今朝のホットミルクは爆発していた。
昨日と同じようにテーブルのかごの中からその光景を眺めていたシリウスは、ボンという音と共に上がったミルクの噴水に唖然とした。やはりリーゼロッテの魔法の腕は怪しいらしい。何度か同乗させてもらった飛行魔法に問題はなさそうだったが、転移魔法も安定して使えるのは対象が限られるようだし、その他はご覧の通りといわんばかりだった。
「失敗しちゃった……」
リーゼロッテは慣れた様子で掃除を済ませると、マグカップに残っていた残りわずかなミルクを持ってテーブルに戻る。いくぶんばつが悪そうに眉を下げてはいたものの、それでもリーゼロッテは舌先を小さく覗かせて明るく笑っていた。
そういうところが理解できない。相変わらず呆れるしかないシリウスだったが、一方でひとつの失敗にとらわれていつまでもくよくよするよりはマシかもしれないとも思う。
「上手な人は料理も魔法でぱーっとやっちゃうのにね」
リーゼロッテは最後に残っていたミニトマトを口に入れると、「ごちそうさま」と手を合わせる。ミルクの失敗はあったけれど、トーストも卵も昨日よりはずっといい出来だったらしい。満足そうに席を立ったリーゼロッテは、手早く片付けを終わらせ、エプロンを外す。濃紺の法衣のフードは相変わらず二股で、長めの髪を後ろに流す仕草に合わせてぴょこんと揺れた。