明け方、一番最初に目を覚ましたのはシリウスだった。
この姿になってからは食事の必要はないらしく、腹も減らないし排出する方の生理的欲求もない。ただ眠気だけはいつも通りにやってきて、夜は眠くなるし朝になったら勝手に意識が浮上する。
対してリーゼロッテは朝が苦手なようで、いまもまだポリーと一緒に気持ち良さそうな寝顔をさらして眠っていた。
まぁ、もともとシリウスは早寝早起きを心がけている方だし、一人暮らしをしていてもきっちり三食、バランスのいい食事を摂って運動もするという規則正しい生活を送るたちだ。日頃からなるようになる、とのんびりした性格のリーゼロッテとは比べる方が間違っているのかもしれない。
(せめて少しでも動けるか、声が出たら違うのにな……)
この状況で自分に何ができるかはわからないが、少なくともこのまま寝坊する可能性の高いリーゼロッテをたたき起こすことくらいできるだろう。
(いや、もし可能なら、声より動けるようになる方がいいか)
だって声を聞かれるとばれてしまう可能性がある。その際の声質にもよるけれど、仮に元のままだった場合、さすがにリーゼロッテだってなにかしら思うはずだ。声だけじゃない、話し方だって、その方向性だって、おさななじみというだけあってリーゼロッテが記憶していることはきっと多い。
となると、大なり小なり声を作らなければならなくなる。できればイントネーションも変えたい。ミカエルのように美しいファルセットで地方弁を――なんて器用な真似はできないが、例えばカエルが潰れたような声にして、かつ年寄りのように話すとか……?
(……いや、だからなんで俺がそこまで)
シリウスは呟き、ひそやかに溜息をつく。
「ん……」
見るともなしに見つめる先で、リーゼロッテとポリーが同時に寝返りを打った。同じ格好で、同じ向きに伸ばされたポリーの手が、リーゼロッテの頬を押し上げる。それでもリーゼロッテは絶賛夢の中だった。