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第2話

 私が生まれた土地から遥か東方、もう陸路で対岸に行ってから船出した方が早いでしょというような所で私は研究を進めていた。

 ハイエルフに転生してはや500年、勇者一行と魔王討伐の旅に出たり、孤児を拾って子育てしたり、弟子入り志願してきた子にあれこれ教えたり、魔女と呼ばれて森の奥に引きこもって研究をしたり……私の長い人生は思いのほかあわただしい物だった。


 だがエルフは時間間隔が人間とは違う。

 500年と言ったけど、体感5年くらいな感じである。

 だからか、珍妙な言葉が生まれたりもした。。

 エルフのちょっととドワーフの少しだけは信じるなと。


 うんうん、よくわかる。

 勇者の仲間にもドワーフはいたけど、少しだけお酒飲みたいって言ったのに朝まで飲んでたし、私がちょっと買い物してくるって言って魔道具店はしごしてたら日が暮れてて滅茶苦茶怒られたりもした。

 結局のところ旧友たちとは死に別れ、弟子にとった子供は孤児だった養子と結婚して人類最強の魔法使いと呼ばれるようになって偉く出世した。

 たしか最後は王宮に勤めるようになって、学校作って魔法を学問として教える魔導士と呼ばれるようになってたはず。


 今でもその学派は残ってるのかな……引きこもっている間に消えてたら少し悲しい。

 一応その子達の子孫から手紙が届く仕組みにしているし、数年に一度報告書みたいな手紙が届くから無事繫栄しているのだろう。

 けどここにきて状況が変わった様子である。


「んー、今更呼び出しかぁ……」


 東方ではそれなりに有名な錬丹術なる技術体系を解き明かしていた最中だった。

 久しぶりに届いた手紙に書かれていたのは魔王が復活するという神託があったという内容。

 そして急で申し訳ないが旅費は負担するから一度顔を出してほしいという内容だった。

 子供達の巣立ちの時に気まぐれに作ってプレゼントした魔道具だけど相手がどこにいるかまではわからないので、その旨を書いて送り返したら数秒で返事が返ってきた。

 うむ、メールを基にした魔法の道具だ。

 本当に便利だけど、メールだとアドレスとかがややこしかったからトランシーバー形式にしたのだ。

 要するに二個で一つ、同じ物を作っても対になっていないと手紙を送れないという仕組みだが、遠くにいる親族とか知人とやり取りするには十分だった。


「あー、ハーネロス王国のあった場所かな? 何年か前に統一王朝になったって聞いたけど……あ、これ通行証も兼ねてるのか」


 手紙に紛れて国への来訪を歓迎するという内容の書状と、そこにでかでかと何かの紋章が押されていた。

 ここ数十年故郷の大陸には戻っていないし、久しぶりに帰るのもいいかもしれないなぁ。

 研究も進んできたし、この調子ならあと100年もすれば解き明かせる。

 エルフもハイエルフも滅茶苦茶長生きするからね。

 短くて1000年、長ければその数十倍は生きられると聞いているけどそこまで長寿なエルフは見たことがない。

 私の、この世界での両親ですらまだ800歳くらいだ。


 更に言うとハイエルフとエルフとハーフエルフは全て寿命が違うし、隔世遺伝でエルフの親からハイエルフが生まれたり、ハイエルフからハーフエルフが生まれたりするので面倒くさい。

 事実私の両親は普通のエルフだった。

 おかげで小さな里の幼き長としてあがめられたりして、嫌になって家出して今に至る。

 故郷に帰る気はあまりない。

 このままだと一生里に閉じ込められそうだからね……当時の長老連中もまだ生きているだろう。

 一番の高齢でも1500歳とかだったから何もなければ存命だと思う。

 とても小さな集落で、だいたい30人くらいでのんびりスローライフしていた。

 テンプレのエルフ狩りとかも無かったし、今思えばかなり辺鄙な土地だったな……死の森とか言われてた場所だったし未だに開拓されていないっぽいのも納得だ。

 さて、そんな事よりもこの手紙だが……。


「まぁ、久しぶりに弟子の子孫見に行くのも悪くないか」


 魔王が復活したら失伝するかもしれない技術が色々ある。

 実際私が魔王討伐パーティにいた時には数多くの技術が失われたし、専門家なんかは真っ先に殺された。

 当時の魔王は強いだけじゃなく頭もよかったから、今回復活するのがそいつだとしたら人類の英知がまた失われることになりかねない。

 生き残った仲間と一緒に復興した国々が焼かれるのも腹立たしいし、やれることはやるかな。

 それにしても魔王復活はともかくとして一度顔を見せてほしいというのはどういう事だろう。

 直球で魔王討伐に参加してほしいって言えばいいのに、なぜこんな遠回しな言い方をするのかが気になるなぁ。


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