恐怖の遠心力脱水のあと、陰干しできないからと今日は魔法で乾かされた。と言ってもリーゼロッテの腕なので、それもまた恐怖でしかなかったが、幸いにも上手くいったらしい。
十回に一回くらいしかまともに使えないと呟かれたときにはある意味死を覚悟したけれど、結果的には失敗したときのミルクのように爆散したりすることもなく、髪が焦げることも四肢を欠損することもなく無事に洗い立てのぬいぐるみに戻ることができた。
その後、当たり前のように着せられたのはまたしても淡い水色のふわふわもこもこのパジャマだった。これはもうシリウス専用の服ということだろうか。そんな姿のまま先に寝ててねと布団に入れられ、ぽんぽんと上から優しく撫で付けられた。……とりあえず、今夜も添い寝は確定らしい。
洗った服の方は朝までには乾くだろうと魔法は使わず、丁寧に部屋干しされている。別に俺もそれで構わなかったのに、と思うものの、それを伝える術はなかった。
そしてリーゼロッテはいま、温かなお湯に浸かりながらのんきに鼻歌を歌っている。アメニティとして用意されていた花びらの入浴剤もとても気に入ったらしい。
ドア越しに微かに聞こえるその歌声は相変わらずご機嫌で、改めて幸せなやつだなとシリウスは思った。
「はぁ、気持ちよかったあ……」
思いのほか長湯をしてしまった。いつもはどちらかと言うと早い方なのに、あまりの心地良さにそのまま寝てしまいそうになったくらいだった。
そして待たされていたシリウスもまたいつのまにか睡魔に誘われ、珍しくリーゼロッテよりも先に夢の中だった。
リーゼロッテは部屋に用意されていたパジャマを借りることにした。前開きのワンピースタイプのそれはクリーム色で、肌あたりも優しく着心地が良かった。髪を乾かし、歯磨きを済ませたリーゼロッテは幸せそうな表情のまま部屋の電気を消した。ベッドに入り、ベッドサイドランプだけの中で布団を肩まで引き上げる。ふかふかの上掛けもおひさまの匂いがするし、白くて大きめの枕もちょうどいい硬さだった。食事もとても美味しかったし、ここは何もかも最高だとリーゼロッテはひとり破顔する。
「ねぇ、シェリー。お礼もかねて、また泊りにこようね」
リーゼロッテは隣に寝かせていたぬいぐるみ(シリウス)に目を向けると、そっと持ち上げて顔を見る。にこにこと笑顔で話しかけながら、愛おしそうにその髪や額を指先で撫でた。例の脱水は思いのほか体力を奪うのか、シリウスは意外にも深い眠りの中で、今夜は額に口付けられても気づかない。
「……おやすみ、シェリー……」
気分が上がったままのリーゼロッテは降りてきた眠気も相俟ってさらに頬へと顔をくっつける。抱き締める仕草の延長で、半ば無意識に鼻先にも唇を寄せた。〝ももちゃん〟にはいままでにも何度かしたことがあったけれど、それをシリウスにしたのは初めてのことだった。
……もっとも、そのときのことは二人共まるで覚えていないのだけれど。