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第27話 賽は投げられた

 目の前にずらっと並ぶ、半透明の直方体。それぞれには英語で職名が記されている。

 その上には国家安全保障会議執行部の表示が、これまた英語で表記されている。通称エクスコム。十数名の、アメリカ合衆国の安全保障に責任あるトップからなる会議である。

 議長は——大統領たる女子高生の、宍戸奈穂。その人である。

(困ったな……)

 別に予備知識があるわけでもない。

 同年代の平均よりましとはいえ、政治や国防にかくべつ興味がある奈穂ではない。そもそも女子高生にそういった適性を求めるのは酷というものだろう。

 そんなことはお構いなしに、シミュレータのAIは議論を始める。

 その議論を横目に、別回線で調べ物を始める奈穂。この事件の背景や、史実の内容結果。そして自分がそもそも何者かという基本的なことに至るまで。

 奈穂は、こういう抜き打ちテストには強いほうだった。先生がアンフェアなテストを出せば出すほど、燃えるほうである。だからこそ中学の世界史で百点を取れなかったことをいまだに悔しく思っているわけではあるが。

『これからの選択肢を提起します』

 議論がまとまったらしい。それを奈穂は確認する。

 1 外交交渉のみをおこなう

 2 キューバ:カストロ議長との秘密協議

 3 海上封鎖

 4 空爆

 5 キューバへの軍事侵攻

 6 nothing to do

 えっ、こんなに……思わずそう声を出しそうになる奈穂。それを見下ろす桃。

 目の前に並ぶ六つのウィンドウを、指さしながら確認する。

 たぶん、6は論外だろう。

 5の選択肢もだめだ。先ほど確認した『冷戦』の意味を噛みしめる。お互いに直接戦争をすれば、核兵器の打ち合いになり世界が滅亡する——それを避けた結果のにらみ合いが、冷たい戦争=冷戦をもたらしたと。ここで軍事侵攻すれば戦争になるだろうし、それは大戦争に発展することは明らかだ。

 二つのウィンドウを消す。メンバーたちは、無反応。当然の選択らしい。

 1と2も難しそうに見えた。なんとなく、ではあるが。そもそもその程度で済むのなら、こんな大仰な会議など開く必要もないはずだ。

 奈穂の頭脳が全回転する。目を閉じて集中する奈穂。

「前回のシミュレーションをみて、宍戸さんは戦術の人だと思っていたけど、戦略のさえも持っているようですね。素晴らしい。『英雄』の称号にふさわしい生徒かもしれませんね——歴史上の人物でいえば、『ナポレオン=ボナパルト』のような——」

 かつて、知恵に言われたことを奈穂は思い出す。ただ今はそれにかまっている場合ではない。急いで選択をしなければならないのだから。

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