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第3話

 そうと決まれば話は早い。

 飛行船や船、そして転移魔法などを駆使して久しぶりに戻ってきたところ……。


「こんなにデカかったかな……」


 滅茶苦茶栄えた国に辿り着いた。

 私の記憶だともうちょっとこう、蛮族の砦みたいな感じの街だった気がするんだよね。

 常に騎士が見回りしていて、ごろつきと冒険者が殴り合いのけんかして、住民は何かしらの武器を備えている感じだった。

 が、今目の前に広がっているのはかなり平和な光景だ。

 路上で籠を置いて演奏する吟遊詩人、子供はボールをけり合いながら走り回って、店先のおばちゃんはのんびりその光景を眺めている。

 あまりのギャップに驚きを通り越してびっくりしてしまった。


「はー、あの国がこんな風になるとはなぁ」


 思わず言葉が漏れてしまった。

 それに反応したのは門番をしていた騎士さん。


「エルフの寿命からすれば一瞬かもしれませんが、国というのは生き物ですから。時を重ねれば成長もしますし、腐敗もします。それを繰り返してより良い国を作っていくのが我々国民であり、国にとっての臓器です」


「この国の騎士も随分と立派な事を言うようになったねぇ」


 感慨深いなぁ。

 通行証を見せただけで最上位の敬礼されたのは驚いたけど、言葉そのものがまさに騎士と言った感じである。

 しかも嘘とか取り繕った様子が無い。

 昔の騎士は凄かったぞ……嘘と謀略と暴力でならず者を抑え込んでいた感じだった。

 自慢をするならば私の弟子と養子がそんな国に英知をもたらしたと言われているのだが、まぁ控えめに言って蛮族の集まりだったからね。

 酒場で酔っ払った司祭と騎士が酒瓶で殴り合うなんてのはしょっちゅうだったけど、あれはあれで面白かった。

 御祭りみたいな感じでみんな毎日楽しそうだったな……今はまた違った形で楽しめ総出少しわくわくする。


「して、本当に馬車は用意しなくてよろしいのですか?」


「私は根っこから冒険者でね。新しい街とかに来た時はとりあえず歩いて見て回りたいのさ」


「そうですか。あの紹介状をお持ちという事であれば実力も確かでしょう。ですが治安の悪い地区もありますのでご注意を」


「丁寧にありがとう。とはいえ今更手癖の悪い程度の人達にしてやられるほど抜けてないから大丈夫だよ」


「そうですか。来訪に関しては既に鳩を飛ばしておりますので万が一紹介状を失くした際はここに来ていただければ対処いたしますので」


「そりゃまた、随分と優しい対応だね。ま、問題ないさ」


 そう言って空間魔法で作り出した収納口に紹介状を突っ込む。

 魔王を倒した時だから400年ちょっと前かな?

 私とは違い召喚されてこの世界に来た人間がいた。

 日本人で、勇者のジョブを持つ青年だったけど異世界から来た人特有の能力がインベントリと鑑定のスキルだった。

 一般人には無縁だったけれど魔法とは便利なものでねぇ、ゲーム時代は攻撃と回復、それと味方の強化と敵の弱体化鹿使い道がなかったけど、その体系を学べば色々な事ができるって判明した。

 そこで都市間を行き来できる転移魔法を応用した空間魔法。

 今じゃそこそこ魔力量が多い人なら使えるようになっているもので、商人なんかはこの手の魔法使いをこぞって雇うようになった原因の一つ。


 空間収納の魔法である。

 文字通り異空間に物質を収納する魔法で、インベントリの互換として活用できる。

 私自身鑑定もインベントリも使えるけれど、既存の魔術に適応させて誰でも使えるようにしたという事で多方面から国へ来ないかと言われるようになって面倒くさくて海を渡ったという経緯もあるんだけどね……。


「空間魔法もお手の物、流石ですな」


「ちょっと魔力が多ければ誰でもできるだろう? エルフなら楽勝さ」


 テンプレにのっとったゲームだったが故にエルフは長命で魔力が多く、そして器用というステータスだ。

 けどその代わりに体力と筋力が低めに設定されており、魔法や弓、あるいは武闘家といった手先の器用さか魔力を使ったジョブを得意としていた。

 ゲーム中に職業、ジョブを切り替えることができたが、敵の注意を引いて攻撃を引き受けるタンク、つまり壁役などをやらせると他の種族よりも死にやすいので壁なのは胸だけにしておけというジョークまで生まれていた。

 ……そう、エルフは絶壁だ。


 乳のサイズを変えられるのにどれだけ盛っても絶壁が段差に変わった程度でしかない。

 この辺はゲームの制作会社がやたら設定に拘っていたのが原因で、森という空間で生活するには乳がでかいと邪魔になるからという理由があるらしい。

 アマゾネスから着想を得たというが、ダークエルフという放牧民達はたわわである。

 そして一見するとギャグ枠にも見えるオークがプレイアブル種族、まぁプレイヤーが遊べる種族として設定されていたのだが見た目以外は滅茶苦茶性能がいい。

 基本種族としてトレーラーに出演していた人間種の上位互換とまで言われたオークだが、その性能が高すぎたため集え豚共、散れ非豚共という言葉が生まれて街がオークに占拠されていたこともあった。


 それこそ運営がテコ入れでやけくそアッパー調整をいれて、他の種族の能力値を上げて種族差が無くなるくらいには。

 結果的に絶壁タンクもそこそこの地位を得たのだが、エルフの魔法はとてつもなく強力なものになってしまったためオークの村がエルフの魔法で燃やし尽くされたなどと揶揄されるようになった。

 かくもオンラインゲームの調整とは難しい物であるという教訓として語り継がれている。

 ゲームのボスである魔王よりも種族間での争いが激しいとまで言われてしまったのは……まぁ仕方ない事だろう。


 人間の街がオークに占領され、オークたちが占領していた街がエルフに蹂躙され、それを脳筋突破してきたオーガによってボロボロにされたというオチがついて最後は外見と設定のみでステータスは大体横並びになったのだ。

 だがその設定がこの世界では生きている。

 エルフは長命で魔力量が膨大、ドワーフは力持ちで小柄でエルフほどではないが長生き、オークはドワーフ以上のパワーを持つが短命、人間は平均的な能力値等等。


「時折エルフの方が羨ましくなりますよ」


「あまりいい物ではないですよ。特に私みたいな変わり者はね」


 そしてハイエルフ、エルフ系統の中でも後々のアップデートで追加された種族。

 特徴は貧弱の一言。

 最終的なアップデート前に追加された種族だったが、防御系統は軒並みエルフをも下回るホビットよりも低く、魔力と器用さだけは圧倒的。

 だがその打たれ弱さから魔法系統のジョブ以外に敵性がないとされ、近接ハイエルフは地雷とまで言われた。

 実際私もレベリングの際にパーティを追い出されるキックという機能を使われたことは多数、ソロでコツコツ続けた時は何度も死んだし、フレンドからはその虚弱な種族で近接戦闘は諦めろと言われた。


 が、凝り性の私は全ジョブのレベルをカンストさせるまで頑張った。

 結果的に大変だったが、アップデートで種族ごとのステータス差が無くなったことで一気に前線に駆り出されるようになった。

 そして今は今で生まれは貧弱だったが鍛えたから人並みには前線に出られるし、ジョブ補正や装備、レベル差などで大暴れできている。

 しないけどね?


「しかしまぁ、本当に少し見ない間に変わりましたねぇ」


「エルフのすこしは信用するなと言いますが、どれほどの時間を指しているのか測りかねます。少なくとも私が生まれた時からこの平和な光景が保たれていましたから」


「あー、そうなんですか……」


 うん、やはりエルフのすこしは信用してはいけないんだな。

 ……確かに100年や200年を少しと言うのはおかしいか。


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