成功するが、暗殺用スキルなんか無いので実力が物を言う。


 しかもある程度のレベル差があると並大抵の武器じゃまともに傷つけられないから高額な、それこそミスリルとかオリハルコンみたいな超高額鉱石で作った武器が必要になるわけだ。

 結局のところ本人の技量が全て、鍛えぬけば魔術師に勝てる、シーフに勝てる、剣士にもアサシンにも、大抵のジョブをレベルと技量で押し切ることが可能だがその境地に至るにはとんでもない修練が必要となってくる。


 じゃあ一つの道に絞った場合はどうなるか。

 魔術のみに打ち込み、才能と技量が合わされば魔術師のジョブ相手に互角の戦闘ができるようになる。

 故に基礎にして頂点と言われ、ジョブに就く前であろうと戦いを生業とすることを望む全員がそれなりに修練を積む。


「養殖で育ったお前らはレベルが高いだけで、その身体能力に技量が伴っていない状態だ。だからレベル差がある司にもボコボコにされた。


 苦々し気に顔をしかめる近衛たち。

 まぁ、異世界から来たばかりの勇者レベル1にあれだけやられたらそういう表情にもなるか。


「さて、じゃあここで問題です。王を狙うふとどき者はどうするべきか」


「即座に斬り捨てるべきです!」


「ハズレだ。捕まえて自害させないようにして情報を聞き出す。そして裏にいる存在を確かなものとしたらまとめて葬るべきだ。そうしなければ第二第三の死角が送られてくるだけだからな。しかもどんどん狡猾になっていくぞ」


 暗殺問題ってのは王家だけじゃなく、権力者なら誰もが抱えている。

 その近衛兵が勇者に一方的に負けたとなればしばらく不安定な時期が発生するだろう。

 焚きつけたのは私だから責任はとるが、それ以上にこいつらにも強くなってもらう必要がある。


「そのための手段は……これだ」


 ヒュボッと音を立てたのは私の正拳突き。

 拳、人が生まれて初めて使う攻撃手段。

 単純故に一撃で相手を殺傷するには相当な技量が必要になってくるが、逆に言えば徒手空拳の戦い方を覚えれば相手を殺さずに鎮圧することも可能だ。

 しかも大抵の暗殺者は口内に毒を仕込んでいるが、それを奪うのも容易い。

 更にお得なのは徒手空拳を修めた場合剣や槍といった武器の扱いもおのずとわかるようになる。

 要するに筋肉の動かし方が重要だから、自分でやって、相手の肉の動きを見て、そしたらどこに刃を立てたらいいか見えるようになるというわけだ。


 なんだっけ、柳生だったかな。

 無刀取りって技があったと思うけど、あんな感じ。


「拳法、というやつですか……?」


「王の前で残虐な光景を見せない、毒物を奪いやすい、籠手とか着けてれば威力も上がるし自分を盾にすることもできる、生け捕りにして裏を吐かせつつ誰かを守るには最適だぞ」


 ちなみにこれは私が魔王討伐に同行した際にモンク、いわゆる武僧の言っていた言葉だ。

 そいつの全盛期と比べたらノービスのこいつらを育てまくったとしても抑え込めるかどうかだが、数の暴力に質を加えれば抑え込める可能性も出てくる。

 少なくとも今みたいに剣術……と呼ぶのもアレな剣を振り回すだけよりはよっぽどマシになるだろう。


「さ、選択の時だ。騎士のプライドと近衛としての役割、どっちを取る?」


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