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第12話 第二段作戦開始

 まばゆい光が晴れると、周辺に青い空間広がる。そして大きな青いキャンバスの上に、投げ出されたような解放感を奈穂は感じた。

「ここは……」

 思わず、口に出す奈穂。

 周りを見回してみる。

 空中に浮かんでいるように感じる自分がいる。フィジカルVR空間の効果だろうか。下の青いキャンバスが、波打っているようにも見えた。これは、海。そして自分が今いる場所が、空中であることを認識する。

「北緯二八度一三分、西経一七七度二二分……いわゆる『ミッドウェー島』だね」

 知恵のその言葉を、奈穂は反芻する。

 ミッドウェー島。

 確か太平洋戦争の戦場の島であったことを思い出した。それは思い出したくもない、中学の歴史の授業で習った語句であった。

「ここで孫さんと私が……雌雄を決する!」

 上から聞こえる大きな声。普段からは、想像もつかないような知恵のテンションの高さを感じる。

 ひらひらと知恵の衣装が揺れる。白い制服。それは先ほどまで着ていた部屋着とは、全く異なっていた。そして胸の金色の、ロープらしきものも揺れる。下こそ、スカートだったがそれは軍服のようであった。

「知恵ちゃん……その恰好は……」

「これはフィジカル・プロジェクション=コスチューム。この、シミュレーションをする際のユニフォームだよ。歴史にあった衣装が、自動的に選択される。カッコいいかな?」

 ひらりと踵を返す知恵。そして一息おいて宣言する。

「私が担当するのは、アメリカ第十七任務部隊及び第十八任務部隊」

 さっと腕をたなびかせると、そこには青色の3D画像が浮かび上がる。青く四角いユニットが三つ。

「空母は第十七任務部隊所属『ヨークタウン』、第十六任務部隊所属『エンタープライズ』および『ホーネット』、他艦船は以下の通り」

 青いユニットが、立体的に流れるように浮かび上がる。それを説明する、情報の洪水とともに。

「たいしたものじゃねぇか」

 別方面からの声。墨子のものである。

「大日本帝国連合艦隊、第一航空艦隊・機動艦隊参る!」

 これまた、青い軍服をまとった墨子。同じように身をひるがえすと、赤いユニットが四つ登場する。

「空母は第一航空戦隊『赤城』および『加賀』、第二航空戦隊『飛龍』および『蒼龍』他艦船は……こうだ!」

 同じように、赤いユニットが頭の上に現れる。

「史実では、太平洋戦争のターニングポイントとなったこの戦い、ひっくり返して見せるぜ!」

 意気込む墨子。それに対して、目も合わせず、知恵はつぶやく。

「史実以上の……一方的な勝利を!」

 それが、ゲームの開始を意味していた。

 奈穂は、ようやく理解する。このアリストテレス=システムの真の意味を。

 ただ単に歴史を、シミュレーションするだけではない。歴史の『登場人物』となって、歴史を動かす。その結果が史実通りか、またはそうでないかに関わらず、生徒同士がバトルで最終的な勝負を決めるというシステム。これが、この学園の流儀であるということを。

 もう一度、まばゆいほどの光があふれる。その光が晴れたときに始まる——何十年ぶりかのミッドウェー海戦が——

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