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第13話

 そして翌日からトラブルが発生した……というか、押し付けられた。


「「「よろしくお願いします!」」」


 近衛共が私と司の戦闘訓練に参加することになった。

 もう少し丁寧な言い方をするなら、司ほどじゃないにせよまともに戦えるようにしてほしいという要望があったというべきだな。

 相手? 言うまでもなくリリ。

 一応報告書を上げているんだけど、その際に近衛兵が戦闘慣れしてなくて司に瞬殺されましたって書いたら「じゃあ鍛えてください」と……。


「あー、じゃあまあ、とりあえず普段の訓練をやってから手合わせだな」


「「「はい!」」」


「司はこいつらの3倍、いじめじゃなくてお前の能力だとそのくらいしないと効果が出ないだろうからな」


「わかりました」


 実際司は近衛共がヘロヘロになるような訓練の直後でも平然と走り回れるくらいの余裕を見せていた。

 正直顔色一つ変えないのは化け物だと思うよ?


「さて、もう一つの問題片付けなきゃだなぁ」


 私の背後にずらりと並ぶ魔術研究者達と、数人の異世界人。

 そしてこの国最大の学園の生徒たちである。

 先生の授業に関しての報告を上げたらこっちも鍛えてほしいと言われた。

 流石に契約外だと言ったら色々融通してくれたから……禁書庫の入場権とか、王族御用達の狩場の使用権とか、ダンジョンで見つかるアーティファクトの研究とか。

 餌に釣られた形になったが、こいつらにも授業をすることになった。

 まぁ考え方によっては勇者送還の魔法を作って、安定させて魔術体系に組み込む必要があるのだからその手伝いもさせればいいか。


 ついでに魔法系ジョブの異世界人も鍛えられるなら悪い事じゃない。

 問題があるとすれば、未だに引きこもってる奴らだな。

 図書館に入り浸ってる奴はまだいいんだが、部屋から出ないで寝てるだけのやつとかもいる。

 田中を見習ってほしいもんだ。

 まだまだ解析は完全じゃないけど魔法系、言葉で他人を惑わすタイプだというのに新米騎士団の訓練に参加している。

 裏というか、下心があるのは分かっているが、理由なんかどうでもいい。

 目的があって、そのために努力しているなら問題ない。

 ただ結果に繋がらなくても知ったこっちゃねえけどな。


「さて、今回初めて魔術を学ぶ奴もいるから基礎からやっていくぞ。というか異世界人も学生もまとめて新米騎士団の訓練に参加して体力つけてから来いと言いたいところだが、今日は座学だ。明日からはあの訓練に参加しなかった奴は教授だろうと研究者だろうと座学の参加は認めない」


 くいっと新米の方を指さしてみると学生は顔を青くして、一方で研究者達の一部は困惑している。

 それ以外の奴らは実戦型研究者だな。

 自分の作った魔術を試すために危険地帯に赴いて、嬉々としてやべーのぶっ放す。

 まぁそういう奴がいたから魔術大全なんて本が形になって、153巻まで発行されているんだけどさ。

 ちなみにあと30巻くらいあるけど禁書指定くらってるので、お目当てはそれ。

 引きこもって研究してる時機が多いから結構その手の本買い逃す事が多いんだよ。


「じゃあまず基礎中の基礎からだが、全員魔力放出。経験者は未経験者のフォローをするように」


 昨日先生にやった、体内の魔力を感じ取って外に流すだけの工程。

 これができれば大抵の魔術は行使できるけど、逆に言えばここが関門で師事する相手がいないとなかなかできない。

 独学で成し遂げる奴もいるけどそういうのは例外で、天才と呼ばれるか早熟で終わるかの二択だ。


「さて、潜在的に人間も魔族も魔獣も保有する魔力の総量は変化しない。魔力放出は魔術師や魔法使い、魔導士といった奴らにとって基礎だが極意でもある。いかに少ない魔力消費で強大な魔術を使えるかが肝だ」


「質問です。少ない魔力で大魔術は使えないというのが原則だったはずですがそれについてお聞かせください」


「正しく言うなら魔術の原則としてそれは正しい。だがあくまで実戦仕様となると工程が多すぎたり、無駄が多かったりする。つまるところ戦いの場で役に立つ魔術というのは存在しないと言っていい」


 学問として形にした物が魔術、つまりは数学と同じで正しい計算をすれば正しい答えが出るのと同じだ。

 もっとも簡単な魔力放出ですら長時間続けるとなると算数くらいの問題にはなってくる。


「なら実戦魔術とはどんなものか。安定性を犠牲に工程を無視したり結果だけを出したりする方法だ。分野としては魔法に与するわけだ」


「では魔術師のジョブは無意味という事ですか?」


「いや違う。魔術は複雑な工程。簡単に言うなら計算が必要だがそれを正確に高速で行えるのが魔術師というジョブだ。あいつらの強みは術式として作られた物であれば、覚えて魔力が使えるという前提さえクリアすれば即座に行使できる。だが術式外、方程式の作られていない魔力運用が苦手なのが弱点だな」


 例えるなら人間とコンピューターで計算勝負するようなものだ。

 ジョブは計算ツールであり、最適な動きに導いてくれる。

 レベルが上がればジョブとの連携も強くなり、練度も比例して上がっていくことになる。

 ただ、大半の魔術師は既存の物を使うだけで満足する傾向にあるんだけどな。


「逆に魔法使いはその枠組みにとらわれず、魔術を他者より早く正確に使いながら術式外の、魔法に分類されるものも使える。こっちは魔術師よりも速度と正確性で劣るってのが難点だ」


 よーいどんの早打ちなら魔術師に軍配が上がるが、戦場で重宝されるのは魔法使いだ。

 こいつらの強みは方程式をさらに延長して拡大して数値を上昇させる事。

 あるいは最初っから結果だけを持ってきて敵にぶつける、昨日先生に教えた魔力の可視化と同じ事ができるから敵の数が多くて安全地帯から撃てるなら強い。


「そんで魔導士、滅多にいないジョブだが……」


 数人の学生や研究者たちが手を上げる。

 これだけ魔導士を揃えるとはやるな。


「このジョブは根本的に魔術師や魔法使いとは違う。一般的な戦闘には向いていないが、研究者としては最上級といっていい。魔法使いよりも魔術の組み立てが遅い、術式外の魔法分野においても魔法使いほどの力を発揮しない。だが安定した効果を発揮できるように術式の逆算ができる。あくまでも一般的な戦闘に向いていないだけで、魔術師や魔法使いにとっては天敵だぞ? こいつら目の前で発動した魔術や魔法の数式を一瞬で読み解いてくるからな。滅茶苦茶魔力使った大魔術を低レベルの魔術でかき消してくる。ただやっぱ普通の戦闘じゃそれほど強くないから縁の下の力持ちってやつだな。魔術師達が活躍できる理由は魔導士がいてこそだ」


 まさに導くものってことだな。

 例えるなら魔導士は補給部隊や軍師、魔法使いが砲兵、魔術師は弓兵だ。


「さて、これらからわかるように得手不得手ははっきりしている。話を戻すが魔力放出は今言った全てのジョブに不可欠な物だが、魔術師も少ない魔力で強大な魔術を行使することは可能だ。そのために必要なのが魔法使いによる行使、魔導士による解析、魔術師による再現の三工程。正直魔術を一人で作るってなると人間なら一生かけてようやく一つ、稀代の天才と呼ばれるような奴でも三つが限度だろうな」


「質問です。魔術の歴史はまだ数百年と聞きましたが、それならば稀代の天才が何百人もいないと魔術大全はできていないのではないでしょうか」


「あぁ、そりゃ単純だ。私がこうして講義したのは今回が初めてじゃない。ジョブの究明、魔術の究明、他にも色々手を出してきたが似たような講義は何度かやってる。今魔術大全持ってる奴いるなら最後のページに魔力流してみな。協力者一覧が出てくる仕組みになっているから」


 その筆頭に毎回私の名前が載るようになっているが、これは偽装防止のための措置として作られた隠し魔術である。

 今でも製法が変わっていないか、同じ長命種の仲間が見張ってくれているというから問題ないと思うけどな。


「もし協力者の名前が浮かんでこないようだったらそれ偽物だから。むしろそういうのあったら売ってくれ、パチモンだろうと魔術について書かれてるなら研究したくなる」


 その言葉に一同唖然としたというか、驚いた様子だった。

 意外と掘り出し物あるんだよなぁ。


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