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03.ことの顛末

 だいたい、なんで俺がこんな目に……。


 物干し竿にひっかけられたかごの中で、シリウスは柔らかな雲の流れる空を見上げる。影干し用にシェードのかけられたそれはさながら天蓋付きベッドのようで、そこに裸のまま横たわっているシリウスぬいぐるみはどこか遠い目で記憶を辿る。


 シリウスはもともと身長も一八〇はあるすらりとした青年だ。職業は薬の調合師。普段は個人で薬屋を営んでいる。


 魔法使いを含むさまざまな種族が存在するこの世界で、シリウスは珍しくも〝普通の人間〟に類されていた。ちなみにリーゼロッテは魔法使いの血が濃く現れており、戸籍上の種族の欄にもそう書かれている。


 どの種族であろうとすでに純血は稀とされる時代だ。それを鑑みればシリウスにもなにかしらの血が混ざっているのだろうが、生まれてこの方、そういった特性が現れたことは一度もなかった。それでもシリウスは優秀だった。おさななじみと共に卒業した学校でも当然のように首席だったし、運動神経も良ければ料理もできる。なにをしてもさまになるし、特に苦労もなくなんでもこなしてしまうタイプだった。更に言えば顔もスタイルも申し分なく、さらりと流れる濃紺の髪は少し長めで、同色の瞳はやや切れ長、めったに笑わない印象も相俟ってふしぎと目を引く存在でもあった。


 そのわりにこれまで――今年で二十三歳になるのに――特定の相手と付き合ったことがないのは、よく言えばクール、悪く言えば無愛想、前髪の間から覗く髪色の眼差しはともすれば冷たくも見え、口を開けば辛辣、ばかにはばかというたちでもあることが要因の一つとなっているに違いなかった。


 とは言え、もともと根は真面目で面倒見がいい性格でもある。学校でも満場一致で生徒会長を務めた経験もあるくらいだ。なんだかんだ言いつつリーゼロッテとの縁が切れないのもそれがあるからかもしれない。


 そんなシリウスが、〝彼女〟と出会ったのは数日前のことだった。


 その日、シリウスは仕事帰りに一人の女性が道端で動けなくなっていることに気が付いた。女性は腰を痛めており、シリウスは言われるまま彼女に手を貸した。近くの診療所へと案内し、その後はもともと行く予定だったといういくつかの目的地にも乞われるままに同行した。用が終われば宿泊しているという宿まで送り、職業がら処方できる薬の用意までしてやった。――その礼が、それだった。


 女性は知る人ぞ知る大魔法使いで、そして生粋のおもしろがりだった。


 シリウスの意識はそこで一旦途切れている。そして次に意識を取り戻したときには、すっかりぬいぐるみの姿になっていた。それどころか、気が付けば集団でカラスにつつかれながら、まったく快適ではない空の旅へと出発していた。


 それからのことは前述の通りだ。結果シリウスはここ――リーゼロッテのもとにいる。

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