青の虚空を切り裂く銀の弾丸『零戦』二十機を先頭に、高空には『九九艦爆』四十八機が、低空には『九七艦攻』五十七機が編隊をなして進んでいった。
一〇〇機以上の攻撃隊が目指すは、アメリカ空母『エンタープライズ』及び『ホーネット』。無線により『赤城』と『蒼龍』大破の状況を知った乗組員の士気は極めて高い。特に両空母所属の搭乗員たちは母船の敵討ちを果たそうと、その闘志を燃え上がらせていた。
前衛の戦闘機『F4Fワイルドキャット』十数機の防御陣を、難なく突破する。
「この段階では、『零戦』に勝てる機体、そして戦法はまだないからね」
両手を大きく開く墨子。攻撃部隊が四つの編隊に散開する。直掩機も難なくかわし、駆逐隊のピケットラインをも軽々と乗り越える。
あとは、日本側の一方的な攻撃であった。高空からの急降下爆撃と、低空からの雷撃。ほぼ同時に行われたそれはあっというまに二空母を壊滅させた。
ダメージコントロールに優れているアメリカ空母とはいえ、甲板と船体横に同時に被弾しては、手の施しようがない。
『エンタープライズ』:爆弾四発着弾 魚雷左舷二発命中
『ホーネット』:爆弾三発着弾 魚雷右舷四発命中
その表示を、ぎりぎりと歯ぎしりをしながら見つめる知恵。
右手を軽く上げ、総員退避命令を発する。消火活動どころでは、ない。特に『ホーネット』は、機関部にも爆発が及び、自力航行が不可能な状態にあった。
一方、日本攻撃隊は、空母に十分なダメージを与えたことを確認すると、残りの大型艦を中心に魚雷をぶちまける。
直撃をうけ真っ二つに折れる重巡『ミネアポリス』。その爆発と前後して、空母『エンタープライズ』が轟音とともに大きく傾斜する。第十六任務部隊は、もはや艦隊としての機能を有していない状態だった。それでも、知恵は最善を尽くす。残存の駆逐艦を中心として、生存者の救出活動が続けられる。
そして日本の攻撃隊が去った後に、直掩機である『F4Fワイルドキャット』を別方向に向ける。行く先は第十七任務部隊。空母『ヨークタウン』に可能な機体は収納し、それができなくとも人員だけでも収容できるように準備を整える。
機体も貴重だが搭乗員の命に変えられるものはない。人道的な意味だけではなく、ソフトウェアとしての価値は取替のきかないものであった。
「やられちゃったね」
墨子の方を振り返り、そうつぶやく知恵。
「いやいや、これからでしょ」
両手を頭の後ろに組み、軽い調子でそう答える墨子。
ただただ観戦するのみの奈穂の前に、新しいフィジカルウィンドウが出現する。
「日本側残存空母 『赤城』『飛龍』」
「アメリカ側残存空母 『ヨークタウン』」
数の上では墨子のほうが有利だが、知恵の『ヨークタウン』にはまだ無傷の攻撃部隊が六十機近く温存されている。一方墨子の側は今攻撃を終了したばかりで、次の攻撃を行うには時間が必要だった。
史実と同じ、第二ラウンドが始まろうとしている。どちらかが絶対的に有利というわけではない、お互いの間に勝利がゆらゆらとたゆたう状況の中で——